イギリスを代表するストップモーションの名門スタジオ「アードマン・アニメーションズ (Aardman Animations Ltd)」が、将来に向けて驚くべき決断を下した。スタジオ運営をする会社株式の大半を、従業員の手に渡す。
創業者であるピーター・ロード氏とデイビッド・スプロクストン氏は、アードマンの株式の大半を今後設立する従業員を代表する信託組織に移管すると発表した。従業員信託は信託会議により運営され、会社の方針もここで決まる。両氏は今回の決定で、これまで何十年間も維持してきたスタジオのクリエイティブの伝統と独立を今後も残していくとする。
ふたりは「会社のクリエイティブの価値は、その価値を創り出し者たちの直接の利益になるべきである」とコメント。さらに統計的にみれば、従業員自身が所有する企業は通常の企業よりも成功しているのだとする。
当面、デイビッド・スプロクストン氏はマネジング・デイレクターに留まるが1年以内に後継者を決定する。クリエイティブ・ディレクターのピーター・ロード氏は、今後は長編映画の制作に専念する。『ひつじのショーン』の続編映画、『チキンラン2』に関わる。
また同社を代表する監督ニック・パーク氏は、信託会議のメンバーとなる。メンバーは他に6人が現在の従業員から参加する。
アードマンは1972年に、英国南西部のブリストルで設立されたアニメーションスタジオだ。暖かみがあり、同時にシニカルな社会批評を交えた『ひつじのショーン』、『ウォレスとグルミット』といったクレイによるストップモーション作品でよく知られている。
現在の社員は約140名。40年以上の歴史を持つ老舗であるだけでなく、イギリス最大のアニメーション制作会社でもある。『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』で米国アカデミー賞長編部門の最優秀賞を受賞。現在は書籍やゲーム、デジタルコンテンツにも進出するなど、多角化が進んでいる。
創立者のピーター・ロード氏は65歳、デイビッド・スプロクストン氏は64歳とただちに引退とはならないが、スタジオの将来を考える時期に来ていた。近い将来に会社の経営とクリエイティブを次世代に引き継ぐ必要がある。
通常であれば創業者でないスタッフが新たなトップとなるが、会社の所有は難題だ。アードマンほどのスタジオになれば、是非うちのグループにと買収や資本提携の申し出も多いはずだ。しかし他社、とりわけ大手メディアグループの傘下に入れば、これまで作品を支えてきた独自の文化、クリエイティブは失われるかもしれない。
そこで今回は株式を従業員自身が保有し経営者とすることで、独立を維持することにした。これであれば外部からは手を出せないというわけだ。