ベストセラー小説「かがみの孤城」に挑んだアニメ監督・原恵一に訊く

かがみの弧城

 本屋大賞に輝く辻村深月の『かがみの孤城』は、ベストセラーとして世代を超えて支持を集めてきた。学校で居場所をなくした主人公・こころを含む7人の中学生たちが、ある日鏡の中に引き込まれ海にそびえ立つお城に招き寄せられる。そこで彼らに与えられたのは、なんでも願いが叶う部屋が城にあり、その鍵をみつけたひとりだけがそれを実現できるというものだ。巧みに貼られた伏線、最後の畳み掛けるような大団円が人気の秘密だ。12月23日に劇場公開され、すでに大きな話題を呼んでいる。
 『かがみの孤城』の劇場アニメ化決定は大きなニュースとなったが、さらに監督を『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』や『カラフル』、『百日紅 〜Miss HOKUSAI〜』の原恵一が務めることでも注目を集めている。国内外で多くの映画賞を受賞してきた監督はいかに本作に挑んだのか。原恵一監督にお話を伺った。
[取材・編集:数土直志]

映画『かがみの孤城』公式サイト https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/

――今回、辻村深月さんのベストセラー小説『かがみの孤城』の劇場アニメ化で監督として取り組みました。本企画がどう立ち上がって、原監督が作品を引き受けた理由は何ですか?

原監督  松竹でこの作品のプロデュースをやっておられる新垣弘隆さんから依頼がありました。同じ松竹で僕が初めて実写映画監督をした『はじまりのみち』のときに彼も初めてのプロデューサーとして参加していたのです。新垣さんはずっと実写を作っていたのですけれど、今回は日本テレビと組んでこの原作を劇場アニメにする。その時に「監督を引き受けて欲しい」と言われたのが経緯です。それに「やります」と答えました。

――『かがみの孤城』は小説が原作で、これまでも舞台化やコミカライズなどもされています。今回アニメーションで表現する時にはどう描写していくべきと思われましたか?

原監督  本屋大賞も取っていますし、百七十万部も売れている。ですので原作を読んだ人をがっかりさせないように映像化しないといけないと最初に思いました。まずは、真田というこころのクラスメイトの女の子をどれだけ憎らしく描けるか。そこは肝だぞと思いましたね。真田がきちんと描けていないと、こころにお客さんが感情移入ができないですよね。

――今回は何人もの中学生が主要なキャラクターとなっていますが、監督は中学生という年齢をどう捉えているのでしょうか?

原監督  そうですね。なんだろう、なんか一番曖昧な年頃じゃないですか中学生って。大人に見られたり子供って見られたり。個人差もすごく広がる年頃ですよね。中学生は成長が早い子もいれば遅い子もいるし。そういう雰囲気が映画の中にうまく出せればいいなと思いました。

――思い入れのあるキャラクターはいますか

原監督  やっぱりアキかな。一番重いものを背負っている子なんで。アキの表現はやっぱり難しかったし、同時にとても楽しかったです。ものすごく複雑な子じゃないですか。そういうキャラクターを描くのは監督としては腕の振るいがいがある。腕が鳴るって感じだったんです。
けれどそれにどういった芝居がつくのだろうというのは考えていました。そこにアフレコでアキ役の吉柳咲良さんの声の芝居を聞いた時に鳥肌が立ちました。「すごい」。

―それはどういう点で?

原監督  いや、もう本当アキだと思ったんですよ。うまさで言ったらもう抜群だったんです。アキには本当に悔しい、悲しいし、もうあらゆる負の気持ちを表現しないといけない泣くシーンがあるんですけれど、その芝居が見事でした。

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――映画は中学生や高校生といった若い世代もたくさん観るはずですが、そういった人たちに監督はどういったメッセージを送りたいと?

原監督  原作者の辻村さんが創作のテーマの一つとして選んでいるのが、学校で孤立してしまう問題だったりとかです。辻村さん自身もあまり楽しい学生時代を送れなかったと言っていて、だからこそ今こういうお話が書けるんだって。そういうかたのメッセージはやっぱり同じような子たちにちゃんと届くと思うんです。僕はそうしたメッセージを映像として手渡す仲介役として役割をちゃんとできたかなと。

――映像として伝えられた?

原監督  映画の終わりの方で、それまでこころとずっと口をきいてなかった東条さんという近所の女の子が久しぶりに2人でアイスクリームを食べながら話す静かな会話シーンがあるんです。僕はああいうシーンがすごい好きなんですよ。なにげない会話で、もしくは語らないことで全部何かが伝わる。今は何でもかんでも説明するのが正しいみたいな作り方が多いと思うんですけれど、やっぱり沈黙って必要だと思いますし。だから東条さんがポツリと「ごめんね」、こころは「いいよ」と言う。そういう演出をするのが、やっぱり僕は大好きです。

――自分の好きな演出の話があったのですけど、今回の作品で自分の中で新しい演出の発見があったみたいなことはありますか?

原監督  僕自身の作り方はどの作品もそんなに変わらないです。今回はこうしようとか、特別に色の変化みたいなのは意識はしてないんですよね。むしろ今回の映画に関しては、富貴晴美さんの音楽がすごかった。それが発見です。これまでもすごいとは思っていたけど、「こんなにすごかったのか」って改めて思いました。
僕が一番驚いたのは、光の階段を登るシーン。僕は絵コンテに音楽についてもインとアウト(始まりと終わり)を、こんな雰囲気でって書くんです。このシーンはちょっとスリルのあるサスペンスみたいなワードを書いていたんですよ。だけど彼女が上げてきた曲は、こころの勇気を表現した音楽に変えてきたもので「ちょっとやられたな」と。「そうなんだよ、こういうシーンなんだ」って教えてもらった気がしました。今までこういうことができなかったこころが勇気を出して底が抜けるかもしれない階段をおそるおそる登っていく。あの音楽によって彼女の意思が見ている人に伝わる。まだラフなシーンの絵にそういう音楽のデモを貼り付けてきて、「やってくれた」と思いました。富貴さんとの仕事はいつも楽しいし、お互い本気だぞって言うやり取りができるんで本当に気持ちいいですよ。

――最後にここは見逃せないといったところがありましたら教えてください。

原監督  実はお馴染みのキャラクターが隠れています。(笑) 冒頭のこころの教室のシーンです。こういうのは本当にアフレコの前日とか当日に突然思いつくんですよ。ちょっと注意していると聞こえてくるので、耳をすましてください。元本物が子供にダメ出しされるっていう…。
あと、あの有名キャラの決め台詞も実は伏線なんですよ。

――(笑)楽しみですね。本日はありがとうございました。

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