「劇場版 ソードアート・オンライン」伊藤智彦監督と研究者がVR/MR最新技術トーク

伊藤智彦監督と研究者がVR/MR最新技術トーク

[取材・文:すさのひろき]

『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール』のトークショウが開催。伊藤智彦監督と研究者が探るVR/MR最新技術からみる『SAO』シリーズの想像力と創造力

■『SAO』のトークショウよろしく、冒頭はVRイベントでの開演

 京都の立命館大学映像学部の関連施設である、立命館松竹スタジオで、2月5日、全世界シリーズ累計1900万部発行の小説『ソードアート・オンライン』シリーズで同原作者川原礫氏 書き下ろしによる完全新作『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール』(以下、『劇場版 SAO』)に関するイベントが行われた。
 立命館大学映像学部とアニプレックスとの連携企画は2009年に実施された『センコロール』の先行上映と、宇木敦哉監督、岩上敦宏エクゼクティブプロデューサー(当時)らを交えたティーチインイベントから数えて実に5作目。

 今回のイベントは、立命館大学映像学部「プロデュース実習II」との連動のもと行われた。イベント内容は、同受講生による企画チーム間でのコンペ形式で選抜されたアイデアが、『劇場版SAO』宣伝プロデュースチーム監修の元、実現化された。

 内容としては、『劇場版SAO』を始め、『SAO』シリーズ全ての監督を務めてきた伊藤智彦氏と、立命館大学映像学部副学部長でVR/MR研究の第一人者である大島登志一教授による対談を中心に、劇中のARデバイス、オーグマーを用いておこなわれるゲーム大会を模したAR的アトラクションや、『SAO』関連の衣装、テレビアニメ版『SAO』のパネル展、展示パネルに iPodをかざすことで、パネルに該当するシーンがその場で見れるAR展示などで構成されている。
 数ある企画の中から本企画を採用した理由は、「作品を理解しその世界観に合わせて提案されたアイデアに魅力を感じた」と同作品の宣伝を担当した相川和也氏はその意図を説明した。

 イベントには公式ホームページを通して告知され、当選したファン100名が立命館松竹スタジオに足を運んだ。中に入ると、近未来的な研究施設の内装が巨大スクリーンに投影されおり、撮影スタジオそのものの独特の雰囲気も相まって正に『SAO』の世界に入り込んだ形に。
 程なくしてアナウンサーが登壇。チュートリアルを経てゲームがはじまった。モンスターとしては、劇中にも登場するグリフォンがあらわれた。観客は来場時に渡された青と赤のサイリウムで迎い撃つ。劇中でも強敵であるとの設定から比較的苦労しつつも、ユナの歌声で回復し、見事撃退。その直後、アナウンサーがこのイベントのMVPを発表すると叫び、会場はどよめいた。スポットライトとともにMVPを明らかとなる。登壇を促すアナウンサー。
 そこで会場の人たちが目をしたのは....なんと伊藤智彦監督ご本人。トークショーへの壮大な「仕込み」に会場からも笑い声があふれた。

■ VR、AR、そしてMR、『SAO』シリーズで目まぐるしく展開される概念を大島教授と伊藤監督がそれぞれの視点から解説

 トークショウは、作品の中でも中核的な位置づけであるVR/MR技術について、同シリーズ作り手側の代表として伊藤監督が、研究者の代表として大島教授が登壇し、それぞれの視点から、「バァーチャル」と「現実」が融合する世界について語られた。
 まず、「SAO」ファンであれば誰もが気になるであろうテーマ、「ナーブギアと現代のVR」について。テレビアニメでのキーデバイスであるナーブギアの形状に関し、大島教授は、ユーザーがかぶるタイプのVRデバイスは実は1989年にVR用デバイスが生まれた時期から2016年に市販用に発売されたVRデバイスまで、同じ形態であることをしめし基本的に変化がないことを強調した。

 これに続いて語られたのが「オーグマーとARの世界」について。劇場版『SAO』では、オーグマーを用いたMMORPG「オーディナル・スケール」がストーリーの主軸となることからこのテーマが選ばれた。
 これについて、ナーブギアのゲームが外界との感覚を遮断して行われるゲームなのに対し、「オーディナル・スケール」は自分の身体を使っておこなうゲームであると説明。16年には、ARや位置情報を活用したゲームが社会現象になったこともありより多くの人に理解されるような環境が整ったと伊藤監督。同時に、このゲームでは実際の体を使う必要が出てくることから、その映像化については、科学未来館が開催していたイベントなどに実際に赴いて取材を重ねるなどしてヒントを得たという。

 一方、VRとARの違いについて、大島教授は「SAO」で使われているデバイスなどがバーチャルと現実との間でどう位置づけられるかを、大学の講義よろしく概念図を用いて解説した。一般的なVR用ヘッドセットはバーチャル側であるのに対し、現実よりなのはウェアブル・コンピュータであるとした。この事実をふまえつつ、ナーブギアはバーチャルよりであり、これは劇中でもバーチャルな世界へ「フルダイブする」というセリフで表現されていたとした。
 これに対し、オーグマーはバーチャルと現実の中間の位置であるARであると説明していた。伊藤監督は、企画当初は、どちらかと言えば現実よりのウェアブル・コンピュータのようなものを想像していたが秋葉原で、バトルをするシーンなどが追加される際に、視覚が現実からバーチャルへ塗り替わっていくといったシーンを追加するうちに、大島教授が言われているようなARに近づいていったと述べた。
 これらを踏まえ、大島教授は「SAO」シリーズが、VRから進化した先にあるミクスト・リアリティ(Mixed Reality:複合現実)とウェアブルコンピュータの進化の先にあるAR(Augument Reality:拡張現実)を自然に統合している点が面白いと評価した。

■ オーグマー着用に必須なのはホログラム型コンタクトレンズ?
VR/MR研究の第一人者、大島教授の鋭い分析に、伊藤監督もタジタジ?

 ナーブギアやオーグマーの実現可能性についても大島教授は言及。「SAO」が面白いのは、実際に研究者ではやらないことを敢えて「if」の世界として入れているとし、その一例として「感覚の遮断」であると大島教授。これをふまえつつ、ナーブギアの実現可能性については「感覚の遮断」及び「運動の信号の遮断」をするかしないかにかかっているとした。これらは、一般的に研究者が研究する領域ではないからだ。

 ただ、これら、感覚や身体信号の遮断という機能を入れなければ、SF作家、アーサー・C・クラークが且つて言ったように「いつ実現するかどうかは分からないものの可能であると言ったほうが嘘をついたことにはならないだろう」とした。
 一方、オーグマーについては、劇中シーンにあるような喫茶店いった際、関連情報が現実に重ね合わせて表示される技術、メガネ型ディスプレイ装置してと実在する技術に忠実であることを示した。同時に、ホームページにおいてオーグマーの仕組みとして示されている「ダイレクト・スキャニング」について伊藤監督に確認。
 これについて、伊藤監督はオーグマーの先端にカメラがありそこから映像を投射する仕組みとなっていると回答した。オーグマーがソニーデザインセンターの方々によってデザインされていることを明かしつつ、未来にはカメラの小型化が限りなく進むということを想定したデザインになっているとのこと。

 その可能性について、網膜操作型ディスプレイが実在することを指摘しつつ大島教授も賛同。また、同デバイスではレーザーを直接網膜に照射することから、あのようなデザインになったのではと推測した。
 ただ、オーグマーのデザインではレーザーを網膜に直接照射するにはあまりにも近すぎることからコンタクトレンズを着用しているのではと推測。更にコンタクトレンズがホログラムになっており、そこにレーザーをあて回折させているのだろうとその仕組みの考察を示した。こういった発想は、VR/MRの研究を第一線でおこなってきた研究者ならではの発想で興味深い。

 最後に『劇場版SAO』の見どころについて聞かれた伊藤監督は「ラストのアクションバトル」をあげると同時に「これまでキリトはVRの世界で最強の存在だったが、今回はARということもあり、強くない立場。そのような中で彼がどう成長していくかに注目してもらいたい」と言葉とともにトークショウを締めくくった。
 トークショウ終了後も「SAO」のパネル展や、AR展示は継続して行われたため、多くの観客がその場に残り、これらのパネルを食い入るように見入っていた。『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール』は2月18日から全国各劇場にて公開される。

『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール』
公式ホームページ http://sao-movie.net/
(C)2016 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/SAO MOVIE Project

KYOTO VREX 2017
http://crossmedia.kyoto/kyoto-vrex/#page-top
立命館大学映像学部
http://www.ritsumei.ac.jp/cias/

[すさのひろき] プロフィール
主に関西を中心に活動するライター。
守備範囲は、アニメ、ゲーム、マンガ、特撮映画並びにそれらに関わる産業振興政策や
聖地巡礼など。

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