総合エンタテイメント企業のKADOKAWAが、埼玉県所沢市にビジネスとエンタテイメントの拠点となる複合施設プロジェクト「ところざわサクラタウン(仮)」を推し進める。2016年12月にKADOKAWAはプロジェクトの概要を明らかした。約400億円を投じて、書籍製造・物流工場、コンテンツ開発拠点の所沢キャンパス、そして文化・サービス拠点の3つの新施設を建築する。
コンテンツの創出、その製造と物流、さらに文化・商業・ホテル施設が一体化したものを目指す。8万4000㎡の建設用地はすでに32億7400万円で取得済み、既存建物の解体、撤去、造成工事も費用12億4000万円で終了している。今後は2018年2月に着工、2020年4月の竣工を目指す。
プロジェクトは2015年8月に構想と着手を公表していたが、今回は個別の施設の概要も明らかになった。
最も大きな投資になるのは、書籍製造・物流工場である。246億円をかけ、最新鋭のデジタル設備を導入したデジタル製造・物流プラットフォームとなる。書籍を一部単位で低コストに印刷できるのが大きな特徴だ。小ロットの製造やビジネスのタイミングに応じた製造と配送を実現することで、出版事業の利益率の向上を目指す。海外拠点との連動による多言語同時出版も可能になる。
246億円の投資は、ドワンゴも含めたグループ全体で年間売上高2000億円のカドカワにとっては大きなものだ。しかし、工場完成すれば製造・流通体制の劇的な変化と堅固な利益体質が期待できる。他の大手出版社に対して大きなアドバンテージを持つことも可能になる。
逆にやや懸念が残るのが、64億円を投じる所沢キャンパスである。グループの一部も移転したコンテンツ開発のオフィスとなる。現在の飯田橋と合せた2大拠点を目指す。具体的な部門部署については言及されていないが、製造と販売の一体化も挙げており出版・編集部門も含まれていそうだ。
大手出版社が編集部門、コンテンツ開発部門を都心以外に設ける例は、これまでになく大きなチャレンジになりそうだ。人材をどう惹きつけるかが課題になる。所沢キャンパスでは、「ワークスタイル革命」を掲げるが、これが大きな鍵を握りそうだ。
そして、ユーザーやファンにとって楽しみなのは、3つめの新事業施設だろう。建設に89億円をかける日本のポップカルチャーの拠点となる。イベント会場や企画展示場、商業施設、さらにホテルなどを収容する。
イベント会場ではアニメやゲーム関連の企画、2.5次元舞台、企画展示場ではポップカルチャーの展示、さらにホテルでも人気コンテンツを融合させる。隣接地には、一般財団法人角川文化振興財団が建設する「角川ロックミュージアム(仮称)」の建設・運営も予定されている。こちらには図書館、美術館、博物館が予定されている。併せて日本のポップカルチャーの一大拠点となる。国内外から観光客が訪れる大型インバウンド施設になりそうだ。
ポップカルチャーの大型施設の必要性は、コンテンツ産業の活性化、インバウンドの促進で近年、しばしば指摘されている。しかし、国や地方行政の動きは鈍い。民間企業がこうしたプロジェクトを打ち立てるのもまた日本らしい。