総務省が放送局とアニメ製作会社などの取引の際に発生する「局印税」と呼ばれる慣習に関心を深めている。局印税は、放送局がアニメをテレビ放送にかける際に作品のプロモーション効果あるとして、収益の中から一定の割合の還元を製作・製作委員会などに求めるものである。
通常のアニメの利益は、出資金額の比率に応じて利益の分配をする。出資比率以上、あるいは出資金がない場合に利益を要求する慣習のなかで、優越的な地位の濫用が起きるのではないかと総務省は注視する。
総務省は近年、放送局と番組製作会社における取引の適正化を目指した取り組みを強化している。そのひとつが「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」の作成だ。ここで望ましい取引きのありかたを提示する。
大企業が多い放送局と中小企業が多い製作会社との間では優越的な地位の濫用による不公正な取引が起こりがちで、それを阻止する狙いがある。
2020年6月3日に、この「放送コンテンツの製作取引適正化に関するガイドライン」令和元年度フォローアップ調査結果が公表されている。放送事業者510社、番組製作会社299社のアンケート回答からなる調査だ。
アンケートは、「取引における書面の交付」「取引価格の決定」「著作権の帰属」、「リテイクの取り扱い」まで幅広い内容をカバーする。
アニメ製作会社については、製作委員会との関係に加えて、局印税について突っ込んで質問している。回答からは半数以上の放送局とアニメ製作会社が局印税を設定していることが判る。また金額の水準については、全ての放送局が適正だったとする一方で、製作会社のほとんどは適正でなかったと、契約の評価がすれ違っている。
また5月27日には総務省は「放送コンテンツの適正な製作取引の推進に関する検証・検討会議(第13回)・放送コンテンツ適正製作取引推進ワーキンググループ(第10回)」を開催している。ここで関係団体として、アニメ業界を代表する日本動画協会が局印税に関わる報告をしている。
日本動画協会は局印税が課題として浮上したことで、放送局が製作委員会に参加する際に「局印税を主張しない」との申し入れがあるなどプラスの効果があったとしている。
しかし複数シーズン放送される作品で引き続き二次使用料に対する局印税が延長設定されるケースなどは依然あるという。また局印税の設定期間が無期限であったり、国内の放送プロモーションとは関係の薄い海外番組販売や放送後の続編や劇場版に対しても局印税を主張するなど広すぎる設定範囲のケースを問題として報告する。
さらに局印税を迂回するかたちでの別途利益が求められるケースにも言及している。「放送局での放送確約を条件として、放送局の関連会社が製作委員会に参加し、制作管理費等の名目で対価を取得した」、「放送局が元請となって制作費から手数料を取得したうえで制作会社に制作業務の再委託を行った」、「製作委員会予算で制作したアニメ作品の劇伴の音楽出版権の半分を放送局子会社の音楽出版社が取得し、残りを製作委員会各社出資比率で按分した」などである。
アニメビジネスが複雑化するなかで、アニメの収益源は多角化が進んでいる。そうした収入のどこまでがテレビ放送によるプロモーション効果なのかは、これまで以上に判断しにくくなっている。放送局は放送外収入の開拓を強めており、ますます権利収入を求めるようになっている。局印税を巡る議論は、今しばらく続きそうだ。