国内外の市場拡大で盛り上がるアニメ業界に、新たな大手企業が参入する。通信・放送事業のスカパーJASATと伊藤忠商事は、アニメを中心に映像作品の企画・製作・投資・販売などをする新会社「株式会社スカパー・ピクチャーズ」を設立する。
スカパー・ピクチャーズは資本金20億円、2024年4月1日づけで設立、スカパーJASATと同じ東京都港区赤坂の赤坂インターシティAirに本社を構える。代表取締役社長には長内敦氏が就任する。長内氏は、これまでにアニメ『グラゼニ』、ドラマ『アカギ』、『ひぐらしのなく頃に』、『弱虫ペダル』などをプロデュースしてきた。
スカパーは2020年にアニメ製作のための専門部署を立ち上げて、すでに製作事業を進めている。今回はそこに伊藤忠商事が加わり、会社組織とすることで事業展開を加速する。
スカパーは、すでに4つのアニメ作品製作を進めている。さらに新会社を機に今後、数年以内に10作品以上のアニメ製作をする。いずれもスカパー・ピクチャーズが企画から立ち上げるとしている。
新会社の特徴は、製作にあたって製作委員会の幹事会社になるとしている点である。製作委員会では、最大出資者である幹事会社が作品全体のビジネスのとりまとめ、大きな裁量を持つことが一般的だ。幹事会社の利益は大きいが、アニメビジネスのノウハウも必要とされる。新規参入企業は当初は出資企業のひとつからスタートすることが多く、当初から幹事を目指すのは野心的である。
また新会社は数あるアニメの権利のうち、国内外の配信プラットフォーム事業者に映像販売をするとしている。売上の大きな海外窓口と配信権の窓口を担う方針だ。
さらに伊藤忠が国内のアパレル・食品・小売・流通向けの商品開発を分担。さらに同社の香港子会社Rights & Brands Asia Ltd.がアジアを軸に世界での商品展開を目指す。
伊藤忠はスカパー・ピクチャーズを通じて、アニメ事業のノウハウを集め、自社の強みである生活消費分野での商品やサービス開発の取り組むとしている。
伊藤忠はこれまでにも、アニメ・マンガ事業に進出してきた。90年代末にはコミックス・ウェーブを共同出資で設立、マンガ家・石ノ森章太郎のライセンスを管理する石森プロにも出資する。しかし2007年にはコミックス・ウェーブの出資から撤退。伊藤忠の手を離れた後、分社化したコミックス・ウェーブ・フィルムが、新海誠監督の『君の名は。』や『すずめの戸締り』といった大ヒットを生み出した。
総合商社のアニメ事業進出は、伊藤忠だけでない。三菱商事は2001年よりアニメ製作で「ベイブレード」シリーズの製作をし、スタジオジブリ作品の製作委員会に出資したディーライツを子会社としていた。こちらは2018年にアサツー ディ・ケイ(現ADKエモーションズ)に売却している。
2015年には住友商事がクランチロールと共同出資でアニメ投資会社を設立した。しかし大きなビジネスに広がることがなく、現在はアニメ事業は活発と言えない。
巨大企業であるがゆえに大きな売り上げと利益を求める総合商社のビジネスとアニメ産業のサイズ感が一致しないことが、アニメ事業が長続きしない大きな理由とみられる。アニメ産業が拡大するなかで、総合商社がビジネスチャンスを見つけることが出来るのか、伊藤忠のスカパー・ピクチャーズへの出資は、アニメ産業の変化を占うものにもなりそうだ。