■ 過去最大となった参加者と出展
2018年6月12日から15日まで、フランス・アヌシーでアニメーションの国際見本市MIFAが実施された。同時期に開催される世界最大のアニメーション映画祭の併設見本市だが、近年、成長が著しい。文化面を支える映画祭、そしてビジネス部門を支えるMIFAがイベントの両輪であると言っていいだろう。
MIFAの成長ぶりを象徴するのが、各国企業・団体が出展するブースエリアである。MIFAの会場となるインペリアホテルに隣接して巨大な仮設テントを設置、そこに作品やサービス・商品を並べる。
テントの面積7200㎡は過去最大。昨年初めて2階建テントとしたが、それをさらに拡大した。面積だけでない。MIFAの参加者は前年比で22%増の3800名、所属企業は1736社(20%増)、さらにまた作品への投資、購入に携わるバイヤー、配給会社、投資家は490人と、こちらも前年比12%増と二桁の伸びとなった。会期終了後に発表された数字からもその膨張ぶりが窺える。
■ ナショナルブースが中心の出展ブース
これらは近年、映画祭と共に明確になっている主催者CITIAによるMIFAの成長戦略を反映している。つまり、1)参加国と作品の多様化、2)新しいビジネストレンドのキャッチアップである。結果として 3)世界で最も効率的にアニメーションのビジネス情報を獲得し、交流出来る場所を築くことを実現する。
参加国の多様化は、2018年に大きな成果を上げた。これまでも国や地域行政・業界団体が大きなスペースを取り、まとめて企業や作品を紹介するナショナルパビリオンの充実が特長だったが、それが今年大きく増えた。新たにカメルーン、ボリビア、エクアドル、ペルー、アイルランド、スイス、ハンガリー、ジョージアが参加している。
2018年はブラジルイヤーであったが、ブラジルだけでなく、ラテンアメリカの国々が出展に力を入れてた。ラテンアメリカの中小国でも積極的にアニメーションが作られていることには少なからず驚かされた。
日本もMIFAの成長に貢献しており、3年連続の出展となった東京都が出展面積を拡大、さらに文化庁メディア芸術祭、映像産業振興機構が加わった。2019年の日本イヤーに向けても、よいかたちで存在感を発揮した。
■ VRエリアの新設と制作ツールの存在感
もうひとつ会場が広がった理由は、新たにVRに特化したゾーンを設けたことである。業界の関心の高まりをいち早く取り入れた。VRは昨年も大きなトレンドであったが、今年はOculus mediaをはじめいくつもの体験コーナーが登場した。
テクノロジー関連の出展の多さは、近年のMIFAの特徴だろう。VRの他にも、ゲーム開発でお馴染みのUnreal Engineが会場のバナーやフライヤーで積極的に存在感をアピールしていた。同じゲームエンジンのUnity、ゲーム開発のUbisoftも出展し、CGの技術の進歩がゲームとアニメーションの領域でますます融合していることがわかる。
またタブレットのWacom、2Dタッチの作画を実現するTV Paint Animation、Toon Boom、完全無料の3Dソフトとして注目が高まっているBlenderなど、制作ソフトを含めたツール関連も主要メーカーが揃う。アニメーション業界関係者が集まるMIFAはアピールの場として最適なのだろう。
■ CGとストップモーション そして日本アニメ
ただCGの進歩が、アニメーション業界にプラスばかりかと言えばそうでもない。米国や地元フランスなどのヨーロッパ、アジアや新興国といった参加国の多さに較べて、個性の違いが薄い。3DCGの作品はファミリーキッズのキャラクターアニメーションに集中することもあり、どれも区別がつきにくい。
そうした点で、日本アニメは手描きでもCGでも一見で日本製と分かるのは異質で、強みでもある。MIFAの会場では東京都ブースで5社5作品がアピールしたが、担当者によればミーティングの引き合いはとても多かったという。これもこうした差別化が成果につながっているのかもしれない。
日本関連では映像産業振興機構のブースでは、GAGAの作品で本年の長編部門のオフィシャルコンペだった『若おかみは小学生!』、ピコナの『Midnight Crazy Trail』が出品されたが、それぞれ手描き2DとセルタッチCGであった。
CGアニメーションが盛況の一方で、オーソドックスな手法であるストップモーション・アニメーションが目立ったのも今年の特色だ。文化庁メディア芸術祭ブースが村田朋泰氏の人形アニメーションにスポットを当てその素材を展示していたが、公式上映された人形を使ったゾンビものである『Chuck Steel: Night of the Trampires』や、北欧ブースでもストップモーション作品を素材と共に紹介していた。
公式上映でも、ストップモーション作品が多数みられた。世界各国でこの分野が活発で、ますます有力なジャンルになりつつあることが感じられた。
多くの国際見本市がそうであるように、出展ブースでのミーティングは全体のビジネスの一部でしかない。ピッチセッションや、よりプライベートなミーティングがあり、実際に各企業・団体がどれだけ成果を上げているのかは判り難い。
それでも前年比22%増という参加者の数が、MIFAが世界のアニメーション業界でますます重要な存在になっていることを示しているのは間違いないだろう。