史上最多32作品が大激戦、アカデミー賞長編アニメーション部門のエントリー揃う

米国アカデミー賞長編アニメーション部門

 米国映画界の最大のイベントであるアカデミー賞、この長編アニメーション部門の2019年エントリー作品が10月16日に発表された。応募があったなかでアニメーションの技術上の定義や長さなどの必要条件を満たし作品である。
 エントリー総数は過去最高だった2017年の27作品を大幅に上回る32作品と、記録を大幅に更新した。うち日本作品は『天気の子』『プロメア』『海獣の子供』『若おかみは小学生!』の4作品。2018年の8作品から大きく数を減らした。

 エントリー数増加は海外とインディーズから作品が増えているためだ。なかでもヨーロッパ映画は今年11作品と大量エントリーとなった。
 海外・インディーズ映画の増加は、近年の長編アニメーション部門のノミネート作品の傾向が変化しているためとみられる。かつてはハリウッドの巨大スタジオのフル3D CG作品ばかりが並んだが、昨今はそうした作品は賞レースで振るわない。逆に2018年はストップモーションの『犬ヶ島』、2017年は『ゴッホ 最期の手紙』や『生きのびるために』といったアート志向のインディーズ映画のノミネートが増えている。昨年の日本の『未来のミライ』もそのひとつと言っていいだろう。さらに昨年の受賞作品はハリウッド作品ではあるが、従来のフォトリアルなCGに挑戦するような『スパイダーマン スパイダース』だった。
 こうした傾向の変化は、2000年代の過度なCG映画偏重の反動ともいえる。また映画芸術科学アカデミーがここ数年で、海外協会員を意図的に増やしていることも影響しているかもしれない。いずれにしろ海外・インディーズ作品にチャンスが広がっていると映画製作者に思わせることに成功している。

 実際に2019年もノミネートの傾向はこうした流れを踏襲しそうだ。ハリウッドスタジオの作品は、『アングリーバード2』『アナと雪の女王2』『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』『レゴムービー2』『ペット2』『Spies in Disguise』『トイ・ストーリー4』の7作品。このうち『Spies in Disguise』以外は全て過去のヒット作品の続編である。アカデミー賞は続編に評価が厳しく、過去にシリーズ作品で受賞したのは2010年の『トイ・ストーリー3』のみである。今回も海外・インディーズからのノミネートは複数作品あると予想され、受賞も夢でない。日本作品にもチャンスはあるとみていい。
 例年と同様に現段階で公開されておらず、エントリー用件に必要なロサンゼルス地区での商業公開1週間を満たしていない作品もある。クリマスシーズンの上映を目指す『アナと雪の女王2』、Netflixオリジナルアニメ『クロース』、『Spies in Disguise』などである。それらは年内の公開が必要だが、いずれも年内の公開スケジュールが発表されている。『天気の子』もそうした作品のひとつだが、こちらは年内にロサンゼルスで先行公開、年明けの全国上映を目指す。

 エントリーされた32作品は、アカデミーのアニメーション部門長編・短編の会員と、それ以外の会員で申し出た者(最低本数の映画鑑賞が必要条件)の投票により5作品に絞り込まれる。ノミネートは2月9日に発表される。その後アカデミー全会員のうちノミネート全作品を観た者の投票で最優秀作品が決定する。ハリウッドのドルビーシアターで開催される授賞式の場で発表される。

[2019年米国アカデミー賞エントリー作品]

『Abominable』
*ドリームワークス・アニメーションと中国の合作
『アダムス・ファミリー』
*1991年公開した実写映画のCGアニメーション版
『アングリーバード2』
*人気ゲーム原作のCGアニメ第2弾。ソニー・ピクチャーズ
『Another Day of Life』
*東京アニメアワードフェスティバルグランプリにも獲ったアンゴラ内戦を描いたドキュメンタリーアニメーション
『Away』
*全編ひとりで制作したのが話題のラトビア作品。
『Buñuel in the Labyrinth of the Turtles』
*スペインのドキュメンタリーアニメーション。アヌシー映画祭審査員賞受賞
『海獣の子供』
*日本のスタジオ4℃が制作
『ディリリとパリの時間旅行』
*フランスの巨匠ミッシェル・オスロがCGアニメーションに挑戦した最新作
『アナと雪の女王2』
*ディズニーの世界的大ヒット作の続編
『Funan』
*2018年のアヌシー映画祭グランプリ。カンボジア内戦を題材にした
『Genndy Tartakovsky’s ‘Primal’ – Tales of Savagery』
*カートゥーンネットワークのテレビシリーズの劇場版
『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』
*ドリームワークス・アニメーションの人気CGアニメーションの第3弾
『失くした体』
*2019年のカンヌ批評家週間、アヌシー映画祭グランプリの話題作
『クロース』
*Netflix初のオリジナル長編アニメーション。劇場公開後、配信予定
『The Last Fiction』
*ペルシャの歴史を題材にしたイラン作品。
『レゴムービー2』
*人気玩具を題材にしたCGアニメーション第2弾、配給はワーナー
『マローナの素晴らしき旅』
*ヨーロッパの2D作品。犬の冒険を描く
『Missing Link』
*ストップモーションの傑作を次々に送り出すライカの最新作
『哪吒之魔童降世』
*中国で空前の大ヒットとなったCGアニメーション
『若おかみは小学生!』
*児童文学を原作に高坂希太郎監督の日本作品
『Pachamama』
*アンデスを舞台にした冒険作品、ヨーロッパとカナダの合作
『プロメア』
*大胆な色づかいとデザイン、動きが特長の日本アニメ
『Rezo』
*実写とアニメーションを組み合わせたキプロス作品
『ペット2』
*イルミネーションの大ヒットシリーズの第2弾
『Spies in Disguise』
*20世紀FOX/ブルースカイスタジオのアクションコメディCG
『The Swallows of Kabul』
*アリジェリア人作家の小説をフランスでアニメーション化、社会的な問題に迫る
『This Magnificent Cake!』
*ヨーロッパ合作のストップモーション・アニメーション
『The Tower』
*ノルウェーのストップモーション・アニメーション
『トイ・ストーリー4』
*ピクサーの大ヒットシリーズの完結編、意外なラストが話題に
『Upin & Ipin: The Lone Gibbon Kris』
*マレーシアで人気のキャラクターが長編劇場作品に
『天気の子』
*新海誠監督の最新作、日本で大ヒット
『白蛇:縁起』
*中国とワーナーのアジア・ローカルの合作映画

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