アニメーション制作人材の不足が深刻化するなか、東映アニメーションは先端技術実用化のPreferred Networks(PFN)と共同で背景美術制作効率化の実験的取り組みに乗り出した。AI技術を活用することで、美術スタッフの作業負担の削減を目指す。
両社は先ごろ東映アニメが制作した実験映像『URVAN』の背景美術制作に、PFNが開発したアニメの背景美術制作支援ツール「Scenify」を導入。Scenifyを使用することで、実際に撮影された風景写真から自動変換した背景素材の活用に成功した。
ScenifyはAIを応用した画像変換とセグメンテーション技術を活用したもので、実写写真から様々な画風の背景素材を生成する。東映アニメは今回の『URVAN』で、Scenifyを初めて使用した。同作の背景美術の約2/3でScenifyを使用し、作中ではアニメ調、サイバーパンク調のふたつの素材を使い分けた。
東映アニメによれば、これにより美術スタッフが必要とする前処理工程の時間が従来の約1/6に短縮した。スタッフの作業や工数を削減することで、クリエイティブの自由度が大きい背景制作に多くの時間を充てることが可能なったとする。
東映アニメはアニメーション制作で国内最大のアニメ製作会社である。「プリキュア」シリーズや『ワンピース』など人気のアニメを数多く制作している。
一方のPreferred Networksは、深層学習技術やロボティクスなどの先端技術の実用化を目的に2014年3月に創業されたベンチャー企業だ。事業の範囲は交通システムや製造業、バイオ・ヘルスケアなど多岐にわたるが、エンタテインメント、アニメもそのひとつというわけだ。PFNは機械学習・深層学習の実用化でキャラクター生成、イラストの自動着色、高精度3Dスキャンなどにも取り組んでいる。
年々市場の拡大するアニメ業界だが、昨今は制作の増加もありスタッフ不足が深刻化している。作画を担当するアニメーターに加えて、高い技能と経験が要求される背景美術は特に人手不足が顕著な分野である。今回の『URVAN』制作での実験は、そうした課題に切り込むものでもある。
Scenifyの活用はまだ導入の初期段階だ。しかし東映アニメでは今後はテレビアニメや劇場アニメでの制作での採用も目指すという。ツールの機能開発を進める。Scenifyの技術がアニメーション制作に革命を起こすのか、今後の動向が気になるところだ。
『URVAN』
東映アニメーション公式YouTubeチャンネル内