米国映画芸術科学アカデミーは、2017年公開の映画を対象とする次回の第90回アカデミー賞の選考ルールの一部変更を実施する。2017年3月28日に理事会を開き、新ルールを可決した。
最も大きな変更は、長編アニメーション部門になる。ノミネーション作品の選考を、これまでアニメーション分科会の投票から、実写長編映画と同様にアカデミー賞の全会員による投票に切り替える。また選考方法も従来のスコアリング方式でなく、投票総数順に変わる。
映画芸術科学アカデミーは新たなルールの発表で、この長編アニメーション部門の変更を一番に挙げている。今回の目玉施策であることが分かる。
米国アカデミー賞は世界で最も古い映画賞のひとつ。一年間に米国で公開された映画から優れた作品、スタッフ、役者を選出、その栄誉を讃える。
長編アニメーション部門は現在、毎年大きな注目を浴びる主要部門のひとつだが、スタートは2001年からとアワードの歴史に較べると短い。スタート当初はマイナー部門扱いであった。
しかし近年は、米国の映画興業でアニメーション作品がランキング上位を席巻、制作本数も増えている。海外作品が選考対象資格を獲得するケースも増え、近年は部門設立要件の選考対象資格作品年間8本以上はもちろん、ノミネート作品5本の要件である資格作品16本以上も常に維持している。
実写映画と同様のアカデミー全会員の投票は、長編アニメーション部門がもはや一部の人たちだけの賞でないとの意識がありそうだ。アカデミーにおけるアニメーションの地位が上がったとも取れる。
一方で今回の変更は、3000スクリーンから4000スクリーンで全米公開するようなハリウッド大作に有利に働くとの指摘がある。アートシアターでの限定公開や、中堅以下の配給会社による中小規模公開の映画は、アニメーションに必ずしも詳しくない何千人ものアカデミー会員に対して認知度が届かないというわけだ。
前回の長編アニメーション部門では、こうした小規模公開の映画から『レッドタートル ある島の物語』、『マイ・ライフ・アズ・ア・ズッキーニ』、前々回は『Anomalisa/アノマリサ』、『父を探して』、『思い出のマーニー』と全体の半分を占める。こうした作品が消えてしまうとの懸念だ。
今回の変更は、日本アニメにも大きな影響を与えそうだ。日本アニメは最優秀賞を受賞した『千と千尋の神隠し』を筆頭に、これまでたびたび同部門にノミネートされてきたが、そのほとんどが小規模公開であったからだ。
しかし今回の変更は、長編アニメーション部門のルールを逆手に取った独立系作品の選考対象資格獲得を封じる狙いもありそうだ。対象年度に事実上公開されていない映画が、ロサンゼルスでの一週間先行公開だけを持って、選考対象資格獲得だけを目指すケースが少なくないからである。事実上北米で公開されない海外作品が同様な方法で、選考対象資格を得ることも多い。
ノミネートは北米で認知度もあり、すでに一般に開かれ評価されている作品から選出するべき、米国映画芸術科学アカデミーのそんな意識も感じられる。