富山県に本社を持つアニメスタジオの株式会社ピーエーワークス(P.A.WORKS)が、自社で働くアニメーターの育成、採用で新たな方針を打ち出した。2017年6月1日に、公式サイトにて2018年度以降の「アニメーター育成および採用に関する新制度開始」を告知した。「育成」と「採用」の双方で、新制度を導入する。
まず2018年4月より「プロアニメーター養成塾」をスタートする。受講期間は1年間とし、“プロアニメーター”を掲げることから、専門学校や大学での教育と異なる現場直結の講座を目指すことになりそうだ。
また2019年4月より「社員アニメーター」採用制度も開始する。最初の「プロアニメーター養成塾」の受講終了とタイミングを合わせた採用開始であることから、養成塾から社員アニメーターに連続するキャリアを想定していることが窺える。いずれも詳細は今後告知する。
P.A.WORKSは、2000年にプロダクション I.G出身の堀川憲司氏が富山県の地方都市である南砺市に設立したアニメ製作会社である。当時は都会型の産業と思われていたアニメーション制作を、地方都市で実現した異色の存在だ。丁寧な作品づくりに定評があり、2008年の『true tears』で元請けに進出、その後は数々のヒット作を飛ばし、現在はアニメ業界を代表するスタジオのひとつになっている。
地方立地ということもあり、かねてより人材育成に力を入れてきた。しかし、業界の就業環境の厳しさから、アニメーター不足は深刻な状況になっている。そこでこの状況を打破するべく、スタジオとしてアニメーターの社員化という大胆な制度改革に乗り出したようだ。
同社はすでに2017年4月から、在籍スタッフを対象に正社員登用制度を導入している。経験年数や実績に基づいて月額固定給で採用をする。これをさらに採用に拡大する。
過去何年も問題にされながら、国内、とりわけ経験の浅いアニメーターの低賃金はなかなか解決されなかった。しかし、近年は大手制作会社を中心に、原画・動画の1カット、1枚単位でない、固定ベースの支払いを組み合わせた支払体系を導入するケースが見られるようになっている。
今回のP.A.WORKSにような固定給、社員スタッフの導入は、就業環境の改善の切札として今後も増加する可能性は高い。それは手描きのアニメーターよりも賃金水準が高いとされるCGアニメーターの雇用の多くが、社員スタッフであることも影響を与えそうだ。スタジオにとっては負担が大きいが、このままでは作り手がいなくなってしまうとの業界の危機感は大きい。
もうひとつ、今回のP.A.WORKSの試みで注目されるのは、養成塾の設立である。これまで仕事を始めたばかりのアニメーターの賃金が低いのは、技術の習得、育成期間であるためと説明されることがあった。
しかし、今回は育成と仕事を明確に分けることで、そうした曖昧さから生まれる低賃金を排除する。アニメーターの就業環境の大幅な改善が期待出来るだけに、P.A.WORKSの今後が注目される。