フランスで開催中のアヌシー国際アニメーション映画祭で湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』が人気を博している。映画祭の目玉となる長編コンペティションのオフィシャル作品のひとつとして上映中だ。
グローバルで人気の高い湯浅監督の最新作、アヌシーでは2015年の『アドベンチャー・タイム』に続くコンペイン(TV部門:米国作品)と、その注目は一際高い。期間中6度ある上映会はいずれも満員だ。
6月15日には、映画祭のメイン会場BONLIEU GRANDE SALLEにて、湯浅監督と制作プロデューサーのチェ・ウニョン氏が挨拶に立った。
監督は「自身の映画第一作であった『マインド・ゲーム』は高い評価をいただいたが、今回はもっと一般的な映画を作りたかった」と『夜明け告げるルーのうた』について説明。さらに映画づくりにあたっては、テレビアニメを研究したとも。
そうした監督の思いは、フランスの観客にも十分伝わったようだ。上映中はノリのいい音楽のシーンでは、観客から手拍子が起こる場面もあったほどだ。上映終了後は、映画祭の中でも一際大きな拍手が会場を包んだ。
上映後に開催された記者会見もそうした熱気が引き継がれた。企画の誕生や制作体制、クリエイティブの生みだしかた、海外のクリエイターとの仕事についてなどの幅広い質問が1時間近くにわたり浴びせられた。
監督によれば『夜明け告げるルーのうた』は、7、8年前にあったヴァンパイアものの企画がもとになっている。それを3年前から本作としてストーリーを練って、そこからはあまり変更せず現在に至った。
明るい作風になったのは、暗い雰囲気の作品は、これまである程度やってきたためと説明。また影響を与えた人物として、宮崎駿、手塚治虫、芝山努、ブライアン・デ・パルマ、スティーヴン・スピルバーグの名を挙げた。面白くなることを心がけているとも話し、作品づくりにあたりこれまでの作品を相当研究していることが分かる。
アニメーション制作はサイエンスSARUで行っているが、サイエンスSARUでは監督がクリエイティブ、ウニョン氏がマネジメントを担当することが多いという。またフラッシュアニメーションでやることで、より少数で作れるようになったのがスタジオの特長だ。
「大勢で作ることはあまりいいことがなく、少数で働くことがいいのではないか。」と話し、いまの体制が充実している様子だ。
サイエンスSARUがグローバルなクリエイターでチームを作っていることも海外からは関心が高かった。ただ監督は、「能力があれば誰でも国籍ややりかたを問わず一緒にやりたい」と話す。むしろ国境を意識しない結果が、現在の制作チームを生みだした。それは湯浅作品が国境を越えて愛される理由と通じるところがあるのだろう。
上映の反応から、『夜明け告げるルーのうた』が海外でも大きく受け入れられることは間違いなさそうだ。それは映画祭最終日に発表されるアワードも期待できるではと感じさせるにも十分であった。