放送終了から5年、「ファイ・ブレイン」がいまTファンで熱い!

ファイ・ブレイン×Tファン

放送終了後もファンをつなぎとめる仕組みに迫る。

 2011年からNHK Eテレで約2年半放送されたテレビアニメ『ファイ・ブレイン 神のパズル』を覚えている人も多いだろう。3シーズン全75話にもわたるロングシリーズで、“パズル”を舞台に天才的な頭脳を持つ少年少女たちが命がけの知恵比べ・バトルを繰り広げることで話題を読んだ。
 アニメーション制作にNHKとBNP(当時サンライズ)ががっつりと手を組み、佐藤順一監督らの豪華スタッフが参加した。主人公・大門カイト役の浅沼晋太郎ら人気声優が目白押しのキャストも注目を集めた。

 放送終了から6年近く経つが、いまこの『ファイ・ブレイン』が一部でとても熱いという。その中心となっているのが、カルチュア・エンタテイメントが運営する「ファイ・ブレイン×Tファン」だ。2019年秋には、登録者だけが参加できるファンイベントも実施して大きな盛り上がりをみせた。
 テレビ放送終了後の番組のプロジェクトをいまなぜ企画したのか、ファンの反応はどうだったのか?「ファイ・ブレイン×Tファン」を企画したカルチュア・エンタテイメントと、番組を制作したバンダイナムコピクチャーズにお話を伺った。
 その経験や取り組みは、長く続くコンテンツが求められるアニメ業界に大きな参考になるのでないだろうか。
[取材・編集:数土直志]

 『ファイ・ブレイン』といっても、名前は聞いたことがあっても観たことがないという人もいるかもしれない。そこでまずバンダイナムコピクチャーズの担当のかたに、作品について、放送当時の視聴者の反応を伺い、当時を振り返ってもらった。

■バンダイナムコピクチャーズにあらためて聞く、『ファイ・ブレイン』とは何だったのか?
――今回あらためて『ファイ・ブレイン』についてお伺いしますが、そもそも『ファイ・ブレイン』はどういった作品だったのでしょう。

バンダイナムコピクチャーズ(以下、BNP) もともとは弊社(当時サンライズ)がNHKでオリジナル・アニメを作れないかと始まった企画です。パズルをテーマにして、パズルに失敗すると死んでしまうかもしれないサスペンス。NHKでは今までにないタッチのアニメ番組です。
サンライズとNHKで一緒に組んだオリジナルは本作が初めてでした。先日『ファイ・ブレイン』ファンミーティングが開催され、そこでも一部紹介しましたが、企画書をベースに佐藤順一監督とシナリオ、構成・世界観の構築をゼロから開発して1年半ぐらいかかりました。2011年10月に放送が始まり、14年3月まで3シリーズ75話放送しました。

――その時の『ファイ・ブレイン』のファンのボリューム層はどこでしたか?

BNP テレビ放送当時は視聴者のピークが9歳−12歳で、その両側に広がっています。もちろん低学年の子もいるし、中高生もいる。大人の女性のかたも結構いました。

――放送終了から5年経ち、「なぜ今『ファイ・ブレイン』なの?」と不思議に思うかたもいるかもしれません。ファンが熱を持ち続けて、それをさらに後押しする理由は何ですか?

BNP ファンの方が暖かく見守ってくださっているのが大きいです。Twitterのフォロワーが今でも1万人ぐらいいて下さって、何年経ってもあまり下がらないんです。発信の少ないTwitterのアカウントをフォローし続け、時々作品のこと呟いている。さらにファン同士で集まったりするとか、我々制作サイドはそれをウォッチしていました。

――それは他の作品とどこが違ったのでしょうか。

BNP 気持ちが良い作品だったことですよね。戦いはあるけれどネガティブなところがないんです。アニメとしてポジティブです。それとキャラクターの魅力です。いろんなキャラクターを配置し、彼らは見ためも性格も個性豊かなのです。そして主人公とライバル、主人公とヒロインといったいろいろな絆が魅力的に描かれています。当時の小学生や中学生の子たちには自分とも重ねて共感出来たのだと思っています。

―気持ちが重なりやすいのでしょうか?

BNP 王道の少年バトルだけれど、剣で戦うのでなく、パズルを出題して解いてみせる。作品コンセプトが特徴を持ったキャラクター同士がパズルで対決するところからスタートしています。
小学生の時にみた作品は、なかなか忘れがたいですよね。子供の頃みていて、大人になってまたみたいと思う世代ごとのアニメ作品ってありますよね。そうした作品として『ファイ・ブレイン』を残せたのが3年間やった意味だと思っています。

ファイ・ブレイン×Tファン

―――――
 現在の『ファイ・ブレイン』のファン向けの活動をサポートする中心的な役割を果たしているのが、「ファイ・ブレイン×Tファン」である。CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)のグループ会社カルチュア・エンタテインメントが、Tカードを軸にT-FANを運営している。
 カルチュア・エンタテインメントにとっても挑戦的だったという今回の試みが、いかに誕生したのか、そしてどのような取り組みになっているのか。担当者に伺った。

■「ファイ・ブレイン×Tファン」の始まりと挑戦
――先ほどBNPさんからはテレビ放送終了から5年経つ『ファイ・ブレイン』がいまでも熱い理由を伺いましたが、それがなぜTファンのプロジェクトと結びついたのですか?

カルチュア・エンタテインメント(以下、C・E)  2016年に相談を頂いたのが始まりです。『ファイ・ブレイン』に熱心なファンのかたがこれほどいるなら、そこに我々がファンのかたに喜んでいただけることを提供できるのでないかと考えました。5周年企画としてなにかやりましょうということになったんです。
2016年頃は弊社が、キャラクターデザインのTカードをやり始めたばかりだったんです。そこにこの企画の話がありました。当初は別の内容も考えたのですが、むしろ放送終了後の落ち着いた作品こそがマッチしていると考えました。
『ファイ・ブレイン』は、サンライズさんが主催するサンライズフェスティバルの上映には必ずお客様が集まるといったお話を聞き、まずトライアルしてみようと。じゃあどうお客様と繋がるサービスを提供し、コミュニケーションをする仕組みを作るかです。

――今回の登録者向けのTカードはどういったものなのですか?

C・E 「ファイ・ブレイン×Tファン」登録者だけが発行され、クレジットカード機能はついておりません。他のキャラクターデザインのTカードには、クレジットカード機能付きのものもありますが、今回はクレジット機能が付いていないTカードとなり、カードを持っているかたに向けたファンクラブ的なサービスの軸になっています。

――カードのユーザーはどんなかたですか?

C・E 放送当時のファン層は、キャラクターが好きな女性と、パズルが面白いに興味を持った男の子と客層は大きくふたつあったんです。けれど、『ファイ・ブレイン×Tファン」の登録者はほぼ女性です。

――女性ファンはアクティブだと言いますね。そうしたファンに対してどのようにTファンの認知を広げたのでしょうか?

C・E 基本的にはウェブ展開です。「ファン・ブレイン」は公式Twitterのフォロワーが1万人いましたので、まずTwitterから発信しました。あとは一部店舗でも募集しましたが、やはりネットからが多いですね。

――Tファンの具体的なサービスも教えていだけますか?

C・E まず、もれなく『ファイ・ブレイン』デザインのTカードが発行できます。キャラクターデザインの佐々木洋平さん描き下ろしのイラストです。これはサービス開始前に3種類の絵を出して、Tファン登録者の方に投票をしていただき、一番票数を得たものをカードの券面にしました。

――利用料金はいくらになっていますか?

C・E サービス登録料が年間5千円です。『ファイ・ブレイン』デザインのTカードが貰える他に、『ファイ・ブレイン』全75話の動画が見放題、ファンミーティングへの参加応募権、コンビニプリントの配信、イラストやマンガの配信、オリジナルグッズの販売も行っています。1年目は、スマホスタンドを特典としました。動画を視聴しやすいようにと考えました。
弊社は実はたくさんの機能を持っていて、コンテンツを真ん中に置いて、それらを横軸で機能させた新しいサービスを提供できないか検討しました。今回はそういった機能を全部フルで使った試みになっています。

――コンビニプリントは、知らないかたも多いと思います。

C・E 有償になりますが、アニメの場面写真をコンビニでプリントして頂けるものです。多いときは月に20枚ほど用意しています。3シーズン分の場面写真から厳選したものです。同じようにオリジナルカレンダーもファミリーマートさんの「ファミマプリント」で提供しています。カレンダーのイラストは描き下ろして頂きました。2019年1月から11月まで全部投票で決めました。紅葉が最も似合うのはどのキャラクターとか、南の島で映画撮影しているのは誰とか。集まった意見からキャラクターデザインの方に、さらに発想を加えていただき絵にしました。

ファイ・ブレイン×Tファン

■放送終了から5年あまり、ファンミーティングの内容は?
――Tファン限定のイベント・ファンミーティングもやられたとか。

C・E Tファン発足の際にファンミーティングの参加応募を発表していて、昨年11月初めに200名限定で開催させて頂きました。参加費は別に必要だったのですが、ほぼ満席でした。想像以上に豪華だったと好評を頂いています。

――登壇者には、主人公カイト役の浅沼晋太郎さん、ヒロイン・ノノハ役の清水香里さん、佐藤順一監督とプロデューサーの古里尚丈さんと豪華ですね。

C・E 実はギリギリまでスケジュールの調整をしていたので、佐藤監督はサプライズゲストになりました。佐藤監督が現れた時は拍手喝采でした。そういったリアクションを見て、やはりやってよかったなと思いました。

――イベントではどういうことをやられたんですか?

C・E プログラムは盛りだくさんです。制作の裏話トーク、福山潤さん、櫻井孝宏さん、宮田幸季さんといった声優さんのビデオメッセージの上映、その場でアニメをみながら4人の登壇者の方に生コメンタリーをしていただいたり。サイン色紙のプレゼントもありました。

――オーディオコメンタリーでは何話を上映されたのですか?

C・E 第1シリーズから3話を用意して、これも投票にしました。その場で一番拍手が大きかった話に決めました。これで選ばれたのが伝説回としてファンの間では知られている24話です。主人公とルークがあちこちお出掛けをして、最終決戦をする曰く付きの回です。
あとは、生でミニボイスドラマを浅沼さんと清水さんに演じていただきました。それとパズルもありますね。お客様からもパズルを解きたいという声があって、『ファイ・ブレイン』のパズルデザインをてがけた郷内邦義さんにお願いをして会場でやるためのオリジナルパズルを作って頂きました。

――盛りだくさんですね。

C・E イベントのなかでオリジナルボイスドラマ制作決定を発表したのもサプライズですね。2019年11月から2年目のサービスが始まったのですが、2年目の施策としてオリジナルのボイスドラマが聴けるサービスを追加します。

――それは登録者にしか聴けないものですか?

C・E 有料登録者しか聴けないです。これから作るので実際いつ出すかは、今後決まります。イベントの最後はお土産をお渡しして終了という流れでした。

――全体の反応はどうでしたか。

C・E とてもアットホームな雰囲気でした。アニメ制作陣の方々がとても『ファイ・ブレイン』を好きだっていうのを生で感じられて、感動されて帰られた方が多かったようです。「イベントありがとう」、「何度も泣きました」、「『ファイ・ブレイン』を好きで良かった」などTwitterでも盛り上がりました。翌日から弊社の問い合わせフォームに、どうしても感想やお礼を伝えたいとお問い合わせが続々届いて。広報がびっくりして「どうしたんだ!? これは一体なんだ」と、社内でも話題になったんです。

■ 今後も可能性が広がるTファン
――Tファンの種類は沢山ありますが、他にフルサービスを提供している作品はあるのですか?

C・E ここまでやっているのは今のところ『ファイ・ブレイン』だけですね。かなり挑戦をさせて頂きました。今後はさらに「ファイ・ブレイン×Tファン」がもっと広がっていくようにしていきます。5千円は決して安いわけではありませんから、「年会費以上の価値がある」と思っていただけると我々は一番嬉しいです。

――今後のアイデアはどんな予定ですか?

C・E もともとのコンセプトがファンの皆さんと一緒に進んでいく事ですから。いただいたリクエストからヒントを戴いたり、あるいはこうやってみたらどう思いますかとご提案をしてみます。皆さんが8年の愛を持ってくださっている作品を更に愛して貰える内容を一緒に考えていければと思います。

――『ファイ・ブレイン』から少し離れますが、Tファンさんが今回のノウハウを、他のアニメ作品に広げていくことはありますか?

C・E 勿論あります。今回の『ファイ・ブレイン』はファンの方に喜んでもらえた施策として成功事例と捉えています。

――手応えはあったわけですか?

C・E はい。凄いパワーがあるけど眠っている作品の掘り起こしは、アニメだけでなく、キャラクターやアーティストでもありえます。

――まだまだ可能が広がっていきそうですね。

C・E 最後になりますが、皆さんにひとつお知らせをさせてください。実は長年『ファイ・ブレイン』のパズル作成もしていただきましたパズル作家の郷内邦義氏が、昨年暮れ2019年12月24日逝去され、永眠なされました。ここで関係者一同から謹んでお悔やみ申し上げたいと思います。

ファイ・ブレイン×Tファン

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