Anime Expo2018 レポート –1– ビジネスとしての巨大アニメコンベンション

Anime Expo2018

■ 参加人数11万人以上、延べ35万人 全米最大のAnime Expo

 この夏、3年ぶりに米国最大のアニメイベントである「Anime Expo」を訪れた。2003年の初参加から10回以上訪れてきたが、2年間空いたのは2016年夏に勤め先を退職するなどがあったりとドタバタしてたためだ。
 Anime Expoは、その時々の米国における日本アニメの立場により大きく変化してきた。僕にとっては米国のアニメの状況を映し出す鏡のような存在だ。16年、17年の様子を見られなかったのは残念だが、逆に2年間空いたことで、再び迎えたAnime Expoの大きな変化をドラスティックに感じられた。実際に2015年と2018年では大きな違いがあった。

 ひとつはイベントの規模の拡大だろう。まずはスケジュールだ。17年から前夜祭的なイベントが始まり、開催期間は従来の4日間から4日間+半日となっている。またエキビジョンホールの参加企業の増加から、同人エリア(アーティスト・アレイ)が広大な地下の駐車場に移されている。隣接するJWマリオットホテルの巨大なイベントホールも全て会場の一部としてフル稼働する。
 2018年は7月5日から8日までの期間中、11万人以上、延べ35万人が参加したと発表されている。この規模は全米最大規模のポップカルチャーイベントであるサンディエゴ・コミコンやニューヨーク・コミコンにも匹敵する。
 ただ今年は現在まで、従来のような細かな動員数は明らかにしてない。人数を明確にしないのは、入場人数の上限問題が絡んでいるかもしれない。過去にサンディエゴ・コミコンが会場の安全確保と混雑回避で参加人数に上限を設けた後から、公式来場者数を発表しなくなったケースがすでにある。
 18年の来場者数が17年とほぼ同数であるAnime Expo 2018でもサンディエゴと同じことが起きていることを窺わせる。来年以降Anime Expoの参加人数がさらに飛躍的に増えることはないかもしれない。キャパシティの限界に近づいているというわけだ。

 一方で、こうした巨大化に伴う運営の混乱は、今回は感じなかった。ここ数年問題になっていた長蛇の列もあまり見られなかった。かつてはAnime Expoの名物でもあったイベントスケジュールの大幅な遅れもない。
 2018年に関しては運営体制は、非常にスムーズであったと言っていいだろう。非営利団体ゆえの非効率がなくなり、巨大イベントの運営者としてより洗練された印象が持てた。

■  日本企業と結びつくことで実現した成功

 Anime Expoは、なぜこんなにも巨大化したのだろうか?ポップカルチャーのイベント自体が成長産業との事情もある。米国のポップカルチャーがテーマのニューヨーク・コミコンも驚異的な成長を遂げている。
 それでもAnime Expoは格別だ。日本をテーマとした「アニメコンベンション」のなかでは突出している。動員数では全米で2位以下の3倍規模である。15年前まではAnime Expoと肩を並べて、動員数が超える年もあったOtakonは2018年でも3万人弱に過ぎない。

 近年のAnime Expoの成功の要因は、ふたつある。ひとつはアニメファンの裾野の拡大だ。これは他のアニメコンベンションの規模拡大からも分かる。なかでもイベントの認知度の高さと、人口の多いロサンゼルスの立地がAnime Expoの動員数を押し上げている。
 もうひとつは日本企業とのつながりが、より強くなっていることだ。これまでAnime Expoの主役は日本企業からライセンスを獲得し活動する現地企業だった。FUNimationやセンタイフィルムワークス、日系の現地法人VIZ Mediaなどである。
 しかし現在はバンダイナムコグループ、東映アニメーション、ポニーキャニオンなども現地にスタッフを多く送り込み大型企画を実施する。例えば大型ライブイベント「AniMatsuri」は日本企業の運営だ。AnimeExpoに他のアニメコンベンションよりも大きな企画、大勢の豪華ゲストが揃う理由である。

 2018年はなんといっても日本のゲーム企業だろう。Cygamesやガンホー、KLabなど、スマホアプリ企業の参加が目立った。ゲーム企業の参加はエキビジョンホールを活気づけたが、その主な目的は宣伝だ。10万人のトレンドセッターにアプローチする場としてまずAnimeExpoに狙いを定める。
 来場者の多さ、メディア報道の多さ、業界人の参加の多さが宣伝価値を高める。これにより他のアニメコンベンション以上に、多くのお金が流れ込む。

 イベントを宣伝の場とするのはゲーム会社に限らない。アニメ会社も同様だ。AnimeExpoでの新情報発表やワールドプレミアの実施は飛躍的に増えている。
 サンライズの「機動戦士ガンダム」シリーズハリウッド実写企画にはバンダイナムコホールディングス田口三昭社長が、アニメ『イングレス』のワールドプレミアにはNianticのジョン・ハンケCEOまでが姿を見せる。日中合作の『詩季織々』、『進撃の巨人』第3シーズンなど、世界初のプレミアイベントが目白押しで驚かされた。
 「米国でこんなに盛り上がった」と、国内向けに宣伝アピールする狙いもあるだろう。ただ近年はアニメ製作のリクープ(資金回収)のかなりが海外に依存していることも無関係でない。つまり英語圏から、米国や世界に向けて作品を宣伝している。
 つまり日本アニメファンが世界にいるならば、世界に向けて宣伝をしなければいけない。そのために全米最大のアニメコンベンションが選ばれているわけである。

■ Anime Expo 2018はビジネスの場になるのか?

 とはいえ、Anime Expoとビジネスの関係は難しい。あくまでファン向けイベントなのでBtoBの機能、ビジネスミーティングの場を設けたり、マッチングをしたりしない。これはAnime Expoの運営形態に影響を与えたとされるサンディエゴ・コミコンともよく似ている。
 一方でイベントには制作スタッフだけでなく、プロデューサーや企業経営者もゲストに招かれている。さらにゲスト以外でも、宣伝担当や海外担当、ライセンス担当が多く会場を訪れる。Anime Expoに合わせて全米からビジネス関係者が集まるので、ビジネスをするのにこれだけ効率がいい場所はないからだ。米国での日本アニメの現状を知るために、Anime Expoを視察する企業・参加者も多い。日本からのビジネス関係者の数はちょっと数え切れないほどだ。
 結果として、ビジネス関係者は近隣のホテルやカフェ、レストランなどでミーティングを行うことになる。コンベンションセンターに一番近いマリオットホテルのラウンジは、まさにアニメ業界の借りきり状態だ。

 Anime Expoにとっては、全体から見れば少数のビジネス関係者に気を遣う余裕はない。そしてビジネスイベントを実施したとしても、採算をとるのは難しい。であればいまのように、個々の企業やビジネスパーソンが、会場を軸に独自にネットワークをつなげるのは構わないという立場であろう。
 とはいえ自然発生的に誕生したアニメビジネスのハブ機能をこのまま放っとくには、やや勿体ない気もする。Anime Expoをハブにしたビジネスの活性化は、今後もまだ可能性があるのでないだろうか。

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