高知からアニメの大型プロジェクト発表、産業集積から人材育成・イベントまで

 「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」

 高知県からアニメの文化と産業の活性化を目指す大型プロジェクトがスタートした。2022年1月17日に高知信用金庫と高知県、高知市、南国市、須崎市の5者が「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」を官民で推進することで合意、提携協定を結んだ。20日にはその内容を披露するプレスカンファレンスが高知市内で開催された。
 「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」は、アニメーション産業の課題を解決し、未来に向けて挑戦することを高知から提案するものである。クリエイターと企業のクラスター(産業集積地)を高知に創出することで、アニメの人材不足問題や地方の産業活性化を目指す。
 事業推進の旗振り役となる高知信用金庫の山崎久留美理事長は、プレスカンファレンスにて「アニメの未来課題と高知の未来課題をクリエイティブとデジタルの力で解決する」とプロジェクトの意義を語った。また高知県浜田省司知事も「高知でアニメクリエイターの皆さんの交流を図り、高知にアニメ関連産業の集積をすることで雇用の創出、地域の活性化を進めていける」と期待する。

 地域からの期待の大きさには理由がある。今回のプロジェクトは、地方発のアニメプロジェクトとしてとりわけ大きく、取り組みも多彩で野心的になっているからだ。
 これまでにもアニメから地方発で地域活性化を目的としたプロジェクトは少なくない。地元アピールのためのオリジナルアニメ制作やアニメスタジオの誘致、アニメイベントの開催などである。しかしそうしたプロジェクトの多くは単独で、単発になりがちだ。また短期的なことも多く地域への波及効果も限られてしまう。
 今回のプロジェクトの何よりの特徴は、数年がかりでアニメファンの集まる仕掛けと、アニメ制作者・企業の集まる仕掛けを多方面から同時に進めている点だ。それは長期的な産業創出を念頭に置いているためだ。

スタジオエイトカラーズ代表取締役 宇田英男氏

スタジオエイトカラーズ代表取締役 宇田英男氏

 いくつかあるプロジェクトのなかで、アニメ産業に向けては「アニメクリエイターデジタルラボ」が中核になる。ここではアニメ制作のデジタル化進展を背景に高知県内へのアニメ関連企業誘致や創業、人材育成拠点やワーケションの場所づくりをする。
 昨年秋いち早く高知市内に22年の本格事業スタートのためにスタジオエイトカラーズが新設された。スタジオコロリドの創業者である宇田英男氏、グラフィニカ社長を務めた伊藤暢啓氏らが設立に参加する。スタジオエイトカラーズは既存のスタジオの受注仕事を受けながら、オリジナル作品の制作も目指すという。また作画を含めて全面的にデジタルを導入することで、他地域との距離を感じることのない制作を可能にした。新時代、地方でこその体制である。
 代表取締役の宇田氏によれば、21年秋に募集したアニメーターの募集には150名以上の応募あったという。高知県内から多く応募があったほか、関西や首都圏からのUターン、Iターンの問い合わせもあったとしている。
 一方で高知県の担当者によれば、ひとつの大きなスタジオだけでなく、複数のスタジオが立地することで広がりが出るかたたちを目指したいとする。持続的な産業クラスターを育ってたいと考えているようだ。

 アニメファンに向けた企画も盛りだくさんだ。2023年に開催を目指す「アニメクリエイターフェスティバル」が大きなイベントになる。高知県内各所を会場に、ファンイベントやコスプレ、クリエイターアワード、ワークショップ、地域コラボレーションなどを実施する。さらにこちらでもビジネスカンファレンス・展示会などが検討され、産業振興に目配りする。
 フェスティバルの実施は、ファンを集めて地域の人たちにアニメを通じた交流を生み出すだけでなく、高知県にアニメ産業があるとのアピールにもつながるはずだ。

竜とそばかすの姫』

地元・高知が舞台になった『竜とそばかすの姫』も登場

 いくつもの事業が同時に進めることは、労力的にも資金的にも決して楽ではない。しかしそれらを連携して相乗効果を発揮することで、外部からの注目が増して「アニメなら高知」との吸引力も強化されていく。「1+1=2」でなく、そこから10ぐらいの結果を引き出すことになる。
 アニメを活かした地域振興も近年はますます活発で、競争も増している。そのなかで「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」は、アニメと地域との新しい視点と関係を生み出すことになりそうだ。

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