2017年5月に第1回の開催を迎える「アニものづくりアワード2017」。アニメやキャラクターを活用した一般企業や団体の優秀なコラボ事例を表彰するユニークな試みとして注目されている。4月5日のエントリー〆切を控え、アワードの目的や意義、これからのアニメビジネスの可能性について、選考委員を務める真木太郎氏らに語ってもらった。
<座談会参加者>
真木太郎 氏(「アニメビジエンス」編集長/ジェンコ代表取締役)
数土直志 氏(ジャーナリスト)
林龍太郎 氏(「ガリガリ」編集長)
司会進行:まつもとあつし 氏(ジャーナリスト)
■「アニものづくりアワード」は「アニメ×異業種」の
優秀コラボを称える日本初のアワード
林:「アニものづくりアワード」は、アニメやマンガ、キャラクターを活用した企業コミュニケーションなどを表彰する、おそらく日本初のアワードです。
ここ数年、テレビでアニメCMを見かけることが増えましたよね。有名企業の商品とアニメコンテンツの意外なコラボレーションや企業のオリジナルキャラクターが話題になることも増えました。特徴的なのは、自動車メーカーや食品メーカーなどの、これまでアニメとは縁の薄かった一般企業がアニメと異業種コラボをしていることです。こうしたアニメを活用したビジネスをどんどん活性化していきたいという思いがあり、真木さんの「アニメビジエンス」とご一緒させてもらい、アワードをお手伝いしています。
――エントリーや応募部門について簡単に教えてください。
林:4月5日まで募集中です。カテゴリーはアニメCM部門、コンテンツコラボ部門、オリジナルコンテンツ部門、クラフトデザイン部門、ベストプロダクション部門の全5部門です。最終的な発表と表彰イベントを、5月に徳島で行われる「マチ★アソビ」会場で行います。
――このアワードはWEBメディアの「ガリガリ」とアニメビジネス誌『アニメビジエンス』の共同運営になりますが、編集長の真木さんから経緯や期待をしていることなどについて、お話いただけますか。
真木:『アニメビジエンス』は、産業としてのアニメって何なのかを考えてみたくて創刊をして、今年で3年目です。アニメ産業って実は未知の可能性がものすごくあると思っているんですよ。いまアニメビジネスの世界では、まさに映像の売り買い以外のこと、いわゆるキャラクターを使ったライセンスビジネスに肝があって、プロデューサーという立場で言うと「いかにライセンスを細分化して世に出していくか」ということがとても大事なわけです。
ところが、これだけ日本全国にキャラクターがあふれていて、年齢性別を問わず非常に親しみを持ってキャラクターが浸透しているのにもかかわらず、コラボの実例というのは異常に少ないと僕は感じているんです。そういう状況が、このアニものづくりのアワードを通じて活性化するきっかけになればいいなと思いますね。
――数土さんは、選考委員としてこのアワードにどんなことを期待していますか。
数土:最初に選考委員の話をいただいたとき、面白い!と思いました。アニメのタイアップって、全貌って分からないじゃないですか。どのぐらいの数があってどういう作品が出ているのか、それがアワードという形でまとまって紹介されるのであればちょっと面白いですよね。優秀コラボの事例が示されれば、他の企業も続く可能性が出てくれば、それも意義のあることだと思いますので。
選考にあたって大事にしたいのは、どのぐらい広がったかはもちろん重要なんですが、「ファンがたくさんいるメジャー作品とコラボしました」だけでは面白みに欠けるので、僕自身としてはやっぱりアイデアが優れていて楽しいということ、「これがあったんだ!」という驚きがあるといいですね。
■ エポックメイキングだったトヨタ「シャア専用オーリス」(2013)
――これまでも当然アニメを使ったプロモーションというのはあったと思うのですが、以前と状況は変わってきたのでしょうか?
真木:要するに一般の企業にとってのアニメCMって、おもちゃ、飲料、文房具とアトムの頃からまさに子どものものだったんですよ。もう1つはおたくのもので、子どもとおたくは非常にニッチなだけに一般の企業からすると避けていた歴史は間違いなくあると思う。
20年以上前の話だけど、あるアニメ作品のPRでテレビスポットを打ってくれと、当時の親会社(メーカー)にセールスに行ったんだよね。そしたらプロレスとアニメには提供しないという広告部の内規があるって言われて、断られたことがありました。そういう体質を持つ企業は、今も多いのかもしれないですね。
ーーその一方で、色物扱いされてきたアニメとかキャラクターを使ったプロモーションが、ここ2〜3年で一気にメジャーになりつつあるような気もします。
林:その意味で僕が思っている代表例は、2013年にトヨタが発表した「シャア専用オーリス」ですね。トヨタのような日本を代表する企業が、アニメを企業コミュニケーションやものづくりに取り入れたということ、そしてちゃんと話題になったということが、エポックメイキングな出来事でした。これをきっかけに他の大手企業が、「あ、僕らもやっていいんだ」って意識が変わったと思うんですよね。実際、このあと食品メーカーや飲料メーカーをはじめ、いろんな大手企業がアニメとコラボをしたりオリジナルコンテンツをつくったりする事例が急に増えてきた気がします。
ーー自動車業界は若者の車離れに危機感を抱いていて、どうやって若者に振り向いてもらうか?を大きなテーマにしていますよね。
林:そういったことも、おそらくコラボのきっかけになったのではないでしょうか。トヨタといえば去年、プリウスの擬人化も話題になりました。それぞれの部品を擬人化して、有名な声優さんにそのキャラクターの声をやってもらうという、尖ったプロモーションだったのですが、これも大きなチャレンジだったと思います。
真木:4~5年ぐらい前、パナソニックがインドで忍者ハットリくんを使ってテレビCMでクーラーとか冷蔵庫の宣伝をしていたんですよ。インドではハットリくんがすごく人気があったからなんだけど、逆に日本ではそういうことをしないよね。
ーーむしろ海外のほうが素直に日本のアニメとかキャラクターの人気を素直に受け止めていた面があるかもしれない、と?
真木:そうですね。
数土:おそらくインドの例は「大衆的に人気のあるキャラクターでいろんな人にアピールしよう」なんですよ。けれども日本の場合は、「今までの手法だとどうも広がりがないので、何かアニメファンってすごい大きなボリュームがあるみたいだから、そこをプラスアルファで捕まえよう」と、みんなに向けているわけじゃない。そこに大きな差があると思うんですよ。
林:若者たちがCMを見てくれない、普通の広告アプローチでは届かないとなったときに、その層が興味を持っているコンテンツと組む、その1つがアニメやマンガであるということですよね。有名なキャラクターと組めばいいという旧来の意識から、目的によってコンテンツの選び方、宣伝の仕方に工夫が必要だということに気付いた企業も多くなってきたので、コンテンツとのコラボは新たな成長段階に入り始めたと僕は思っています。
■ アニメCMには絶対的な効果がある半面、業界的には大きな課題も
林:大手企業が手がけたアニメCMが、特にいま注目されています。大成建設が新海誠さんと組んでつくったCMは、あの若い人を中心に建設業の見え方をガラリと変えたと思うんですよね。
真木:リクルーティングの効果としては抜群ですね。
林:建設の現場がすごい達成感のあるものとして描かれていて。あれはアニメーションだからこそできることだし、企業やブランドの見え方を変えるパワーがあったと思います。
真木:大成建設もそうだしZ会も新海監督だよね? あのCMもすごかった。
数土:きちっとしたストーリーでしたしね。
真木:あれを実写でやったら、まったくあんな風にはならない。アニメの表現って、企業のブランディングには抜群に向いていると思うな。
数土:「動く」って重要ですよね。キャラクターをつくっただけだと、なかなか認知度は上がらないけれど、それが動き出した途端、とても魅力的に見える。そういうアニメの効果ってすごく大きいと思います。
真木:それに企業の側というか広告業界は気付いてないのか、まだまだその入り口なのか、どうなのでしょうね。
林:効果はなんとなく認識していても、わざわざアニメCMをつくってどれだけ売上が上がるんだとか、どれだけブランド認知が変わるんだとか、それを具体的に説明するのが非常に難しいんですよね。新海さんのような成功事例がどんどん出てくれば、作品も加速度的に増えていくと思うのですが、アニメCMをつくるのは企業の立場から言えば、まだまだ勇気がいることなんですよ。
数土:アニメCMはライツに手間がかかるとか、何か障害になることはあるんですか?
林:大きな壁は2つあって、1つは金銭面。実写で撮るよりも高くなるケースが多いので、高いなりの価値があると感じてもらえる内容かどうか、あるいは画期的な手法を使ってコストを抑えていくといったことが必要です。
真木:制作期間も実写CMに比べてはるかに長いしね。
林:もう1つはまさにそこです。制作期間が企業の広告スケジュール感と合わない。企業には時間がかかることを認知してもらう必要があるし、アニメ業界には企業の案件を受け入れられるようなプロダクション側の受け入れ体制や対応できるプロデューサーの育成といった課題がありますね。成功させるには、両者の歩み寄りが必要になってくると思います。
真木:制作会社はほとんどCMの経験がないですよね。せっかく企業側がアニメの効果を認めつつあるのに、それを生み出す側のアニメ業界がそこに対応できる体制になってない。新海監督がたまたま何本かやれたのは、彼の会社にCMをつくる体制が少しずつ備わってきたという部分も大きい。普通のスタジオだと、たぶんCMをつくるのは厳しいだろうね。
林:「アニものづくりアワード」としては、成功事例がそういった課題をどうクリアしていったのかも紹介していきたいと思っています。
■ コラボ商品が成功するためのキモは、どう楽しむかというアイデアとPR
ーーここまで映像の話が中心でしたが、「アニものづくりアワード」はコラボ商品も応募の対象です。先ほど真木さんからライセンスアウトの重要性についてお話がありましたが、実際の現場を見てどんな可能性があると感じていますか。
真木:聖地巡礼って今回のアワードに関係ありますか?
林:もちろんあります。「アニものづくり」って物をつくる「ものづくり」の意味合いだけじゃなく、体験をつくる「ことづくり」といった意味も含めて「アニものづくり」なんです。地方創生とアニメのコラボ事例などもぜひ応募してもらいたいですね。
数土:スタンプラリーみたいなものも入るわけですよね。
真木:ゆるキャラをつかった地方創生とか、インバウンドというのかな、海外の方の観光誘致みたいなものには大きな可能性があるでしょうね。いわゆるアニメグッズじゃないアニメの楽しみ方、それは要するにどう楽しむかというアイデアだよね。
数土:その通りですね。
真木:僕がいまやりたいと思っているのは、「あるキャラクターがまちおこしに行くので、アイデアを出し合ってコラボしましょう」という試み。偉そうに言うわけじゃないけども、「もうちょっとプロが入ればなんとかなるんじゃないの?」っていうケースも多い気がする。結果的にウインウインになればこんなにいいことはないわけですよ。
林:世にちゃんと出ればみんなに受け入れられたり、かなり人気になったりする可能性があるのにもかかわらず、限られた地方や業界で局所的に収まっちゃってるものはある気がします。
数土:個人的には、伝統工芸とアニメのタイアップには、当初は懐疑的だったんですよ。つまり「割と地味である伝統工芸品を、アニメとガッチャンコすれば売れるだろう」という、イージーな取り組みかなと最初は思っていたんだけど、実際には、素晴らしい商品が沢山作られています。ただ、攻殻機動隊の浮世絵だったり、ガンダムの九谷焼は確かにすごいんだけど、その存在があまり知られていない。店頭に並べるだけでは、そこまで目に留まるのかなとか、見逃されてるんじゃないかと感じてもいます。
林:コラボ商品が成功するためには、3つ関門があると思うんです。まず最初はどんな商品をつくるかという商品企画、それが第1関門。第2の関門がコンテンツとの交渉、つまりコンテンツを口説くというステップ。商品が存在すること、その魅力を知ってもらうのは、実はものすごい難しい。
真木:第1も第2もどちらも結構大変ですよね。
林:はい、大変なんですけれども、皆さんここまでは頑張ってやるんです。ところが、その先の落とし穴として宣伝プロモーションという第3の関門がある。つくったはいいけど、これだけキャラクターとかコンテンツがあふれている国なわけで、せっかくつくったいいものを世の中の人に知ってもらうことができずに埋もれちゃっているケースがたくさんあるんですよ。
数土:そうそう、プロモーションができてない。僕が編集長としてアニメのニュースメディアをしていたときの経験で言えば、リリースは山のように来るわけです。メディア側としては、アニメの新作情報とか映画の公開決定のような情報のほうを優先してしまうし、商品情報は後回しになりがちです。よほど記者の興味を引く内容でないとなかなか記事になりにくいですよね。
ーー熱意だけでは解決できない要素があるということですよね。かといって、お金でもない。
林:じゃあお金をかけてCMを打ちましょう、っていう話でもないんですよね。この領域ならではのPRのやり方とか、プロモーションのノウハウがあったりするので、それを調べたり勉強してからでないと成功させるのは難しいかもしれません。僕らも単にアワードをやるというだけじゃなくて、その後にセミナーや勉強会を開催するなど、自社でやるときの参考になる有益な情報を発信していかないといけませんね。
ーー「アニものづくりアワード」が盛り上げれば、アニメやコンテンツとコラボがしやすくなる環境が醸成されて、みんなにチャンスも訪れますしね。では、最後に林さんから〆の一言をお願いします。
林:「アニメ×異業種」によるコラボレーション=「アニものづくり」は、新しいイノベーションを産む可能性を秘めています。たくさんの企業の方々に興味を持っていただき、参加していただくことで、少しでもスムーズにコラボレーションができるよう、後押しするアワードになればと考えています。また、Japan Expoさんやクールジャパン機構さんにも後援していただいていますが、
「アニものづくり」という言葉が、日本だけじゃなくゆくゆくは海外でも「Ani-monozukuri」として浸透してもらいたいし、グローバル企業にアニメとコラボした商品づくりをして世界に発信してもらいたいという夢を持って、今後も活動していきたいと考えていますので、ぜひ期待してください。
アニものづくりアワード2017 公式サイト
https://animono.jp