アニメ、マンガ、ゲーム、特撮などの文化ハブとなる「メディア芸術ナショナルセンター(仮)」の整備に向けて、文化庁が本格的に動き出す。2024年8月30日、文化庁が財務省に提出した令和7年度概算要求に「メディア芸術センター(仮)の整備」の予算が盛り込まれた。
関連予算は「国立文化施設の機能強化」に組み込まれており、独立行政法人国立美術館の新規事業として9300万円を要求する。「産業界と連携し、メディア芸術ナショナルセンター(仮称)の機能を有する拠点の整備を推進する」と説明している。
文化庁はこのほか国立美術館の新規事業として「美術品のデジタル化推進とコレクション管理業務標準化事業」としても1億5200万円を計上している。こちらもアニメ、マンガ、ゲーム、特撮にも関連している可能性がある。
メディア芸術ナショナルセンターは、長年、アニメ、マンガ、ゲームなどの分野で関連資料の収集・保存、調査研究、展示/活用、人材育成・教育の拠点として構想されている国立の文化拠点だ。
同様の施設は2009年に麻生政権のもとで目指していた「国立メディア芸術総合センター」があったが、政権交代で挫折した。以来、拠点構想はたびたび浮上してきたが、なかなか実現のめどが立たなかった。
今回は概算要求の段階だが、実現の可能性は高いとみられる。ひとつは2024年6月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」に、メディア芸術ナショナルセンターが盛りこまれたことだ。メディア芸術ナショナルセンターの実現は政府の方針でもある。
また概算要求に先立つ8月28日には、文化庁において「マンガ、アニメ、特撮、ゲーム等の国際的な振興拠点及びメディア芸術連携基盤等整備推進に関する検討会」が設けられた。
検討会は政府方針を踏まえて、メディア芸術振興・国際的な拠点の在り方を検討する。メディア芸術ナショナルセンターの規模や場所、機能、運営、既存組織との連携なども中心議題になるとみられる。検討会のメンバーには、座長である岡本美津子・東京藝術大学副学長、アニプレックス代表取締役岩上敦宏氏、庵野秀明氏といった業界関係者・専門家が参加している。
事業推進において懸念されるのが、2009年の「国立メディア芸術総合センター」のような強い反対などが起きて挫折することだ。
しかし今回の事業内容や取り巻く環境は、2009年と大きく変っている。国立メディア芸術総合センター構想では組織や運営方針・プランがないなかで施設の建設が先行していたが、メディア芸術ナショナルセンターでは拠点の方向性や在り方を先立って討議を続けてきた。これまで「マンガ」「アニメ」「ゲーム」「メディアアート」の4分野とされていたメディア芸術から、「メディアアート」を外し「特撮」を組み込んだ新たなかたちになったのも、そうした過程のひとつであろう。
また日本の事業が軌道に乗らないなかで、中国やフランス、韓国、台湾などアニメ、マンガ、ゲームの振興を目指す国や地域では、国や行政の支援を受けた大規模な拠点が次々と立ち上がっている。関連分野の研究者や文化人、業界からも、日本の立ち遅れを懸念する声があがっている。
ただし今回の整備予算は9300万円で、まだ整備に向けた検討段階、第一歩ともいえる。本格的な実現に向けては、まだまだ時間がかかりそうだ。