全世界炎上中『プロメア』がXFLAGを熱くさせた理由 鵜飼恵輔プロデューサーに聞く

鵜飼恵輔氏

 2019年5月24日に全国195館規模で公開をスタートした劇場アニメ『プロメア』が、大きな話題を呼んでいる。スタートから111分、高機動救命消防隊〈バーニングレスキュー〉の新人・ガロと炎を操る〈マッドバーニッシュ〉のリーダー・リオの戦いを熱さ全開で全力疾走する。見たこともない映像が次々に繰り出すのも見どころだ。
 令和のはじまりに生まれた傑作は、『天元突破グレンラガン』『キルラキル』の監督・今石洋之、脚本・中島かずきと聞けば納得だ。アニメーション制作は、世界が注目するスタジオのTRIGGERである。
 本作は株式会社ミクシィのエンタテインメント事業ブランドXFLAGの一社出資で製作されている。なぜXFLAGは『プロメア』に賭けるのか? XFLAGの鵜飼恵輔プロデューサーに、なぜ本作に関わり、何を目指しているのかを伺った。そのキーワードは、やはり『プロメア』の「熱く燃える」にあった。
[取材・執筆 数土直志]

■「“アドレナリン全開”のバトルエンターテインメント」。
 XFLAGのミッションと重なった『プロメア』の熱さ

―― 作品の内容は他でも多く語られていますので、ここではプロデューサーである鵜飼さんにはビジネス的な側面を伺わせてください。
『プロメア』の企画が出た時に、凄いスタッフが沢山並んでいてびっくりはしました。それをミクシィさん、XFLAGさんですが、一社で製作出資される。そもそもなぜXFLAGが、TRIGGERで、今石洋之監督で、中島かずきさん、なんですか?

鵜飼恵輔氏(以下、鵜飼)  会社の行動指針に「B.B.Q.」「ユーザーサプライズファースト」や「ケタハズレな冒険を。」、といったワードがあるんです。「B.B.Q.」は肉を焼くバーベキューのことで、「友達や家族とワイワイ楽しめる」集まって盛り上がれる場所のことです。今回は劇場作品なので、わざわざ集まって観に行く映画の魅力はB.B.Q.のコンセプトにも沿っているだろうと。

―― バーベキューは燃やしますし。

鵜飼  我々XFLAGも完全燃焼ってことで。そしてXFLAGのミッションにある「”アドレナリン全開”のバトルエンターテインメントを創出し続ける」というところ。それはTRIGGERや今石さん、中島さんたちがもう頂点じゃないですか。

―― 「ケタハズレな冒険を。」は?

鵜飼  『プロメア』は内容はもちろんですが、それ以上にチャレンジングです。実験的な色遣いだったり、作画とCGとの融合だったり、深夜アニメの延長線を越えたチャレンジが溢れた企画なので、これであれば我々と方向性がマッチする。我々がやらなくて、誰がやるんだというくらいの気合で参加しました。

―― 企画は既に出来上がったかたちで相談を受けたのですか?

鵜飼  『キルラキル』が終わった直後から企画はあったんです。2014年から企画を始めて1、2年の間にかなり練って、最終的に落ち着いてからさらに4年くらい進めてる感じでした。
今の『プロメア』が見えてきたところで「これはCGも作画も含めて大変な作品になる」という時に、ちょうど『モンスターストライク』でウルトラ・スーパーピクチャーズさんと付き合いがあった中でご紹介を受けて、何かお手伝いが出来るんじゃないかとご一緒させていただいた流れです。

―― 映像を観ているとかなりの大作で、予算もかかったのでないかと勝手に想像しています。

鵜飼  僕らの社長の木村(木村弘毅 代表取締役社長)も「今石・中島コンビ、TRIGGERの作品は深夜の枠にとどまるべきじゃない」と思っているので、マスに届けたいとの想いを実現するために必要なものを用意しましたというところです。

―― 今までも『モンスト』では、配信アニメから劇場映画になりヒットさせています。劇場はテレビ以上にチャレンジングなのですが、そこにこだわりはあるのですか?

鵜飼  テレビだと今までのプレイヤーが沢山いらして、そこだと「ケタハズレに冒険的」なチャレンジが出来ないんじゃないかと思ったんです。我々は今までの枠組みと違うことをやって成功してきたというプライドもありましたので。

―― 今回の『プロメア』は公開時の劇場数が195館。オリジナルのアニメ初監督だと最初は手堅く50館くらいとかも多いですよね。

鵜飼  広いユーザーに届く作品をやりたい。我々はコミュニケーションの会社なので、いろんな人が観てくれることを重視しています。
 
―― 一社での全額製作出資もこだわりですか?

鵜飼  決して製作委員会モデルを否定しているわけではないんです。けれど『プロメア』みたいなチャレンジングな企画は委員会モデルだとスピード感を持ったり、そこまでリスクは張れない。それで企画が動かないとしたらもったいない。そうしてはいけないスタジオであり、監督だと思っています。であればまず我々がまずリスク取りましょう。そういう熱い想いでやっています。
配給では東宝映像事業部さん、あとは音楽周りでアニプレックスさんにもご協力いただいています。今回は少ない会社の同じメンバーでずっと一緒にやっているので、皆さんの熱量は非常に高い。作品への愛着は皆さんとても強いです。

■XFLAGだから出来ること
―― あとミクシィさんだからこそ、今までと違うやり方はあるのかなと。

鵜飼  『モンスト』とのコラボをやります。ちょっと変わっているのが、『プロメア』単体というよりも今石・中島コンビの『天元突破グレンンラガン』や『キルラキル』と一緒のコラボをします。
今までの『モンスト』のコラボは、有名IPでゲームの売り上げUPを狙うビジネス面と、そのIPが好きな人のためのサービスの二つの面が大きかったんです。『プロメア』は完全新作なので、どちらかというとサポートに近い。こんな面白い作品を『モンスト』を運営している我々が推していると、みんなに知って欲しいから観てねっていう意味合いもあります。売り上げだけが目的だったら他に別のIP借りればいいですからね。

―― 他にもありますか?

鵜飼  あとはキャストへの俳優陣の起用や、今までアニメ主題歌の経験がないSuperflyさんのふたつの主題歌「覚醒」、「氷に閉じこめて」の起用も、より多くの人に届けたいという我々の意向を制作サイドにもご理解いただき、実現させていただいています。

―― ミクシィさん社内の反応はどうでしたか。『モンスト』であれば「そういうもんだね」と皆さん思いますが、今回はオリジナル映画です。

鵜飼  最近我々はスポーツで、千葉ジェッツやFC東京、東京ヤクルトスワローズ、さらに個人のスポーツ選手にもスポンサードをしてるんです。同じようなマッチングがいいところへの支援で、『プロメア』で言えばTRIGGERというスタジオ、その描こうとしているコンセプト、バトルエンターテインメントです。
我々はゲーム会社でもなければ、映画会社でも、アニメ会社でもなく、コミュニケーションの会社なんです。その中で「”アドレナリン全開”のバトルエンターテインメント」を担う部門がXFLAGなので、「『プロメア』を観たら凄い盛り上がるよね」というところを支援しています。

―― あと海外にも持って行かれますね。それもお伺い出来れば。

鵜飼  プロジェクトの発表が、一昨年7月のロサンゼルスのAnime ExpoのTRIGGERさんのパネルでした。TRIGGERファンって北米めちゃくちゃ熱いんです。なので当然世界を狙っています。6月には世界最大のアニメーション映画祭であるフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭での上映が決まっています。
今年はハリウッドのアニメーション映画『スパイダーマン:スパイダーバース』を観ても凄いじゃないですか。日本的なものも取り入れ始めている。最近のディズニーさんやピクサーさんの作品は、昔日本が得意だった明るいだけじゃない暗く重いところを取り込むようになって来ていて、どんどん彼らにやられている。
それと国内のマーケットだけで稼げる金額をベースにして製作費を組んでくと、いずれ中国やアメリカのような最初から全世界を狙ってくる作品には勝てなくなると思うんです。そうなると作品を作ることが出来なくなる。なので最初から世界に出せることを前提にしないと映像製作はこれから厳しいかなって。これは個人的な思いですが。

■XFLAGの目指すエンタメ、常に驚きを提案したい
―― ここまで『プロメア』の話もしていたのですが、XFLAG自身のお話も伺っていいですか? そもそも「XFLAG」とは? ミクシィという大きなブランドがありつつ、ブランドを分けられています。

鵜飼  少し前まで弊社のイメージと言えばSNSの「mixi」だったと思います。その後『モンスターストライク』がヒットした後に出来たのがXFLAGで、『モンスト』はゲームであり、バトルエンタメなので、そこをミクシィと棲み分ける意味でエンタメに特化したものをXFLAGのブランドで出していくのがスタートだったと思うんです。

―― 「mixi」はよく知った大きなブランドだけど、高揚感とはちょっと違いますよね。XFLAGはオリジナルIPの創出の役割もあるのかなとも見えますが、これはちょっと違いますか?

鵜飼  少し違うと思います。例えば、女子向けのIPですと、「アドレナリン全開のバトルエンタメ」ってジャンルはなかなか馴染まないのかなと。ですので、そこはやらないと思います。XFLAGはあくまでバトルエンタメ。IPの創出自体が目的なのではなく、みんなでワイワイ盛り上がって熱くなるものを提供することが使命。その手段、あるいは結果としてオリジナルIPの創出もある。そういうブランディングが出来ればいいなと。映像やアニメ、ゲームも選択肢の一つとしてある。

―― アニメ・ゲームだけの会社ではないとのことですが、XFLAGさんがこれからアニメをさらにやるのかは気になります。未来のプランはありますか? 

『パンドラとアクビ』

鵜飼  実は『プロメア』の前に『パンドラとアクビ』という作品を劇場上映しました。

―― タツノコさんの『ハクション大魔王』に登場するアクビちゃんが、『モンスト』の人気キャラクターのパンドラとがっつり組んでいて驚きました。

鵜飼  我々はキャラクターを立てる経験があまりなかったので、じゃあ可愛いうちの娘パンドラをタツノコワールドに旅に出して修行させたみたいな感じです。あれも意外な組み合わせだったんじゃないかなと。我々の掲げる「ユーザーサプライズファースト」ですね。そんな組み合わせもあるんだという驚きです。

―― あれはXFLAGさんから持ちかけたのですか?

鵜飼  何か一緒にやりませんかとタツノコプロさんと話していた中で出てきました。『プロメア』もそうですが、忖度されたら絶対出来ないような企画。「これどうして成立したの?」と不思議に思うくらい突き抜けた企画でユーザーサプライズを出来たらいいなと思います。

―― 面白さの提案ですね。

鵜飼  そうなんです。驚きを提案したいです。それが受け入れられて「XFLAGが提供するアニメってなんかすごく面白くない?」となれば。その延長線上で「え、これいきなり映画なの?」「この監督で映画やるの?」みたいなことをアニメや映像の領域でこれからも仕掛けていけたらいいなと思っています。

―― それは今後が楽しみですね。本日はお話ありがとうございました。

『 プロメア 』
配給 東宝映像事業部
5月24 日(金)全国ロードショー

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