IGポート売上利益過去最高、制作マイナスも「SPY × FAMILY」「ハイキュー!!」でライセンス急伸

ファイナンス決算

 2024年7月12日に発表されたアニメ会社IGポートの2024年5月期の連結決算が、これまでの見通しを超える好調であった。連結売上高は118億4100万円と6.1%増になったほか、営業利益は12億2500万円(23.6%増)、経常利益13億8000万円(38.1%増)、当期純利益は11億5800万円(51.1%増)だった。
 IGポートは版権事業の好調を理由に4月12日に業績見通しの上方修正をしている。しかし実際の業績はこれをさらに上回り、売上高利益で過去最高を更新した。

 業績を牽引したのは版権(ライセンス)事業である。主に製作出資した作品のライセンス運用と権利売上の配分収入になる。この売上高が30億400万円(62.1%増)、営業利益は18億2000万円(282.4%)と急伸した。
 売上げで大きかったのは『ハイキュー!!』と『SPY × FAMILY』で、いずれも期中に劇場映画が大ヒットになった。『ハイキュー!!』については、劇場映画の版権売上が当初計画より前倒しで計上されたことも大きかった。さらに『ハイキュー!!』と『SPY × FAMILY』は、今後海外販売の売上げも上振れる見込みとしている。
 両作品に『進撃の巨人』を加えた3作品で版権売上の半分以上を占める。しかしIGポートの版権事業の特徴は、事業収入が特定の作品に集中していないことである。主要作品は期ごとに入れ替わる傾向が強く、事業のポートフォリオが効率的に組まれている。2024年5月期は他に『魔法使いの嫁』、『攻殻機動隊』、『銀河英雄伝説Die Neue These』などが主要作品だが、決算資料では13作品が版権売上げに言及されている。さらに過去作品が継続的に利益を計上しているとする。これらの作品は減価償却が終わっていることから、利益率を押し上げることになる。営業利益の大きな伸びには、こうした背景もあるとみられる。

 過去最高の業績を達成する一方で、映像制作事業は苦しかった。同事業はプロダクションI.G、WIT STUDIOの中核2社、それにSignal-MDの3つのアニメーション制作スタジオから主に構成されている。期中の主要な作品は『SPY × FAMILY Season 3』、『しかのこのこのここしたんたん』、『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』、『THE ONE PIECE』、『君に届け3RD SEASON』、『ムーンライズ』、『ターミネーター』、『怪獣8号』、『劇場版 ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』、『劇場版 SPY × FAMILY CODE : White』など。
 映像制作事業は売上高ではIGポート全体の半分以上を占める62億600万円(1.6%増)と中軸だが、営業損失が9億4000万円と巨額になった。IGポートでは制作期間が長期化した作品があったとし、特に海外配信会社から受注した複数作品の損失計上が響いたと説明している。
 高額受注案件ほど赤字額も大きくなる傾向にあるという。これは受注時には高額であった予算も、ここ数年の制作費高騰で一般的な水準となり、また制作期間の長期化で固定費が嵩んだ。

 出版事業は売上高23億3500万円(前期比19.5%減)、営業利益は4億8200万円(14.2%減)。デジタルコミック事業のリンガ・フランカの清算で減収減益となった。主要タイトルは『転生貴族の異世界冒険録』、『魔導具師ダリヤはうつむかない~Dahliya Wilts No More~』、『王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います』。

 2024年5月期は過去最高の業績となったが、今年度(2025年5月期)についてもIGポートは強気の見通しを立てる。年間の連結売上高は129億9300万円、営業利益17億3700万円といずれもと再び過去最高を更新とする。経常利益は17億1800万円、当期純利益のみは11億16000万円と3.6%マイナスの予想だ。
 制作事業は赤字幅が大きく縮小するものの引き続き赤字を予想し、版権事業が全体をカバーする構造は変わらない。制作では人件費やクリエイター確保のコストの増加、賃料の高騰が続いているためだ。版権事業では期中に自社100%出資の作品のライセンス収入が計上される見込みだ。

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