新海誠監督「君の名は。」大ヒットで、日本のアニメが変わる

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8月26日に、全国公開となった劇場アニメ『君の名は。』が記録的なスタートを切った。公開日の金曜日と土曜日の2日間で興収は7億7000万円、動員は59万人に達した。また金、土、日の3日間では12億円を突破したと伝えられている。配給を担当する東宝では60億円超えも狙えるとするが、週明け平日も劇場への観客の足は衰えないことから可能性は十分だ。
2016年の邦画アニメでは『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』(興収63.1億円)や『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』(55.3億円 *公開は2015年12月)、『ONE PIECE FILM GOLD』(47億円 *公開中)、『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』(41.2億円)の大ヒットがあるが、同水準、あるいはこれらを超えて年間第1位の可能性もある。実写を含めた邦画でもトップ争いとなりそうだ。『君の名は。』は文字どおりのメガヒットになる。

突然の大ヒットにも見える『君の名は。』だが、新海誠監督に対する高い評価と人気はかねてより定評のあるところ。むしろファンの熱気は、これまでため続けられていた。
監督は2000年に『彼女と彼女の猫』にて第12回CGアニメコンテストでグランプリを受賞し、インディーズシーンで名を上げた。また2002年に公開された『ほしのこえ』が、一大ムーブメントを巻き起こした。その後も『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』で国内外で賞を重ねている。
2013年に東宝映像事業部で配給された『言の葉の庭』は、中編で全国20数館限定、公開と同時にBlu-ray・DVD発売、配信開始にも関わらず1億円を大きく超える興行収入をあげた。これが今回の『君の名は。』でのより大きな公開につながったとみられる。
企業コラボレーションが多いのも特徴で、信濃毎日新聞、大成建設、野村不動産、Z会などがある。実は、これまでもかなり多くの人がその映像に触れている。こうした企業の担当者にも新海ファンは多い。

ただこれまでの作品は短編、中編、CMが多く、ウェブやDVD、Blu-rayで多く観られてきた。累計の視聴者数は多いが、その人気があまり表に出てなかった。映画公開前から、映画に併せて書き下ろされた小説が約35万部売れた事実からも、それは分かるだろう。
それでも現在の大ヒットは、誰もの予想を大きく超えたものだ。作品の素晴らしさが、そうしたエネルギーを発火点に一気に燃え上がった。10数年前、多くの若者が『ほしのこえ』に心を動かされたように、『君の名は。』がいまの若者の心を動かしている。

『君の名は。』がサプライズなのは数字だけでない。本作が劇場オリジナルからのヒットであることも大きい。国内アニメ映画のヒットは多いが、その大半はテレビシリーズから劇場に展開したものである。映画の大きなヒットには、一般層の幅広い支持、知名度の高さが必要だからだ。テレビシリーズのヒット作はすでに人気が確かめられているため、映画でも当たりやすい。

■ 国内興収30億円以上の歴代劇場アニメ(テレビシリーズ展開がないもの)

『千と千尋の神隠し』 304億円
『ハウルのうごく城』 196億円
『もののけ姫』 192億円
『崖のうえのポニョ』 155億円
『風立ちぬ』 120億円
『借りぐらしのアリエッティ』 92億円
『ゲド戦記』 76億円
『猫の恩返し』 64億円
『バケモノの子』 58億円
『紅の豚』 46億円
『コクリコ坂から』 44億円
『平成狸合戦ぽんぽこ』 44億円
『おおかみこどもの雨と雪』 42億円
『魔女の宅急便』 36億円
『思い出のマーニー』 35億円
『おもひでぽろぽろ』 31億円
『耳をすませば』 31億円

例えば興収30億円を超えた邦画アニメで、テレビシリーズから展開しない作品をピックアップすると、17本しかない。このうち15本はスタジオジブリのものだ。“スタジオジブリ”は、それ自体がブランドで、一般にもよく知られているのが理由だ。
そして残りの2作は『バケモノの子』と『おおかみこどもの雨と雪』で、監督は細田守である。興収30億円超えが間違いない『君の名は。』の凄さが分かるだろう。

■ 国内興収30億円以上の歴代劇場アニメ (原作付でないもの/テレビシリーズ展開がないもの)

『千と千尋の神隠し』 宮崎駿監督
『もののけ姫』 宮崎駿監督
『崖のうえのポニョ』 宮崎駿監督
『風立ちぬ』 宮崎駿監督
『バケモノの子』 細田守監督
『紅の豚』 宮崎駿監督
『平成狸合戦ぽんぽこ』 高畑勲監督
『おおかみこどもの雨と雪』 細田守監督

『君の名は。』は原作・脚本を監督自身が手がけている。そこでさらにマンガや小説の原作を持たないオリジナル作品もリストアップしてみるとわずか8本に絞られる。5本が宮崎駿監督、2本が細田守監督、最後の1本は高畑勲監督である。
スタジオジブリが長編アニメの製作を休止しているいま、細田守監督に対する期待が大きい理由である。同時に、ここに並ぶであろう新海誠監督に今後、同様のポストスタジオジブリ的な期待が高まることは避けられないだろう。
ただし、新海誠監督の作品のテーストはスタジオジブリと相当異なる。細田守監督も同様だ。ふたりはポストジブリであると同時に、実はジブリ以外のスタイルでジブリを超える破壊者でもある。これまでは細田守監督の孤軍奮闘だったが、新海誠監督の『君の名は。』の登場で、時代の歯車は大きく回りそうだ。

細田守監督や新海誠監督以外にも、次世代を担う監督は少なくない。興行的には目立たないが原恵一監督は、『カラフル』『百日紅』で世界各国の映画賞を数多く獲得するほど評価が高い。2017年3月には予てより期待の大きな神山健治監督の劇場オリジナル『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』が公開される。
若手では2015年に『心が叫びたがっているんだ。』でヒットを飛ばした長井龍雪監督、9月に『聲の形』で劇場オリジナルに挑戦する山田尚子監督がいる。『けいおん!』『たまこラブストーリー』でヒットを飛ばし逸材だ。いずれも劇場オリジナルに挑戦する実力を蓄えた。テレビシリーズにも、若手の才能は数多い。今後その中からさらなるスター監督が生まれるのでは……、『君の名は。』のメガヒットはそんな日本のアニメの未来を期待させる。

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