東映アニメの最新決算にみる海外ビジネス 17年第1Qは売上・利益過去最高
- 2016/8/1
- フォーカス
2016年7月29日に東映アニメーションの2017年3月期第1四半期決算が発表された。売上高は前年同期比で14.4%増の91億5400万円、営業利益は11.8%増の17億9100万円と、いずれも二桁成長を維持した。経常利益は18億9700万円(7.2%増)、四半期純利益は、15億5500万円(44.9%増)だ。近年、業績の好調ぶりが際立つ東映アニメーションだが、2017年3月期も第1四半期の売上高、利益としては過去最高を更新と今期も好調なスタートを切った。
事業を牽引したのは、海外事業である。海外向けの番組販売にあたる海外映像は前年同期の7億6600万円は62%増の12億3400万円に、国外向けのライセンス事業である海外版権は9億5200万円から15億1100万円に拡大した。中国向け映像配信権とゲーム化権、北米向けの『ドラゴンボールZ 復活の「F」』の劇場上映権の販売が好調だった。さらに全世界に向け展開するアプリゲーム『ドラゴンボールZドッカンバトル』『ワンピーストレジャークルーズ』が好調、海外のイベント物販も収益に貢献した。国内同様に海外でもアニメから派生する様々なビジネスが業績に貢献し始めていることが分かる。
海外事業売上高は30億300万円となった。2017年3月期第1四半期の海外比率は33%である。全体の1/3の売上げが海外からもたらされていることになる。これは2013年の8%、14年の15%、15年の22%、16年の21%から急拡大している。
通期で同じ比率を維持すれば、海外売上高は前期に引き続き100億円を軽く超えることになりそうだ。東映アニメーションの海外売上比率は、実は2000年前半も高かった。しかし、当時の東映アニメーションの通期売上高は100億円台で、海外売上高比率が最も高かった2002年でも57億4000万円である。ここ数年で、東映アニメーションの海外売上高は飛躍的に拡大している。
しかし好調を続ける東映アニメーションだが、事業基盤は必ずしも盤石とは言えない。ビジネスの脆さも垣間見える。2017年第1四半期で言えば、部門別売上高のうち劇場アニメ、映像ソフトが中心のコンテツ売上高は大幅減だ。国内版権も27億4900万円から26億4600万円と減少している。8億5200万円から9億5300万円に増加したテレビアニメもゲーム向けの制作が牽引したもので、番組制作数は6作品から4作品に減っている。映画やテレビは制作の事業の波が大きくなりがちだが、ビジネスの中核となる作品づくりの部分だけに懸念される。
また数多くのIPを持つ東映アニメーションだが、利益率の高い国内版権、海外映像販売、海外版権のいずれも6割から7割を『ドラゴンボール』『ワンピース』の2タイトルが占めている。少数タイトルの依存に加えて、両作品とも原作は週刊誌連載で人気を博したマンガだ。
好調な海外事業にもリスクはある。急激な海外売上高の拡大は、長年、目指してきた海外事業の展開が軌道に乗ったものだ。しかし同時に、国内アニメーション業界の動向と関係なく、海外の経済状況に会社の業績が左右されるリスクも高まる。海外の経済状況の変化、例えば景気の失速があれば思わぬ影響を受けることもある。例えば、この数年海外売上高の大きな比率を占めるようになった中国の政治・経済状況が国内や他国に比べて不透明なのは周知のとおりだ。海外の情報は国内より情報が少ないことから、リスクコントロールがより重要になる。こうしたなかで日本、アジア、北米、ヨーロッパのバランスのとれた事業発展こそが、最大のリスク回避となる。
第1四半期では、中国を含むアジア地域は15億6300万円と全体の半分を占める。続いて北米が9億5500万円だが、北米事業の急伸は見逃されがちだ。しかし、北米市場の成長は事業ポートフォリオという点では重要だ。
ポートフォリオの観点からは、もうひとつリスクもある。海外事業売上高のうち配信向けの映像販売と、海外版権でのゲームアプリ向けのライセンス販売への依存が高いことである。とりわけゲームアプリ向けは大型タイトルが出尽くせば、その後はしばらく売上げが減ることになる。これまでと同様の成長を保つのは困難だ。
すでに東映アニメーションは、海外での商品販売やイベント事業の海外展開を打ち出している。そして海外先行の作品の企画や製作を進めているという。アニメ製作会社としては他に類を見ない年間売上高300億円超を誇る東映アニメーションが、今後さらに成長するにはこうした施策の成否がカギになる。