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TVアニメ『イングレス』 櫻木優平監督、石井朋彦プロデューサー インタビュー
- 2018/10/4
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作り方かたも枠組みも、全てがチャレンジの新時代アニメ
2018年10月17日(水)からフジテレビ「+ULTRA」枠で放送開始するテレビアニメ『イングレス』が、日本のアニメ界に新しい風を巻き起こしそうだ。
原作はNiantic, Inc.が開発・運営するスマートフォン向けリアルワールドゲーム『Ingress』。2015年にGoogleから独立したNiantic, Inc.が2012年にスタートした。実在する建造物などのポータルを取り合い、自分のチームのポータル同士をリンクして陣地をつくることで、チームの得点を獲得する。現実世界とSF調のデジタル世界を重ね合わせたおもしろさが、日本を含め、世界各地に数多くの熱狂的なプレイヤーを持つ。
フジテレビが14年ぶりに設けたアニメ新枠「+Ultra」の第一弾で、NETFLIXにて全世界配信される。作品を取り巻く枠組みに、期待の大きさも感じられる。
それに応えるべく、参加するスタッフも飛びきりだ。アニメーション制作のクラフターは、“スマートCGアニメーション”を掲げ、新時代の映像を目指す注目のスタジオ。監督をつとめる櫻木優平は、デジタル技術を駆使した新しいアニメーション表現を生み出す気鋭のクリエイターである。岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』のCGディレクター、宮崎駿監督の三鷹の森ジブリ美術館用短編アニメ『毛虫のボロ』のCG制作に参加、さらに「日本アニメ(ーター)見本市」『新世紀いんぱくつ。』やHuluオリジナルアニメ『ソウタイセカイ』では監督を務めた。今回はテレビアニメの初監督になる。
作品の創り出しかた、届けかた、アニメ『イングレス』にはいたる所に新たな挑戦が満ちている。今回、ゲームとアニメの融合を目指す櫻木優平監督と、クラフターの取締役プロデューサーである石井朋彦氏に、アニメ『イングレス』での挑戦について伺った。
[インタビュー/編集 数土直志]
『 INGRESS THE ANIMATION 』
http://ingressanime.com/
2018年10月17日よりフジテレビ「+Ultra」にて毎週水曜日24:55から放送
NETFLIXにて10月18日(木)より日本先行全話一斉配信
ほか各局にて放送
関西テレビ/東海テレビ/テレビ西日本/北海道文化放送/BSフジ
■『イングレス』の世界観はアニメに向いている
― 突然な質問からになりますが、監督はお歳はいくつですか?
櫻木優平監督(以下、櫻木) 33歳です。
― 実はその若いというのをお聞きしたかったんです。いまアニメの演出はベテランのかたも多いですから、テレビシリーズ監督を若くして挑戦されるのはそう多くないと思います。
そのなかで櫻木監督は短編アニメ『毛虫のボロ』のCGで宮崎駿監督と仕事をされたり、昨年はHuluオリジナルアニメ『ソウタイセカイ』で監督をしています。とても輝いたキャリアですが、それは自身で意識されたりはしますか?
櫻木 やった仕事はキャリアとしてついてきますが、自分の意識ではあまりないですね。自分のなかではまだ新人監督だと思っています。むしろもっと作品数をやらなければという気持ちや、あせりもあります。若いうち、20代からガンガン作っている同世代の監督さんもいますので、そこは気にはなります。
― アニメ『イングレス』で、監督を櫻木さんというのは早い段階から決まっていたのですか?
石井朋彦プロデューサー(以下、石井) 『イングレス』を作ると決まったところですぐ櫻木に「これやらない?」と話して、承諾をもらいました。
― 『Ingress』という題材を聞いて、監督はすぐにアニメにできると思われましたか?
櫻木 ゲームは知っていましたので、題材も、ビジュアル的にもアニメ向きだなと思っていました。この舞台にキャラクターを置いて、あの世界のエフェクトを使った物語であれば、「とんでもないことだ」という印象はなかったです。ただ当初は、『Ingress』の世界にこんなにバックストーリーが走っているとは知らなかったです。
― 「困ったな」というよりは、「よし!」みたいな?
櫻木 そうですね。現実的なものが来たという印象でしたね。もちろん今回は海外の方々といろいろとやりとりしないといけないし、いろんなかたのご協力が必要になるし、ご迷惑をおかけする事もあるかもしれませんという前提ではあります。
― プロデューサーとしても、『Ingress』という題材は現実的なものと?
石井 やれると思った理由がふたつあります。『Ingress』には、特定の主人公やキャラクターは存在しません。このゲームの主人公は「世界観」だと考えました。エキゾチックマターという未知の物質を巡って青い勢力と緑の勢力が戦っている。その世界観は、エンタテインメントになり得る。われわれが面白いと思うキャラクターとストーリーを盛り込めば、必ず面白くできると思えました。
― もうひとつは?
石井 以前からNiantic, Inc.のアジア統括本部長である川島優志さんと、「アニメのキャラクターが現実に出て来ても時代だよね」と議論していました。日本、そして世界中の人が大好きなアニメのキャラクターが現実になる時代が来るのではないかと。
アニメ化のお話を頂いた時、『Ingress』という拡張現実ゲームのアニメ化であれば、櫻木監督が取り組んできたスマートCGアニメーション表現が、向くのではないかと考えました。
■スマートCGはスタイルだけでない あらゆるメディアの展開を目指すコンセプト
― “スマートCGアニメーション”とは、そもそもどういうコンセプトなのですか?
櫻木 いまセルスタイルのCGがありますが、あれをベースにしています。けれどスマートCGはそのこと自体を言っているわけでありません。CGで作ることであらゆる媒体に使え、いろんな部分にスマートに展開できるという意味です。さらにCGを使うことで、これまで必要でなかった作業を減らせる。スマートにいい品質のものが作れて、演出などに集中できるという意味合いです。
― 新しい技術を使うことに、これまでと違うことをやりたい気持ちがあるのでしょうか?
櫻木 というよりは、新しいことをしないとアニメは作れない。それがいまの日本のアニメ業界の現実だと思います。これまで作画を続けていましたが、それがもう作れなくなるのではないかと、いろいろなところで言われています。確かにそのとおりです。けれども日本の予算感では、フル3Dでディズニーやピクサーのような作風では戦えないという印象です。人の数、国の広さが違うので。国内で作るのであれば、違うアプローチをする必要がある。それなら日本のアニメ業界が築いてきた文化をうまく使って、独自のCG表現ができるのではないか。それをいまやろうとしています。
― スマートCGアニメーションを使うことで世界に勝てる?
櫻木 戦えるとは思っています。勝ちにいきたいなと。
― 石井プロデューサーから『イングレス』が現実に飛び出るかもしれないという話がありましたが、ARやVRといった活用も念頭に置いていたりするのですか?
櫻木 正直、自分としては最初からはそこを考えていません。まずはアニメをしっかり作ろうと思っています。勿論、キャラクターも3Dですし、背景も場合によってはCGですので、そうした要望があればすっと移れます。
■日本とアメリカ 国を超えたチームが生みだすアニメ『イングレス』
― 今回日米でチームを組ながらの制作ですが、国を超えたコミュニケーションは大変そうです。
櫻木 見方が違ったりとか、「どういうことなんだろう?」というところは、やはりありました。けれども川島さんが本当に上手くコミュニケーションを取って、カルチャーを通訳していただきました。スムーズでしたね。
― 『Ingress』という世界的なゲームを題材に全世界に向けた作品であることで、いままでとは違う感覚はあったでしょうか?
櫻木 それはあります。日本のアニメというよりは、海外ドラマや映画の文脈の作品だなと思いました。Niantic, Inc.のCEOであるジョン・ハンケさんとお話をしていても、その気持ちが分かります。ただ、それですれ違うことはあまりなかったです。自分がもともと実写をやりたかったというのもありますし、映画好きでもあったので、うまくいったんだと思います。
― 海外のスタッフとチームを組むことで学んだところは?
櫻木 世界のトレンドを意識するのを感じました。設定や演出などの打ち合わせで理解が難しいところがあり、質問すると「世界が今そういうトレンドである」という返答をいただいたことがいくつかありました。
― 具体的にはどういったところですか?
櫻木 性的な取扱いですとか、国についてですとか。日本自体の扱いも世界から見るとどういった位置にあるといったことを考えさせられました。
― ゲームの世界ではゲームの世界があり、現実の世界がそれに影響します。アニメの世界では作中にゲームがあり、アニメのキャラクターがそれに関与するわけですが、視聴者である僕らがさらに関与することはあるのですか?
石井 ありますね。ぜひ放映前から『Ingress』をプレイして頂き、放送後半に始まるイベントに参加して頂ければ幸いです。
櫻木 それは物語の核心になります。
― 本作の見どころですね。
石井 この世界にエキゾチックマターというものが本当にあったらどうだろうと仮定して作ってきました。深堀りするほど、本当にエキゾチックマターはあるのかもしれないと思えます。その、現実とアニメが一緒になるような感覚を味わって頂ければ幸いです。
■クオリティに達するため必要とされる予算を投入 アニメ『イングレス』への高い期待
― いま制作はどのくらい進んでいますか?
櫻木 すでに追い込みに入っています。最後まで気を引き締めて頑張りたいですね。
石井 スケジュール、作り方共に、時間をかけてスクラップ&ビルドが出来る体制を作りました。絵も納得いくまで直し、音にもこだわる。多くの方に観て頂き、意見を取り入れる。スケジュールギリギリに作って、とりあえず出してしまうといったことはしないと決めています。そういう意味では理想的な作り方が出来ている。社内スタッフがみんな同じ空間で議論しながら作っていることも、クオリティに寄与していると思います。
― いまスタッフはどのくらいですか?
石井 社内で70人ぐらいです。外部のスタッフも含めると150人ぐらい。通常のテレビアニメと比較しても、スタッフ数は少ないと思います。これまでのアニメですと後半にすごい人数が投入されることもありますが、コアメンバーで最後まで作りきることができました。
― それだけに監督の気持ちも伝わりやすい。
櫻木 ワンフロアに全ての工程があって、演出とかでも横にずらりと並んでいるんです。そこで話をどうするかとか、こういうときどうしようかとか議論して、脚本の段階からみんなで話しながらやっています。最初の作り出しから最後までを一度に見られるスタジオって他ないんじゃないかと思います。
― 最後にプロデューサーにもうひとつ、制作予算は潤沢なんですか? これまでと違う予算感という話もされています。
石井 製作委員会の皆さん、Netflixの皆さんのお力で、TVシリーズとして恵まれた予算で制作させて頂いています。「潤沢」というよりも、日本のアニメは、「本来これだけあれば世界で戦えるんだ」という予算で作らせて頂いている、というのが正しいところだと思います。
これまでの国内向けのビジネススキームでは「あともう一歩でさらにクオリティを上げられるのに」という手前で、妥協をしながら作らざるを得ないところがありました。関係各社の皆様のご理解と熱意が、今日本のアニメーションの可能性を大きく広げて下さっていると確信しています。