“手描きアニメ2.0” 新たなアニメ表現に挑戦する「屋根裏のラジャー」製作報告会見

「屋根裏のラジャー」製作報告会見

 2023年12月15日、スタジオポノックの6年ぶりの長編映画・百瀬義行監督の『屋根裏のラジャー』が全国公開される。『メアリと魔女の花』で日本の長編アニメの王道を示したポノックだけに、その最新作は待望と言っていいだろう。
 当初は2022年夏としていた公開予定をよりじっくりと作るためとし1年半の公開延期もした本作、いったいどう仕上がるのか。そんな気になるなかで8月21日、東京・千代田区の帝国ホテルで、製作報告会見が開催された。

 まず挨拶に立ったのは、プロデューサーを務める西村義明氏と百瀬義行監督。企画と作品完成目前までの苦労などを語った。
 『屋根裏のラジャー』の原作は英国の作家A・F・ハロルドの『The Imaginary』である。主人公のラジャーは少女アマンダが生み出した空想の少年で、アマンダの想いがなくなると消えてしまう運命にある。
 西村プロデューサーは『メアリと魔女の花』完成後に、本作に出会ったという。素敵な原作ではあるが、想像によって生まれた主人公の表現に難しさも感じた。しかし自分達も必ずしも生まれたくて生まれたわけでない、消えてしまうことは悲劇なのかと考えた時にラジャーを人間の物語として描けるのでないかと制作に進んだ。

 作品づくりにおいては、この「物語の挑戦」に加えて、「映像表現の挑戦」、さらに「スタジオ運営の挑戦」を挙げた。
 手描きの紙のうえでいかに想像の少年の実感を与えるかを考えるなかで、デジタルを用いたフランスのクリエイターたちに出会った。それにより新たな手描きアニメに挑戦することになった。西村プロデューサーは、これを「手描きアニメーション2.0」と表現する。かなり自信を持った映像のようだ。
 しかしこれを導入することも、公開延期の理由のひとつになった。さらに1年以上も公開延期をしたことでスタジオ運営の金銭的な負担も大きくなり、本当に苦しかったとも。

 百瀬監督も、今回の映像には自信を見せる。1500カット以上、10万枚以上の絵のキャラクターに質感を与えることが出来た。
 過去においても映像の挑戦はしてきたが、それらと較べても洗練されている、表現として深堀りが出来ていると話す。手描きアニメの伝統に根ざしつつ、新しい映像の挑戦は『屋根裏のラジャー』の見どころになりそうだ。

左からイッセー尾形、寺田心、安藤サクラ

左からイッセー尾形、寺田心、安藤サクラ

 作中のキャラクターを彩るキャスト陣も本作の見どころのひとつである。主人公ラジャー役に寺田心、ラジャーを生み出す少女・アマンダに鈴木梨央、アマンダの母リジー役に安藤サクラら。豪華な布陣である。
 製作報告会見には、このうち寺田心、安藤サクラ、そしてラジャーをつけ狙う謎の男役のイッセー尾形が登壇した。
 寺田はオーディションの際にラジャーの服装で挑むほど、ラジャー役を絶対やりたいと願っていたと熱い想いを語った。百瀬監督にとっては寺田の声が最初からラジャーだった。スタジオで遠くから寺田の声が聞こえるとそこにラジャーがいると思えるほどと、寺田の声を評価する。
 一方で、寺田がアフレコの期間に声変わりに入りつつあったことの苦労も明かされた。声変わりをしてしまう前にと、映像完成後でなく、映像制作する前の録音プレスコも一部で導入したのだという。そうしたニュアンスはアニメーションに反映されているとも。

 いくつもの苦難を乗り越えて、いよいよ完成する『屋根裏のラジャー』が公開する12月15日は、クリスマスの直前。全ての世代に相応しいクリスマスのプレゼント、そんな映画になりそうだ。

『屋根裏のラジャー』
12 月 15 日(金)全国東宝系にて公開
https://www.ponoc.jp/Rudger/

原作:A.F.ハロルド「The Imaginary」(「ぼくが消えないうちに」こだまともこ訳・ポプラ社刊)
監督:百瀬義行
プロデューサー:西村義明
制作:スタジオポノック
製作:「屋根裏のラジャー」製作委員会
配給:東宝

『屋根裏のラジャー』

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