文化庁は、芸術各分野において優れた業績を残した作家を顕彰する芸術選奨の2019年度の受賞者を発表した。芸術選奨は1950年にスタート今年で70回目を迎える。現在は「演劇」「映画」「音楽」「舞踏」「文学」「美術」「放送」「大衆芸能」「芸術振興」「評論等」「メディア芸術」の10部門で、文部科学大臣賞と新人賞を設けている。
このうちメディア芸術部門の新人賞にマンガ家の東村アキコ氏が選ばれた。東村氏は『海月姫』や『東京タラレバ娘』などの代表作で知られるが、今回は日韓同時に展開したオールカラーの縦スクロール型の野心作『偽装不倫』の活動が評価された。
メディア芸術部門は、マンガのほかアニメーション、ゲーム、メディアアートを対象に2008年から設立されている。芸術選奨では比較的歴史が浅い。そうしたなかでマンガ家では、これまでに大臣賞に井上雄彦氏、諸星大二郎氏、岸本斉史氏、秋本治氏、荒木飛呂彦氏が、新人賞にはヤマザキマリ氏が選ばれている。アニメーションからの受賞者も少なくない。
本年度のメディア芸術部門大臣賞は、音楽家の池田亮司氏だった。音と映像のコラボレーションなどを通して現代美術との関わりも多い。
また文学部門の新人賞を宮内悠介氏も注目される。受賞の理由にはフィリピンを舞台にした冒険活劇小説『遠い他国でひょんと死ぬるや』を挙げている。一方で宮内氏は第1回創元SF短編賞山田正紀賞受賞の『盤上の夜』や、『ヨハネスブルグの天使たち』、『スペース金融道』といった作品でSF作家として知られている。
これまで小説部門は純文学やエッセイを主とする作家が多く選ばれてきた。大家とされているSF作家でも芸術選奨に選ばれたことがなく、現代における優れた文学とは何かといった考え方が変わり、またジャンル融合の潮流が芸術選奨にも達したと言えそうだ。