アニメ製作大手のIGポートは、先日発表した2020年5月期決算で業績の復調が鮮明だ。売上高を伸ばすと同時に、映像制作を6期ぶりに黒字化し、全体でも黒字転換した
映像制作事業の浮上に加えて、業績を支えたのが版権事業である。IGポートの版権収入は売上高で17億4600万円20%増、利益で2億5800万円35%増加させた。この版権事業の成長の主力タイトルは、『攻殻機動隊 SAC_2045』であったようだ。2020年4月からNetflixで世界独占配信をスタートした大型タイトルだ。
IGポートが決算発表と同時に公表した決算説明資料によると、攻殻機動隊シリーズは版権売上高全体の22%を占め、作品別でトップになっている。2位の『進撃の巨人』のおよそ2倍である。
ただし『攻殻機動隊 SAC_2045』は版権収入が大きな一方で、同時期に収入とほぼ同額の映像マスター償却をしている。本作の制作費は、かなり大きかったようだ。今後は作品からプラスαの収入をどう出して利益回収していくかがポイントになりそうだ。
『攻殻機動隊 SAC_2045』の存在感の大きさは映像制作事業からも窺える。IGポートは第4四半期の売上高は同期に納品した大型作品が大きかったとするが、時期と収入規模の大きさからこれも『攻殻機動隊 SAC_2045』と見て間違いない。
【IGポート タイトル別 版権売上高構成】
1. 攻殻機動隊シリーズ (22%)
2. 進撃の巨人 (12%)
3. 銀河英雄伝説 (10%)
4. サイコパス (9%)
5. 魔法使いの嫁 (6%)
6. B:The Beginning (6%)
7. 宇宙戦艦ヤマトシリーズ (4%)
8. サイボーグ009 (3%)
9. ヴィンランド・サガ (3%)
10. ハイキュー (3%)
IGポートのタイトル別の版権売上高構成は、アニメスタジオにとっての版権収入が一般的なビジネスのヒットの大きさとやや異なることが分かる。
上位には、『進撃の巨人』、『銀河英雄伝説 』、『サイコパス』が並ぶが、『魔法使いの嫁』、宇宙戦艦ヤマトシリーズ、『サイボーグ009』といったアニメ展開が現在は終了している作品も多い。一方で商品化をはじめメディアミックスの多い『ハイキュー』が10位と低くランクされている。版権収入は製作委員会への出資比率に応じて大きく変わるため、ヒットだけでなく、どれだけ出資しているかによって変わってくる。大ヒット作の少ない出資比率よりミドルヒットに大きく出資するほうが版権収入が大きいことがある。前期であれば『B:The Beginning』や『銀河英雄伝説』がこれにあたるだろう。
加えて原作の確保も重要だ。アニメはマンガや小説、ゲームなどのヒット作を映像することが多い。たとえ大きく製作出資しても、ビジネス展開にあたっては原作者や出版社などとの調整が必要になることもある。
そうした点で自社オリジナル作品は製作会社にとって魅力が大きい。IGポートではオリジナルの『サイコパス』、『B:The Beginning』がこれにあたる。さらにグループ出版社のコミックが原作の『魔法使いの嫁』を合わせて、前期は版権売上高の20%程度となる。オリジナルタイトルのシェアをいかに拡大するかはもうひとつの鍵である。
そうしたなかで今期期待されるのが、6月から配信、7月からテレビ放送が始まった『GREAT PRETENDER』である。グループ会社のWIT STUDIOがアニメーション制作するが、原作から自社で練りあげるオリジナル作品だ。
IGポートでは今期(2021年5月期)版権売上高予想で、『GREAT PRETENDER』をトップに置いている。製作出資比率もかなり高そうだ。
今期はこのほか『ヴンランド・サガ』、引き続き『攻殻機動隊』、『B:The Beginning』などを主要作品としている。しかし版権売上高は全体で前期より20%低い13億7900万円を予想している。