2020年12月10日、ソニーは日本アニメの海外向け配信の最大手クランチロール(Crunchyroll)の運営会社イレーション(Ellation Holdings, Inc.)の買収で、AT&Tと契約締結したことを明らかにした。イレーションは、大手メディアグループのワーナー・メディアを通じてAT&Tの傘下にある。
ソニーのグループ会社ソニー・ピクチャーズ・エンタテイメント(SPE)の子会社であるファニメーション・グローバル・グループが、イレーションの株式の100%を11億7500万ドル(約1222億円)で取得する。取引は米国の関係当局の承認と許可を経て実施される。
クランチロールは2006年に、日本アニメ専門の動画配信ファンサイトとしてスタートした。その後、米国のベンチャーキャピタルや日本企業の出資を受けるなかで正規配信企業へ転身し、日本アニメ分野で急成長を続けてきた。
2018年にタイム・ワーナーと経営統合したAT&Tがクランチロールを保有するオッターメディアを完全買収、経営をワーナー・メディアに移管したことで、現在クランチロールはワーナー・メディアの傘下にある。
登録ユーザー数は9000万人以上、有料契約数が300万人以上と、日本アニメ専門では世界最大、アニメビジネスにおける影響力も大きい。さらにアプリゲームやイベント運営、ライセンスと事業の多角化も進んでいる。
しかしAT&Tは過去1年、タイム・ワーナー買収で膨らんだ借入金を圧縮するために大規模な事業再編、人員整理を続けている。このなかでクランチロールはかねてより、売却候補企業とされていた。その売却先候補の筆頭にソニーグループが挙がっていた。これが実現した。
ソニーは、グループのソニー・ミュージックの子会社アニプレックスを通じて国内外の日本アニメビジネスを急成長させている。今後も拡大する事業として期待がされている。一方米国に拠点を持つソニー・ピクチャーズは、2017年に北米の日本アニメ配給の大手ファニメーションを買収している。
当初は別々の動きだったが、2019年にソニー・ピクチャーズとアニプレックスが共同出資するファニメーション・グローバルに海外事業を統合した。今回、ここにクランチロールが加わることで、北米の日本アニメビジネスの主要プレイヤートップ3であったアニメプレックス・オブ・アメリカ、ファニメーション、クランチロールの全てがひとつのグループに集約される。北米における日本アニメビジネスの寡占化が一気に進む。
日本企業による日本アニメの配信プラットフォームは、日本のアニメ・エンタテイメント業界の悲願である。ソニーのクランチロール買収は、これを実現したことになる。長期的な視点での日本アニメ文化の発展では、大きな成果だ。
一方で巨大企業グループの出現と寡占化は、業界の硬直化を招く危険性もある。こうしたバランスをどう取り、さらに成長を目指すのか、今後のソニーグループの動きが注視される。