■ エキビジョンホール、ファンの財布が緩む理由は?
見どころの多いAnime Expoではあるが、何百もの企業・団体がブースを並べるエキビジョンホールはイベントが訪れた誰もが足を向ける目玉のひとつだ。ゲーム会社の増加は前回の記事で紹介したが、それを除いても人出が多く大盛況だ。
日本の大手企業の出展は企業・ブランドの認知度を上げることが大きな目的とみられるが、多くの出展者の目的は物販である。会場ではそのアニメ関連グッズの販売が好調だ。前年を大きく上回る勢いとの話も聞かれた。それはここ数年の傾向のようだ。
今年のアニメエキスポの一般の参加費用は、1日参加の5000円程度から4日間の1万円程度と若者向けには決して安くない。連日開催されるライブも別料金が多い。米国のアニメファンの消費意欲は旺盛といっていいだろう。
これは反面、現地における日本のグッズの店舗販売が充分でないことも反映している。米国では日本アニメのDVDやCDを数多く売っていたタワーレコード、ベストバイ、HMVや、マンガを売っていたボーダーズといった量販チェーンの多くが撤退している。日本にあるアニメ・キャラクターグッズの専門店はほとんどない。
それでもロサンゼルス地区は恵まれているほうで、紀伊国屋が2店舗、独立系のアニメショップ1店舗ある。しかし日本に較べれば圧倒的に数が少ない。勿論、ネットショップでの購買は出来るが、キャラクターグッズはリアルに手に取って楽しみながら買うのが醍醐味のはずだ。
年に一度の大型イベントAnime Expoはファンの財布が緩みやすい、さらに言えば購買しようと待ち構えている場所である。
■ 意外に踏ん張っていたDVDとBlu-ray
エキビジョンホールでは、やや意外な風景も見られた。現地の大手配給会社のファニメーションのブースでは、Blu‐ray、DVDのスペースをたっぷり取り、大量に商品が並んでいた。それに手を伸ばすファンも少なくない。
動画配信サービスの大きなロゴの真下にBlu‐ray、DVDが並ぶのが、2018年なのだろう。それは配信大手のクランチロールがキャラクターグッズしか置かないのと対称的に映った。映像パッケージは以前に比べて縮小したとはいえ、いまでも確かにマーケットとして存在する。
そうした点で、センタイフィルムワークスのパネルが面白かった。同社は米国のアニメ業界では中堅企業だが、『ポプテピピック』や『BanG Dream!』といったより濃いめのアニメファンをターゲットにする。HIDIVEという配信事業もしているが、パネルでは新作Blu‐ray、DVDの紹介が目立った。商品の目玉は配信後に取り組む英語吹替え版である。スピードではなく、プラスアルファでマニア向けに勝負する。
これ以外に既存メディアの存在感を感じるシーンがあった。今年会場でもっとも見かけたコスプレは『僕のヒーローアカデミア』で間違いないだろう。しかし、本作の配信開始は2年以上前、いまになって急激に人気が高まった印象である。これは春からカートゥーンネットワークで、テレビ放送が始まった効果が大きいという。
北米におけるNetflixやクランチロールの影響力拡大は指摘されるが、市場の全てが配信に変ったわけではない。従来メディアの役割が相対的に小さくなっただけで、その役割は消えていない。複数のメディアが並列的に展開する。それが現在の動きなのだ。
■ 地下駐車場に巨大な同人エリアが出現:アーティストアレイ
今回、会場の拡大を印象づけたひとつにアーティストアレイ(Artist Alley)がある。2016年まで企業ブースや企業の物販と並んで設けられていたが、これが2017年より地下の駐車場に移動した。
地下駐車場というと都落ち感があるのだが、むしろ移動することで、これまで抑えられていたアーティストアレイのパワーが一挙に拡大した。出展面積も出展者数も激増している。地下駐車場という巨大な空間がこれを可能にした。
アーティストアレイの移動は、企業側にとっても都合のよいものだろう。アーティストアレイは個人創作活動の販売だが、日本のコミックマーケットと同様に二次創作が少なくない。さらに日本に較べて同人誌というよりも同人グッズが多いことが、著作権者との兼ね合いを懸念させる。日本のコミックマーケットがそうであるように、企業エリアと同人エリアが切り分けられることは、ひとつの解決策である。
アーティストアレイは二次創作も多いが、思った以上にオリジナルが多い印象だった。米国においても自分たちの作品、キャラクターを創り出す人たち増えてきている。
一方で、作品研究や評論といった活動は、相対的に勢いがなくなっている。以前はAnime Expoでも多く見られた研究発表や作品討論のようなアカデミックパネル/ファンパネは、あまりみかけなくなっている。ファン活動の表現も変わりつつある。
それはイベント参加者のボリュームゾーンの変化も反映している。参加者がティーンエイジャーから20代中心になり、より高い年齢層や10代以下のキッズ層、ファミリーの姿はあまり見られなくなっている。
■ 新しいフェーズ 日本からの接近 米国の変化
日本企業のAnimeExpoへの関与が広がる一方で、全く逆方向の動きも起きている。それはコンテンツの非日本化が少しずつ進んでいることである。
これまでもゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』が出展し人気を集めたなどの例はあった。しかし今回はNetflixが日本以外の国の製作、監督も日本以外の2作品『悪魔城ドラキュラ -キャッスルヴァニア-』、『Cannon Busters』を大きく紹介した。ルースターティースの『RWBY』も人気だ。日本マンガ翻訳大手のVIZ Mediaが現地のウェブマンガ『HOMESTUCK』のライセンス獲得を告知する。そうした勢力がさらに大きくなりつつある。
興味深かったのは声優ゲストだ。今回の公式ゲストに招かれた声優は53人にも及ぶが、そのうち日本の声優は13人に過ぎない。つまり7割以上が英語版の声優である。英語版の声優の人気が現地で高いことの表れだ。
これまで日本のアニメファンは、吹替えでなく、よりオリジナルに近い字幕を好むとされてきた。しかし、現地声優の人気の高まりは、アニメファンの多くが吹替えとその声優を違和感なく受け止め、支持していることを窺わせる。
2018年のAnime Expoからは、米国におけるアニメは文化的にもビジネス的にも新しいフェーズに入ったと感じられた。これは2018年というよりも、僕が参加しなかった2016年、2017年のAnime Expoから始まっていたのかもしれない。あるいは米国でのアニメビジネスが急回復、そして大衆化が始まった2012年以降の影響が、いまコンベンションにかたちになって現れたのかもしれない。
Anime Expoの成功は、アニメを取り巻く新しい変化の波にうまく乗ったのが理由なのだろう。しかし、今後「日本」との兼ね合いは微妙な問題を投げかける。日本スタイルのコンテンツは、「ANIME」なのか、「MANGA」なのかだ。
何しろAnime Expoを運営するのは、SPJA(The Society for the Promotion of Japanese Animation)=日本アニメーション振興会なのだ。しかし、2018年のAnime Expoを見る限りでは、「日本」といった縛りは、今後、なし崩し的にどんどん薄くなっていくのでないだろうか。
日本を発祥の地としたアニメ・マンガスタイルを中心としたイベント、その振興とファンのコミュニケーションを目指すイベントが、未来のAnime Expoの姿に思える。