[数土直志]
■日本アニメに関わる中国企業の姿
少し前になるが、3月22日に福岡でとても面白いアニメビジネスイベントが開催された。イベントは2部構成で、午前は「中国のコンテンツ企業に聞く 中国のアニメ・コンテンツ市場最前線」と題したクロストーク、午後からは米国・中国のアニメビジネスの主要プレイヤーと日本企業によるピッチセッションである。
いずれも驚かされたのが、参加企業の顔ぶれだ。中国・米国の日本アニメの主要プレイヤー、日本からは2019年以降の活躍が期待される注目企業が並んだからだ。
トークセッションに参加したのは、オリックス(China)インベストメント、華策影視、愛奇芸、鳳儀娯楽、猫眼娯楽の中国の5企業。動画配信や映画配給・製作、映画情報の大手である。日本側からはテンセントなどと複数の共同プロジェクトを中国で進めて成功しているファンワークスの代表取締役・高山晃氏。僕もファシリテーターとして参加させていただいた。
登壇者が多いなかで通訳も挟むことから、正直もう少し時間があればよかったが、それでも登壇者はいずれも多弁で盛り上がった。中国のビジネスの現場からの声は貴重だ。トークでは中国における映画産業の成長ぶり、そのなかで日本のアニメの位置づけ、今後の方向性などが話題になった。
なかでも印象に残ったのは、中国のビジネスパーソンのスマートさだ。非常に戦略的に思考する一方で、日本のアニメに対するリスペクトに溢れている。共に新しいビジネスをしたい気持ちにさせる。
10年以上前であれば、中国でアニメビジネスというと「人気の日本アニメで中国で一山当てませんか?」のような話も多かった。あまりアニメに対する愛も感じられなかった。
今回の登壇者はいずれも若い。たとえば猫眼娯楽は中国の映画チケット販売と映画情報で圧倒的な存在だが、創業わずか5年だという。中国のアニメビジネスは短期間で世代が入れ替わり、一変しているのだ。その新しい風を感じられるのが一番大きな収穫だったのではないだろうか。
■30分×10セッションに参加した日本企業は?
午後から実施されたピッチセッションも充実していた。参加企業20社は、企画提案側の日本が10社、それに同数の米国と中国の企業である。
米国からが「クランチロール」「ファニメーション」「Hulu」「Netflix」「センタイフィルムワークス」。海外アニメビジネス関係者であれば知らない人のいない名前ばかりだ。
中国からは午前中のクロストークの登壇企業で、「華策影視」「愛奇芸(アイチイー)」「猫眼娯楽」「オリックス(China)インベストメント」「鳳儀娯楽」の5社となった。
日本からの参加企業が個性的だ。「アーチ」「コミックス・ウェーブ・フィルム」「ファンワークス」「MAPPA」「ポリゴン・ピクチュアズ」「手塚プロダクション」「ツインエンジン」。地元福岡のアニメスタジオからも青池良輔氏を中心に活動する「フィーバークリエイションズ」とCGアニメの「トリフ」が参加した。
会社規模というよりも、新しいビジネスの開拓や海外展開に積極的な企業が集まっている。
マッチングはシンプルで、冒頭に主催者である経済産業省商務政策局コンテンツ産業課 課長補佐の中山祥氏の挨拶。その後は直ぐに、30分単位で1対1のミーテイングが各10セッション続く。かなりハードだ。
トータルでは5時間以上にも及ぶが、1社あたりの時間は30分と限られている。しかしこれまでも海外ビジネスに携わった日本企業が多く、実質的なトークから入ることでかなり充実した内容であったようだ。
■なぜ福岡に日本・中国・米国の有力企業が集まったのか
こうした価値の高いイベントが、福岡で開催されたことを不思議に思う人も少なくないだろう。海外企業と日本企業の大半は東京が拠点。なぜわざわざ福岡になのか。
実は今回のイベントは午前のトークと午後からのピッチセッションで、枠組みが異なる。トーク部分は福岡でエンタテイメント産業の振興を目指すクリエティブ ラボ フクオカと映像コンテンツ産業研究会が主催する。午後からのピッチセッションは、経済産業省が実施した。
福岡はかねてより地域のエンタテインメント企業の振興に熱心なのである。ゲーム分野では国内有数の産業集積地と知られている。
さらに映像分野も積極的に育成しようと、ビジネス振興につながる施策を続けている。とりわけ海外・アジアとの連携を視野にいれる。北京、上海、台北、バンコクから東京より飛行機で1時間近い地の利は意外に大きなアドバンテージだ。今回のイベントの直前には香港フィルマートで九州パビリオンを出展、その中心でもある。アジアの映画・アニメーション業界で“福岡”の名前はよく知られようになってきた。
今回はそうした地域の振興と、新時代のアニメビジネス活性化を目指す経済産業省が協力した。
そしてむしろわざわざ福岡に出掛けて行くことが今回のイベントのポイントだ。東京でやれば数多くのミーティングやマッチングイベントのなかで沈みがちになる。マッチングに意義を見出して、わざわざ出掛けることで参加企業の意欲が試させる。結果として、今回のように注目の企業が集まったわけだ。