製作出資もする米国・クランチロール、中国・ビリビリの真意は? 日中米配信事業者セミナーレポート

日中米配信事業者セミナー

■ ビッグビジネスの海外向け日本アニメ配信

国内外の映像配信ビジネスの拡大が、アニメビジネスの環境も劇的に変えている。多く視聴者がより手軽に多様なアニメにアクセス出来るようになったことでファンの裾野が広がり、さらにこれを基盤に新しいビジネスが創りだされているからだ。
10月27日、東京・お台場のコンテンツ国際見本市Japan Content Showcaseでは、セミナー「日中米における配信事業と今後の展開について」が開催された。配信ビジネスを牽引する国内外3社のキーパーソンが集まり、最新のビジネス状況を紹介した。中国で日本アニメを配信する株式会社ビリビリの代表取締役社長の丁寧氏、米国に本社を構えるクランチロールの最高経営責任者クン・ガオ氏、そして日本でHuluを運営するHJホールディングスのチーフコンテンツオフィサー長澤一史氏が登壇した。

中国を中心とするビリビリと、英語圏や北中南米を中心とするクランチロールはカバーする地域こそ違うが、会社の始まりやユーザーの属性はよく似ている。両社とも日本アニメ好きの若者がスタートした動画配信サービスがファンコミニティを巻き込みながら巨大サイトに成長した。
アニメと言えばニッチな印象が強いが、ビリビリはユーザー数1億人で会員数が500万人、クランチロールはSVOT(定額課金型配信)で世界トップ10にランキングされるなど、その巨大さも特徴になっている。日本だけでなく海外でも、アニメはニッチであるけれど巨大マーケットというわけである。このユーザー規模をベースに、イベントや商品開発にも大きな力を入れているのも共通である。なかでもビリビリはアプリゲームに力を入れており、「Fate/Grand Order」を展開、今後は「魔法少女まどか☆マギカ」、「夢王国と眠れる100人の王子様」のリリースを予定している。収益面では、こちらのほうがビッグビジネスに成長しそうだ。

■ 海外からの製作委員会出資、その理由

もうひとつ両社が共通するのは、過去1年で製作委員会の出資を通じて、アニメ製作自体に参加するようになっていることだ。ビリビリは2015年10月から現在までショートアニメシリーズを中心に10数作品に製作出資をしており、配信のほかに参加した作品の商品開発もしている。クランチロールは、これまでに約40タイトルに出資したとのことだ。
ガオ氏は製作出資により得られる配信権は、ライセンスによる権利獲得と同様であるが、製作委員会に入ることで9ヵ月前からプロモーション計画が立てられることが大きいと話す。アニメ配信の決定は開始直前、ギリギリのタイミングが多く、十分なプロモーションが出来ないからだ。
丁氏からも同様の指摘があり、クールの短い日本アニメを中国で展開するためにはいまよりも早い対応が必要だと強調する。海外でのアニメビジネスが単なる映像配信から日本のようなメディアミックス型に移行するとすれば、これは今後はより重要な課題に浮上するだろう。

一方で、製作出資をすることで、アニメーション企画・制作に関わるのかについては、ビリビリとクランチロールで対象的な意見であった。丁氏は海外のニーズはあるが、それに迎合すると日本アニメらしさを失う、バランスが必要とする。
対してガオ氏はクランチロールはユーザーのデータベースを通じて世界で何が求められているか分かる、クリエイティブと双方向になることで、日本アニメは世界にもっと広がると主張する。ただし、現時点では製作委員会のなかではマイナー出資者であること、アニメスタジオには製作委員会を間に置いて直接つながってないこともあり、セミナーを聞いていた筆者には現時点ではやや難しいように感じた。むしろ、スタジオと直接やりとりするNetflixやAmazonプライムのようなかたちのほうが出資者の意向は反映されやすく、クランチロールも今後はそうした方向に目指す可能性があるかもしれない。

■ Huluは独占作品を求めない

ビリビリ、クランチロールに対して、HJ(Hulu)の立場は大きく異なる。配信地域が日本に限定されているだけでなく、マスに向けた映像配信をするなかでのアニメの位置づけにある。
Huluの契約ユーザー数は右肩あがりで、すでに140万人に達している。日本テレビの子会社ということもあり、同局のドラマの見逃し配信へのニーズが高いが、アニメもよく観られている。アニメがマスを構成する視聴者に対しても不可欠なコンテンツであることが分かる。人気の作品は『名探偵コナン』、『銀魂』など、一般層にも人気が高く、話数が多いものだ。
またコンテンツの調達の方針は、タイトル数の充実にある。年間のコンテンツ調達の総額が決まっており、それを最大限有効に使うことが必要なためである。このため独占配信は特に求めていない。ここからもHuluのより幅広い層にリーチするためのより多くのタイトルとの戦略が見える。

近年、アニメ視聴者のマスマーケットの拡大が指摘されている。コアファンユーザーの印象が強いクランチロールも、今後の戦略としてカジュアルユーザーの拡大を掲げるほどだ。コアファンからマスに向うクランチロール、ビリビリも、マス向けのマーケットの有力コンテンツのひとつとしてアニメを並べるHuluも、実は同じ現象、マーケットを別の方向から見ているのに過ぎないかもしれない。
いずれにしても「安く」「早く」「大量」にアニメを世界中に届ける映像配信は、アニメビジネス拡大の切り札だ。今回登壇した3社のアニメビジネスにおける役割も、今後ますます拡大するに違いない。

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