
長編アニメーションにフォーカスした国際映画祭として注目される第3回新潟国際アニメーション映画祭が2025年3月15日から20日までの6日間、新潟市内で開催された。最終日となった20日のクロージングセレモニーでは、アニメーションの技術職を対象にしたアワード大川博賞・蕗谷虹児賞の授賞式、さらに映画祭の目玉となる長編コンペティションの発表、授賞も行われた。
スペインから来日した映画プロデューサーで審査員長のマヌエル・クリストバル氏が、厳かに発表したグランプリ作品は日本の押山清高氏が監督した『ルックバック』だった。
クリスバル氏は、本作の受賞について「完璧なテンポと美しくレンダリングされたキャラクターたち。テーマの中にも、作り手にも新たな発見がある映画だ。この作品の技術、ストーリーテリング、そして成熟度を高く評価したい」と述べた。
押山監督は、現在のアニメーション業界におけるAIの注目を引き合いにだしつつ「日本のアニメ業界は、多くのクリエイター集団が日々切磋琢磨して作り上げてきたその技術力を共有し合いながら作品を生み出しています。たぶん今後こういう技術の継承みたいなものは、これまでのような形では生き残ることが難しくなるのかもしれない。『ルックバック』のように隅々まで人の手で作り上げるということは、これからの時代ますます難しくなっていくだろうという思いも会ってあって、この作品は僕の中でも、今の時点での記念碑のような気持ちで作っていました」と語った。押山氏は今回、本作も含めた作画分野での高い業績から蕗谷虹児賞も受賞している。
新潟のコンペティションは、近年の世界的な長編アニメーションの成長と拡大を背景に長編作品に特化している。開催3年目ではあるが、前回、前々回を大きく上回る69作品のエントリーが世界28ヶ国地域からあった。世界でも有数の規模という。
そのなかから今回、初めて国際審査員によって日本作品がグランプリに選出された。『ルックバック』がグローバルな視点でも高く評価されたと言っていいだろう。
グランプリ以外では、傾奇賞にオーストラリアの名匠アダム・エリオットのストップモーション映画の最新作『かたつむりのメモワール』、境界賞にはイタリアのジョヴァンニ・コロンブ監督の『バレンティス』が選ばれた。また奨励賞は米国のエリック・パワー監督が自らの半生をpapercuts(切り絵)で綴った『ペーパーカット:インディー作家の僕の人生』が決まった。新潟が目指す多様性が各賞にも表れた。
アニメーション文化に卓越した貢献をしたスタジオを表彰する大川博賞ではシンエイ動画が、蕗谷虹児賞では押山氏のほかアニメーターの井上俊之氏、音響監督の木村絵里理子氏、音楽の林ゆうき氏が受賞している。
映画祭では期間中にコンペティションのほか、今 敏監督を特集したレトロスペクティブ部門や世界の潮流部門、『イノセンス』20周年記念上映などの招待作品など、長編だけで40作品が上映された。さらにクリエイタートークやフォーラム、若い人材にアニメーション体験を通じて成長をすることを目指す「アニメーションキャンパス」など、多彩な企画が実施された。新潟から世界にアニメーション文化を発信するを、まさに実現している。