ソニーは2020年4月10日付で、中国のエンタテインメント企業ビリビリ(Bilibili Inc.)から発行済株式の4.98%を取得する締結を結んだ。同日ソニーとビリビリの両社より発表された。
ソニーは米国のグループ持株会社Sony Corporation of Americaを通じて、ビリビリが新たに発行する1731万株を1株23.1ドルで引き受ける。ソニーの取得総額は約4億ドル(436億円)となる見込みだ。ビリビリの発行済株式の4.98%を保有することになる。
今回の締結についてビリビリは、中国における両社のエンタテインメント事業における協業のためとしている。とりわけアニメとモバイルゲームを言及しており、当面は両分野が重点領域となりそうだ。
ビリビリは2009年に中国国内で動画配信サイトとしてビジネスをスタートした。日本アニメの配信にとりわけ強みを発揮し、またユーザーコメントの投稿やコミュニティ形成などが若者に支持を受けて急成長を続けている。
近年はより幅広いカルチャーやイベント、商品開発、独自番組制作などの事業を拡大している。なかでも急成長しているのがスマホアプリゲームである。スマホアプリゲーム事業は、2019年のビリビリの全売上高約1500億円のうち53%を占めており、動画配信の24%を大きく上回る。
スマホアプリゲームのなかでも『Fate/Grand Order』の占める割合が高い。『Fate/Grand Order』は、ソニー・ミュージックエンタテインメントのグループ会社であるアニプレックスが製作をしている。ビリビリは中国における本作の独占権利を保有しているが、これを維持するためにも今回の資本受け入れは歓迎するものと見られる。
一方でソニーにとっては、グループ主要事業のひとつであるエンタテイメント領域での中国ビジネスの推進強化が目的とみられる。アニプレックスとソニー・チャイナは、2019年に中国でアニメビジネスのためのライセンス・商品化・IP開発の現地法人安尼普(上海)文化艺术有限公司を設立している。こうした事業との連携も期待される。
中国で日本のアニメ・ゲームコンテンツは人気が高いが、近年は中国産のタイトルの人気やシェアが広がっている。そうしたなかでビリビリとの提携は、中国における日本コンテツや中国向けに開発した作品の流通確保につながる。
注目されるのは、ソニー側の出資がアニプレックスやソニー・ミュージックでなく、グループ本体直轄というべきSony Corporation of Americaとなった点である。出資金額が400億円を超える大型投資でもあるが、むしろ今後はアニメやスマホアプリゲームだけでない、映画やゲームソフトも含めたグループ全体での中国進出を視野に入れているとも見える。
これまでソニーは、音楽・アニメ、ゲーム、映画・テレビと複数の有力エンタテイメント事業会社を抱えながら各社の連携の悪さが目立っていた。しかし近年は海外アニメ事業でソニー・ミュージック系とソニー・ピクチャーズ系の統合がされるなど変化の兆しも見える。今回のビリビリへの出資は、オールソニーで中国のエンタテイメント市場を開拓できるのかの試金石にもなる。
懸念が残るのは、株式取得価額である。ビリビリは2018年3月に米国ニューヨークのNASDAQ市場に上場、売上高の拡大もあり株価は上場時の約10ドルから上昇基調にある。2020年に入ってからは1株20ドルから28ドルの間で推移する。4月9日終値で時価増額は約950億円を超えていた。しかし年間売上高は1500億円とまだ決し大きくない。上場以来赤字が続いており、2019年も約200億円の最終赤字であった。IT企業に特有の成長性に期待した株式評価である。
高い株価を正当化する成長が今後どこまで続くかは、ビリビリにとっても、ソニーにとっても鍵になりそうだ。