IGポート ジーベックのアニメ制作事業をサンライズに売却

提携

■サンライズが新会社設立、アニメ制作事業を譲渡
 アニメ業界を代表するふたつの製作会社の間で、有力アニメーションスタジオの制作事業を移管する大きなニュースが発表された。IGポートは連結子会社ジーベックのアニメーション制作事業を、2019年4月1日付でサンライズに譲渡する。IGポート、ジーベック、サンライズの3社で合意した。
 IGポートはプロダクション I.Gを中心に複数のアニメーション制作会社・出版社で構成される企業グループ。サンライズは「機動戦士ガンダム」などで知られるバンダイナムコグループの大手アニメ製作である。
 サンライズは2019年3月1日付で新会社(名称未定)を100%出資で設立、4月1日付けでジーベックのアニメーション制作事業を譲渡受する。ポストプロダクション部門は現在のジーベックに残る予定だが、事業の大半が新会社に移ることになる。譲渡される事業の範囲や譲渡価格は、確定次第開示される。

■アニメーション制作事業の赤字が長期化していたジーベック
 IGポートは1987年に現代表取締役の石川光久氏らにより設立された。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』をはじめ数々の傑作を生みだしてきた。
 順調に成長を続けており、現在では設立当初からあるプロダクション I.Gのほかウィットスタジオ、シグナル・エムディ、マッグガーデンなどの企業でIGポートを構成する。なかでも1995年に設立されたジーベックは、20年以上もグループにある中核企業のひとつ。『宇宙戦艦ヤマト2199』や『機動戦艦ナデシコ』などの有名作品も多く、グループ売上高の約20%を占める。それだけに競合他社への事業売却は驚きだ。

 ジーベックの2018年5月期の売上は17億8500万円あるものの、1億6400万円の損失を計上している。IGポートは事業売却について、1)制作事業の赤字が長期化していること、2)収益分配による版権事業でこれをカバーできない状況、人気コンテンツを制作しながらも成果は停滞していたと経営体質の弱さを挙げる。
 そこでサンライズの主導で体制構築を図ることが事業と雇用を継続させる最善の方法とする。ジーベックの経営資源も有効活用できると判断した。

■製作出資を強めるIGのファイナンス事情
 これに加えて、今回の決定にはIGポートの事業戦略の変化も理由にありそうだ。IGポートはより高い利益を確保するため、近年作品への製作出資を強めている。『魔法使いの嫁』、『B: The Beginning』、『銀河英雄伝説 Die Neue These』のように製作出資の大半をグループで負担するケースも増えている。
 これまでにもIGポートは自社がアニメーション制作する作品に出資することは多かった。しかし多くは全体の数分の一程度で、権利窓口になって広く事業展開をすることは稀であった。
 しかし製作の中心になることで、海外販売や配信などの権利獲得をし、ビジネスも広げられる。積極的な製作出資の理由である。

 問題は製作出資を拡大するにはいままで以上に資金が必要になることだ。IGポートはアニメ企業のなかでは現預金を多く持つ企業だが、一方的な支出の拡大で財務体質を悪化させるわけにはいかない。そこで別の資金調達が必要になる。
 実はIGポートは、今年5月にNTTぷららを引受先に第三者割当増資を実施している。これにより2億7000万円の資金調達をしている。
 ジーベックの映像制作事業売却もこの流れで理解出来る。最終赤字が続いているとはいえ、数々の人気作品を制作してきた実力と実績はよく知られている。さらにアニメ業界では現在、制作会社・現場の不足が続いており、実績のある制作ラインは大きな価値がある。現在、譲渡価格は公表されていないが、かなりの金額になるはずだ。つまりIGポートにとってのジーベック売却は、赤字事業の切り離しだけでなく、事業資金を確保する手段にもなる。

■制作能力の拡大を狙ったサンライズ
 一方、サンライズの買収理由は、制作機能の確保にあるとみられる。サンライズは良質な作品を生み出すためには、制作力の強化は必要不可欠とする。しかしアニメ業界は、現在制作スタッフの慢性的な不足が続いている。ジーベックの事業を買収することで新たな現場を確保し、制作能力を拡充できる。サンライズは自社の企画力とジーベックの制作力が融合することで、新たな個性を持つ作品を生み出すとしている。
 サンライズは9月にはCGアニメ会社のサブリメイションに資本参加したばかり、積極的な事業拡大を続けている。量的な成長で、新たな有力作品を生みだすこと狙うことになる。

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