2018年夏にクラウドファンディングにて、実写映画の制作費としては当時史上最高の2182万1503円を集めて話題を呼んだ『オービタル・クリスマス』の特別上映会が、2022年12月11日に東京・池袋で開催された。クラウドファンディング開始から4年以上経つが、東京圏では今回が初のスクリーン上映になる。
『オービタル・クリスマス』はSF翻訳やエッセイ、アニメの脚本・設定で活躍する堺三保さんの初の監督作品。堺氏が実際に見た夢からインスパイアされた物語は、近未来の宇宙ステーションを舞台にクリスマスの日に唯一そこに残ったムスリムのアリとステーションに不法侵入した日本人の女の子タカコの交流をおよそ15分で描いた。
クラウドファンディング募ったのは、米国カリフォルニアでの撮影を想定した制作費の全額だ。750万円という実写映画のクラウドファンディングでは破格の目標設定だったが、これを大きく超えて最終的に2000万円を超える資金が集まり注目を集めた。
こんなにも時間がかかったのには訳がある。作品完成は2021年2月、その後は世界各地の映画祭を周っていたのだ。映画祭出品中は、商業上映をしないためだった。結果、世界各国の映画祭で合計52のノミネート、17のアワードを受賞している。映画祭出品も一段落しするなかで、今回はその成果のお祝いも兼ねた凱旋上映となった。
会場となったのは、都内有数の規模を誇るシネコンのグランドサンシャインシネマ池袋のスクリーン5で、当シネコンのなかでも最大の座席数とスクリーン数を誇る。イベントとはいえ短編作品の上映だけに、通常ならどれだけ人が集まるか危惧するところだ。しかしそれは大勢のサポーターに支えられた作品だ。チケット開始から数日で完売となった。観客の大半はクラウドファンディングのリワードのブルーレイ、DVDで鑑賞したことはあるが劇場では初めてという人ばかりだ。それだけに当日は大きな盛り上がりとなった。
作品は短編ながら、イベントはかなりのサイズである。本編を英語版、日本語吹き替え版の2バージョンで上映するほか、メイキングも上映。さらに前半と後半で登壇者を入れ替えた豪華トークもありたっぷりと2時間以上にもなる。
前半のトークは制作スタッフ中心で、堺三保さんに特撮監督のキムラケイサクさん、メカニックデザインの園山隆輔さん、編集の岩崎伊津子さんというメンバー。堺監督は映画祭も含めてこの大きさのスクリーンは初めてと大感激。トークでは制作の裏話が多く出た。最後の千葉の海岸のシーン以外は全てCGだったというキムラさんのエピソードから本作の大変さが伝わり、岩崎さんからは編集段階でCGが決まっていなかったとも。それでも (グリーンバックで)背景がないので演技が見やすくむしろやりやすかったとの感想も。
後半はクラウドファンディングを実施したMotionGallery代表の大高健志さん、それにファン代表として脚本家の中島かずき氏が登壇。作品成立は、堺さんが大高さんにクラファンを相談したのがきっかけ。そんなクラファンに中島さんからは「詐欺かなと思ったら意外できていた」と友人ならではの冗談めいた感想。今回トークのMCを務めた池澤春菜さんも、『オービタル・クリスマス』のノベライズを務めるなど、多くの人に支えられながら『オービタル・クリスマス』は実現した。
さらにサプライズでカオリの父親役を演じた尾崎英二郎さんが、ロサンゼルスからわざわざ駆けつけルシーンも。日本人がアメリカで映画を撮ることのすごさを力説。会場も大きく盛り上った。
そして今回VFXを担当したキムラケイサクさんが監督・脚本・VFXを手がけるスピンオフ映画の制作決定が発表された。タイトルは『レガシー・イン・オービット』、今回のVFXと同じスタイルで15分ほどの作品となるという。
最後は堺三保さん自身だ。「今後は本作を発展させて、長編映画も目指したい」との新たな目標を掲げた。「もう少し詐欺に付き合っていただければ」と堺さんらしい引き続きのサポートのお願い。今回は凱旋上映イベントの趣旨であったが、『オービタル・クリスマス』まだまだ終わらない。むしろ新たな出発点だ。これからも幸せな詐欺に付き合いたいと誰しもが思った一夜ではなかっただろうか。