国内大手金融グループのみずほ証券は、権利マネジメントのロイヤリティバンク、金融ブロックチェーンのクエストリーの2社と共同でコンテンツファンドの組成事業に乗り出す。組成するコンテンツファンドは、アニメ映画の製作資金調達を目的する。世界的に人気が盛り上がりながら課題も多いアニメ業界の問題解決や中長期の発展を助けるとする。
今回のファンドの枠組では、機関投資家などアニメ業界の外からの第三者の資金活用した幅広い資金調達を念頭に入れている。また事業を通じてアニメーション制作の現場も含めて関与する人々のインセンティブを高める。これらを通じて投資が将来にわたって持続するエコシステムを構築することを目指している。将来的にはデジタル技術の活用や決済通貨の多様化も視野に入れる。
みずほ証券によれば現在のコンテンツビジネスは、金融やデジタル技術を活用したフィンテックの余地が大きい分野だ。このなかでコンテンツ業界を活性化できるような枠組みを構築し、新たな投資家が参加するためのスキームづくりや運用などのストラクチャードファイナンスの技術を活かせるとする。
共同事業者のクエストリーは、2022年に投資証券会社出身の伊部智信氏が設立。金融ブロックチェーンの技術を活かして新たな資金調達の枠組づくりに実績を築きつつある。
ロイヤリティバンクも新しい企業で2021年の設立だ。NFTを利用した事業のほか、音楽・マンガの権利取引プラットフォームや知的財産を活用した資金調達などを手がける。
両社の特徴はフィンテックと呼ばれる金融テクノロジーを駆使した資金調達のノウハウと、この分野で成長を目指すベンチャー企業ということだ。そこに企業とネットワークや実際にファンドのノウハウを持つみずほ銀行が加わる。
ただし共同で取り組むことは発表されたが、今回の3社の事業は明確になっていない部分が多い。一般にコンテンツファンドといっても、ベンチャーキャピタルのような特定の投資家と交渉し出資を募るのか、法人あるいは個人から出資を募るのかで仕組みも考えかたも大きく異なる。ファンドの期間や規模、どのような仕組みを目指すのかはほぼ発表がない。
さらにアニメ映画に投資するとあるが、一般に投資の収益期待が高い人気作品の多くは既存の出資者で固めらるケースがほとんどである。独自の目線による原作選定と映画化企画によりアニメ映画製作を開始しているとするが、具体的にどのような作品を、どのように基準で対象をみつけるのか方法は曖昧である。
コンテンツファンドは、00年代に一度、アニメ会社や金融業界から注目されたことがあった。コンテンツ専門の金融会社ジャパン・デジタル・コンテンツ信託が設立されたほか、アニメ作品を投資対象とした「アニメファンド! バジリスク匿名組合」といった一般投資家向けのファンドが組まれ販売もされたりした。
しかしそうした取り組みは、その後は大きな流れになることがなく、コンテンツを対象にしたファンドは近年までほぼ途絶えている。
大きな理由には、エンタテイメント作品はハイリスクハイリターンの傾向が強く、単独もしくは数作品だけの投資ではリターンを得られないケースが続発することにある。
さらにファンド組成と運用には様々なコストが発生する。数億、数十億円から100億円を超えるぐらいの小規模なファンドでは、コストが嵩み利益が食いつぶされる。結果として投資側も運営側も十分な利益を得ることができない。
こうした00年代のコンテンツファンドの持っていた弱点は、2020年代の現在もあまり変化していないはずだ。それを乗り越えるためのフィンテックだが、それらがどのようにこうした弱点を克服するかの説明が不十分だ。
新しいファンドへの関心を維持し事業を成功させるためには、ハードルをどのように乗り越えるかを説得力を持って説明し、実践していくことが鍵になるだろう。