6月10日から15日までフランスで開催されているアヌシー国際アニメーション映画祭と国際見本市MIFAでは、今年は日本がゲスト国に選ばれたことから、多くの日本関連のプログラムで賑わっている。なかでも日本の若手クリエイターにスポットを当てた企画が多く組まれ、現地で好評を博している。
6月11日朝に行われた「押山清高の正しい作画教室:ルールを破れ(Oshiyama Kiyotaka’s Correcting Sakuga Lesson, Break the Rules)」はそのひとつだ。主に学生に向けたセミナー「MIFA Campus」とタイトルされたシリーズで、朝早くからの実施にもかかわらず、会場が超満員となる大盛況だった。ヨーロッパに日本アニメの描きかたに関心を持つ若者が多くいることを感じさせた。
登壇した押山清高氏は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』、『風立ちぬ』などで活躍した若手アニメーター。近年は『スペース★ダンディー』の脚本・演出、『フリップフラッパーズ』監督・脚本と活動の場を広げている。注目の若手クリエイターである。
押山氏の多才ぶりは、今回も発揮された。2時間にも及ぶセミナーを「初心者の陥りやすい罠」「中上級者向けの技術」「ルールを壊すこと」の3つのテーマに分けて、分かりやすく解説する。通訳を交えてのトークではあるが、それを全く感じさせず、参加者は押山氏の言葉に聴き入った。優れたクリエイターは、同時に優れた教育者でもあるようだ。
最初のふたつのパートでは、自身の絵や手がけた作品『風立ちぬ』や『ヱヴァンゲリヲン』の映像も交えながら技術なポイントを解説する。例えばすでに完成いているように見える1枚の女の子の絵を取り上げて、「雲の流れを作る」「畑の麦を散らせる」「髪の毛を抑える動き」「片目をつぶる」などを加えることでグレードアップしていく。
『ヱヴァンゲリヲン』では、エヴァンゲリオンは風になびかないため、風の表現が難しい。それでどう風を表現したか。『風立ちぬ』では必要以上に蒸気機関車を揺らすのは、主人公の動的な心情を表現しているなど、はっとさせられるアイディアが多かった。
3つめのパート「ルールを壊す」は、日本のアニメ業界、アニメーターの経験からのものであった。しかし絵を描くものに対する共通のメッセージが込められていた。
日本のアニメーション制作にはルールが多く、若手はまずルールを叩きこまれる。ルールは作品の品質を安定させるが、仕事がルーティン化して仕事に楽しみが見いだせなくなることもあるという。
そのためにルールを破ることが必要になるのだ。限界を超えた経験がある者だけが知ることが出来るもとがあるというわけだ。そしてルール破りは若いうちに、それがその後の成長になるとアドバイスした。
セミナーの最後には自身のスタジオであるドリアンで制作する短編アニメーション『シシガリ』も紹介された。美しい背景に、二次元の手描き作画、丁寧な演出で、それは押山氏自身が今もルールを破り、新たな挑戦を続けていることを示すものだ。