世界最大のアニメーション映画祭のアヌシー国際アニメーション映画祭が、2024年も6月9日から15日までの7日間、フランスで開催された。最終日のクロージングセレモニーでは、注目のコンペティション部門の受賞者、受賞作品が発表され、大きな盛り上がりをみせた。
そのなかで日本からの作品もこのセレモニーを彩った。八鍬新之助が監督した『窓ぎわのトットちゃん』が、長編映画のポール・グリモー賞に輝いたのだ。ポール・グリモー賞は長編部門でグランプリにあたるクリスタル賞、審査員賞と並ぶ主要賞のひとつ。『王と鳥』などで知られる巨匠ポール・グリモーにちなんだ賞で、監督や演出で優れた成果を残した作品に与えられる。昨年の『夏へのトンネル、さよならの出口』に続き2年連続で日本作品がこの賞に輝いた。
『窓ぎわのトットちゃん』はタレントで女優の黒柳徹子が、自らの幼き日を描いた自伝的小説が原作となっている。社会の規範に当てはまらない女の子のトットちゃんの日常を第二次世界大戦の起きた80年前に時代を背景に描いた。八鍬監督は脚本も担当し、キャラクターデザインは金子志津枝、アニメーション制作はシンエイ動画が務めた。
2024年の長編コンペティションには過去最高の100本以上のエントリーがあり、選出された作品の多くは有名監督やこれまでもアヌシーで高い評価を受けたスタッフが参加する。そのなかで国際的にはあまり知られていいない監督、スタジオからの選出は作品の素晴らしさによるもの他にない。授賞式で八鍬監督は「日本に帰ってじっくりと喜びを分かち合いたい」と挨拶した。
大激戦の中で長編クリスタル賞を獲得したのは、オーストラリアのアダム・エリオット監督の『Memoir of a Snail』だった。両親と死に別れた双子の子どもたちとその周囲の人物をブラックでシニカルに描く異色作である。
アダム・エリオットはストップ・モーションの監督で、前作の『Mary and Max』以来5年ぶり2作目の長編映画となる。『Mary and Max』ではオタワ国際アニメーション映画祭グランプリ受賞など高い評価だっただけに、期待は当初から高かったが、高評価続出の長編コンペのなかで見事のクリスタルだった。
2024年は他にもストップ・モーションの活躍が目立った。長編コンペではクロード・バラス監督の『Sauvages』も評判が高かった。もうひとつの長編コンペティションであるコントラシャン部門の審査員賞もストップ・モーションの『Living Large』(Kristina DUFKOVÁ監督)だった。またテレビシリーズのクリスタル賞と観客賞はカットアウトとストップ・モーションを駆使した『The Drifting Guitar』(Sophie ROZE監督)、テレビスペシャル審査員賞は『Lola et le Piano à bruits』(Augusto ZANOVELLO監督)、そして学生部門クリスタル賞の『Carrotica』もストップ・モーションだ。
長編部門審査員賞の『Flow』は、『Memoir of a Snail』に匹敵する注目度の高さであった。2019年に『Away』でコントレシャン部門でグランプリを受賞したギンツ・ジルバロディス監督の最新作。前作は一人で制作したことが話題を呼んだが、今回は小さなチームを作り、引き続き3DCG作品とした。洪水から逃れ小船で旅をする主人公の黒猫と動物たちを描く。前作と同じく会話はなく、静謐な音楽のなかで淡々と物語が進行するのが特徴だ。
本作は審査員賞のほか、長編観客賞、ガン財団賞、長編音楽賞と全部で4つのアワードに選ばれた。多くの人から共感を誘う作品と言っていいだろう。
このほかコントレシャン部門のグランプリに新潟国際アニメーション映画祭でも上映された『スルタナの夢』、短編部門クリスタル賞はポルトガル/フランスの『Percebes』、短編部門審査員賞はスイスの『The Car That Came Back from the Sea』が受賞している。
日本からは長編オフシャルコンペティションに『窓ぎわのトットちゃん』のほか、『化け猫あんずちゃん』(久野遥子監督、山下敦弘監督)、『きみの色』(山田尚子監督)、『屋根裏のラジャー』(百瀬義行監督)、コントラシャン部門に『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』(古賀豪監督)がコンペインした。アワードには届かなかったが、会場では観客の大きな歓声と拍手が起きるなど高い評価を受ける作品が続出した。
さらにコンペティションでないアヌシープレゼンツ部門には、『がんばっていきまっしょい』、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』、『SAND LAND』、『ルックバック』、『ブルーロック EPISODE 凪』の5本が上映された。このうち『ルックバック』の上映は大きな反響を呼び、非コンペ部門では異例の2回の追加上映が急遽決まるほどであった。監督の押山清高は長編映画デビュー作、アヌシーをきっかけに今後、世界のアニメーション界で大きな注目を浴びることになりそうだ。