2018年6月15日、フランスで開催中のアヌシー国際アニメーション映画祭に劇場アニメ『ペンギン・ハイウェイ』が登場した。現地を訪れた石田祐康監督とキャラクターデザイン新井陽次郎氏、尾崎紀子プロデューサーが「Work in Progress」と呼ばれる企画にて、映画制作の裏側を語った。
『ペンギン・ハイウェイ』は、森見登美彦氏のベストセラー小説をスタジオコロリドのアニメーション制作により劇場映画とする話題作。8月17日の日本での全国公開まで2ヵ月と迫るなか、出来たばかりの本作の一部がフランスで披露された。
「Work in Progress」は、これから公開される作品の制作過程を紹介する映画祭でも人気の企画だ。これまでにも『この世界の片隅に』や『バケモノの子』、『レッドタートル ある島の物語』などがフォーカスされてきた。日本のアニメ映画自体は珍しいわけではない。
それでも『ペンギン・ハイウェイ』は、映画祭を訪れた人たちにかなりインパクトが与えたようだ。モデレーターに年齢を聞かれた石田監督が「29歳です」と答えると、「映画祭の長編監督では一番若いのでは?」と。新井氏も同じ29歳と知り、ふたりの若さに驚いた。
そうした新鮮さは、ヨーロッパのアニメーション制作を目指す若い世代をひきつけたようだ。会場を埋めた聴衆も、他の企画以上に若者の姿が多く見受けられた。
石田監督は作品のきっかけについて、いままでは短編やPVが中心だったなかで「長編を」と言われてどうしようかと思ったと。まずは、候補とした10冊以上の本から『ペンギン・ハイウェイ』を選び出した。年上の女性に対する憧れをうまく描いていること、日常とSFのバランスのよさが理由だ。
制作スタッフは、自身が所属するスタジオコロリドであれば同年代や年下も多い。しかし映画となると外部のスタジオとの仕事もある。「自分が子どもの頃観ていた作品を作った遥か年上のベテランスタッフと仕事することに恐縮した」と話す。
スタジオコロリドの設立は2011年。若いスタジオの特徴として、石田監督はデジタルを多く使った制作をあげる。そうした制作に対してベテラン世代は、頑張れという応援の気持ちと出来るものならやってみろという気持ちのふたつがあるのではないかと語る。
トークではそうしたデジタルでの制作手法もたっぷり紹介した。映画のシーンを用いてアニマトロニクスの導入の仕方や、色の決め方など。映画の目玉となるペンギンパレードのシーンは圧巻だ。
新井氏はその場でデジタルを用いた作画を披露。またキャラクターは、小説の表紙に描かれたイラストをベースにデザインしたことを明かした。
会場からの質問も、スタジオコロリドの若さを意識したものが多かった。「他の日本のスタジオとの違いは何なのか?」「2Dと3Dの融合で苦労する点は?」、さらには日本でのアニメスタッフになるための教育についてまで。
近年、日本アニメも大きく取りあげられるようになったアヌシーだが、長編映画ではベテラン監督やアニメーターにスポットがあたりがちだ。日本の新しい商業アニメの動きを伝えるという点で、『ペンギン・ハイウェイ』の「Work in Progress」は、大きな役割を果たしたのでないだろうか。