東宝 アニメーション制作サイエンス SARUの全株式取得、完全子会社化

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 映画大手の東宝が、アニメーション制作事業の強化を急ピッチで進めている。東宝は2024年5月24日にアニメーション制作のサイエンス SARUの全株式を取得し、子会社化すると発表した。
 サイエンス SARU は2013 年に設立されたアニメスタジオで、東京都武蔵野市吉祥寺に拠点を持つ。これまで数々の劇場アニメ、アニメシリーズを制作してきた。クリエイティブを重視したクオリティの高い映像づくり、クリエイターとビジネスの両面でのグローバルネットワークに定評がある。
 現在はスタジオを離れたが、日本を代表する湯浅政明監督の作品を数多く手がけたことで知られてきた。2017 年にはアヌシー国際アニメーション映画祭で湯浅監督の『夜明け告げるルーのうた』で長編部門クリスタル賞(グランプリ)を受賞、2022 年公開の『犬王』は米国ゴールデングローブ賞最優秀長編アニメーション映画賞にノミネートされている。
 近年はより多くの監督で作品を制作、シリーズ作品にも積極的だ。『平家物語』、『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』、『ダンダダン』などがある。
 また2024年夏には、国内外から注目される山田尚子監督の最新長編映画『きみの色』が東宝配給で全国公開される。こうした東宝とのむすびつきが今回のスタジオ取得につながったとみられる。

 サイエンス SARUの経営は安定しており、過去3年間は黒字が続いている。2024年1月期は売上高14億300万円、営業利益4億2800万円、経常利益5億2600万円、当期純利益3億5000万円だった。
 代表取締役はプロデューサーでもあるチェ・ウニョン氏。株式はチェ・ウニョン氏が全てを保有しており、東宝は6月19日付でこの全株式の譲渡を受ける。譲渡価額は非公表。譲渡後に2025年2月期第2四半期よりサイエンス SARUは東宝の連結子会社となる。

 子会社化の目的について東宝は、2022 年4月に策定した「TOHO VISION 2032 東宝グループ 経営戦略」に基づくものと説明する。経営戦略では「企画&IP」「アニメーション」「デジタル」「海外」を成長戦略のキーワードとし、そのうえでM&A を含む成長に向けた投資の促進を打ち出していた。
 海外評価が高く、安定して作品制作を続けるサイエンス SARUが、ここにはまった。また、オリジナルの長編アニメ映画に強みを持っている東宝に、山田尚子監督作品を制作する同社が魅力的に映ったと見られる。

 東宝は配給や興行では大手だが、アニメ製作はここ10年で急激に成長した新事業となっている。近年は製作出資やライセンス事業などは拡大しているが、自社スタジオでの制作はほとんどなく弱点になっていた。
 そこで2020年にTIAに出資、22年にはTOHO animation STUDIOとして子会社化したばかりだ。サイエンス SARUの子会社化はこれに続くものになる。2Dアニメーション制作が大幅に強化される。
 東宝は今回の子会社化について、サイエンスSARUがグループ加わることで、質の高いアニメーションの制作能力の強化、またグループのアニメ事業の成長スピードを加速を期待する。さらに子会社化により制作環境の向上や、より多くの創作機会を提供するとしている。

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