米国アカデミー賞長編アニメ部門エントリー発表 25作品、日本から8本

米国アカデミー賞長編アニメーション部門

■日本作品は8作品
 米国の映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)は、2018年10月26日、他部門に先立って長編アニメーション部門(Best Animated Feature Film)のエントリー作品25本を発表した。2017年の27本に続き、過去最高水準のエントリー数である。
 エントリーの増加は、海外映画のエントリーが増えていることが理由だ。このため一般的には知名度の低い作品も多い。一方でドリームワークス・アニメーションに新作はなく、ピクサー、ディズニー、イルミネーションも2018年は1本ずつ。ハリウッドのCG大作増加には歯止めがかかってきた。

 エントリー作品のなかで一大勢力となっているのが、日本アニメである。関連作品は8本にも達した。理由のひとつは、アート系アニメーション配給のGKIDSが日本シフトを強めているためだ。GKIDS配給は、湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』『夜は短し歩けよ乙女』、細田守監督の『未来のミライ』、さらに『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』がある。フランス製作だがアニメーション制作は日本のスタジオ 4℃が担当した『ムタフカズ』もある。
 このほか『宇宙の法 黎明編』『リズと青い鳥』『さよならの朝に約束の花をかざろう』も米国公開を受けてエントリー手続きをした。これで全体の約1/3が日本アニメとなる。最優秀賞候補とみられる『犬ヶ島』が日本を舞台にしていることもあり、日本カルチャーが席巻したかたちだ。

 アカデミー賞のエントリーは一次審査、ノミネートとして伝えられることがあるが、あくまでも審査資格の要件を満たしたリストである。基準は「実写パートが多過ぎないか」といった技術面、映画の長さ、商業公開されているか(ロサンゼス地区での1週間以上の上映)など。
 これらを満たしてエントリーとなるが、この段階では作品評価は一切されない。幸福の科学が製作する劇場長編が毎回エントリーされるのもこれが理由だ。逆に要件を満たしても、エントリーをしないケースもある。
 エントリー作品の中からアカデミー会員の投票により、2018年はまずノミネート5作品を決定、2019年1月22日に発表する。さらにノミネート作品がもう一度投票にかけられ2月24日の授賞式で最優秀長編アニメーション賞が発表される。

■ハリウッド大作が不作の2018年:海外勢に大きなチャンス
 ここで少し早いが賞レースの行方を占ってみよう。米国アカデミー賞は、ハリウッドスタジオのCG大作が有利と見られることが多いが、ノミネートだけを見れば必ずしもそうではない。特に近年は手描き、ストップモーションがコンスタントにノミネートされる。インディーズや海外からも多い。2017年にはハリウッド系以外からが2本、2016年は3本、2015年は4本、2014年は3本といった具合だ。
 2000年代前半に見られたCG技術に対する驚きがなくなり、より演出や物語が重視されるようになった。さらにハリウッド系CG大作に観客を唸らす新しい挑戦が減っているのも影響していそうだ。
 2018年は、そうした傾向が強まっている。ピクサーの『インクレディブル・ファミリー』、ディズニーは『シュガーラッシュ オンライン』と大ヒット作の続編である。アカデミー賞はオリジナリティの点からシリーズものを嫌う傾向にあり、受賞を目指すとなるとかなり不利だ。CG作品は不作と言っていい。

■本命は『犬ヶ島』、続編の受賞なるか『インクレディブル・ファミリー』
 2018年のアカデミー賞の本命は、ウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』でないだろうか。ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督)をはじめ世界で圧倒的に知名度が高い。対抗とみられるのは『インクレディブル・ファミリー』だが、評価は高いがやはりシリーズ作品が弱みだ。いずれにしてもこの2本がノミネート5本に入るのはほぼ確実だろう。

 問題は残りの3作品である。CGでは現在未公開だが、作品の出来次第で『ドクター・スースのグリンチ』にチャンスがある。逆に他の作品『モンスター・ホテル クルーズ船の恋は危険がいっぱい?!』『スモールフット』『名探偵シャーロック・ノームズ』『Sgt. Stubby: An American Hero』にはあまりチャンスはないだろう。
 ディズニー/マーベルのアメコミヒーロー長編アニメーションとして初の全米公開となる『スパイダーマン: スパイダーバース』、そしてワーナー/DCの人気シリーズの劇場版『Teen Titans Go! To the Movies』は注目作だ。しかし実写でもアメコミヒーロー映画やテレビシリーズからのスピンオフが作品部門から縁遠いことを考えると、作品のヒットが見込まれるにも関わらず賞レースでは苦戦が予想される。

■日本からは『未来のミライ』、湯浅政明監督の2作品が注目
 ハリウッド作品が不調となれば、インディーズや海外作品にもチャンスが広がる。それでもアカデミー会員で、この分野をカバーする人数は限られる。興行規模や成績は重視されないとしても、キャリアを築いている監督やスタジオの知名度、海外映画祭でのアワード受賞、有力メディアでの評価が鍵になる。
 この段階で中国の『Have a Nice Day』、ハンガリーの『Ruben Brandt, Collector』、ロシアの『Tall Tales』、メキシコの『Ana y Bruno』はノミネートに届かない。そして日本関連でも『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』『宇宙の法 黎明編』『リズと青い鳥』『さよならの朝に約束の花をかざろう』『ムタフカズ』も、残念ながらノミネート候補から遠ざかる。

 日本作品でノミネートの可能性があり、かつ有力なのは細田守監督の『未来のミライ』、湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』『夜は短し歩けよ乙女』の3作品だ。高い監督の知名度、作品の評価、そして配給会社GKIDSへの業界での信頼の大きさもあり、ノミネートされても驚きはない。
 ただし湯浅作品で懸念されるのは、逆にエントリーにあがった2本がとも傑作であることだ。アヌシー国際アニメーション映画祭グランプリの『夜明け告げるルーのうた』、オタワ国際アニメーション映画祭グランプリの『夜は短し歩けよ乙女』の評価は、日本から考える以上に拮抗している。ノミネート投票段階で票割れが起こり、いずれもノミネートに届かない可能性は小さくない。となると日本アニメから『未来のミライ』が浮上する。日本アニメを含む複数作品を持つGKIDSが『未来のミライ』の公開を11月末に持ってきたのも賞レースを意識した可能性が高い。つまりGKIDSにとっての本命とも映る。それでも日本アニメというジャンルで考えると、ここでも票割れの懸念があり、ノミネートに届くかはなんとも言えない。

 日本以外の海外作品では、ストップモーションの名門スタジオ アードマンの『アーリーマン ~ダグと仲間のキックオフ!~』が有力だ。これまで3度のノミネートのある名門だ。ただし今回はこれまでに比べて作品のインパクトが薄いのが懸念材料。
 ブラジルの『Tito and the Birds』は、海外作品で最もノミネートに近いひとつだろう。海外の映画祭でいくつもの受賞を重ねており、2015年のブラジルの『父を探して』のようなサプライズなノミネートがあっても不思議ではない。台湾の『On Happiness Road』も映画祭で評価を受けるが、知名度がやや不足している。

第91回米国アカデミー賞長編アニメーション部門エントリー作品

[ノミネートほぼ確実・受賞最有力]
『犬ヶ島』
『インクレディブル・ファミリー』

[ノミネートの可能性高い]
『アーリーマン ~ダグと仲間のキックオフ!~』
『夜明け告げるルーのうた』
『未来のミライ』
『シュガー・ラッシュ:オンライン』
『Tito and the Birds』

[ノミネートの可能性あり]
『Dr. Seuss’ The Grinch』
『モンスター・ホテル クルーズ船の恋は危険がいっぱい?!』
『夜は短し歩けよ乙女』
『スモールフット』
『スパイダーマン: スパイダーバース』

「ノミネートに届かず」
『Ana y Bruno』
『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』
『Have a Nice Day』
『宇宙の法 黎明編』
『リズと青い鳥』
『ムタフカズ』
『さよならの朝に約束の花をかざろう』
『On Happiness Road』
『Ruben Brandt, Collector』
『Sgt. Stubby: An American Hero』
『名探偵シャーロック・ノームズ』
『Tall Tales』
『Teen Titans Go! To the Movies』

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