10月8日(金)、『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 前章 -TAKE OFF-』が劇場上映をスタートする。2012年に『宇宙戦艦ヤマト2199』として始まった長年愛された作品を新たな映像で現代に甦らせるリメイクシリーズの最新作だ。前作『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』を引継ぎ、地球とガミラス、そしてイスカンダルを巻き込む新たな危機と新たな敵を描く。
前作に引き続き本作にシリーズ構成/脚本として参加する福井晴敏氏、そして本作から監督として参加する安田賢司氏に、本作の企画の経緯やドラマの見どころを伺った。
[取材・編集:数土直志]
『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』
公式サイト https://starblazers-yamato.net/
――「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」を受けて、新しい物語「宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち」がスタートします。本企画のスタートはいつ頃でしたか?
福井晴敏氏(以下、福井) 「2202」の制作が半ばまで進んだところで、これだったら次もいけると企画にGOサインが出ました。
――「次も福井さんお願いします」といったかたちですか?
福井 すでに「2202」の最終回までのシナリオが出来ていたので、あの終わりかたであれば、何も知らない人がやるのでなくという考えが企画側にあったのだと思います。
「2202」の最後で古代進は全人類の総意で助けられたのですが、人類はその代償として軍事と経済の要であった“時間断層”を失ってしまっている。そうした地球に戻った古代は地獄ですよね。「2202」でやりきった感はあったのですが、古代の精神的なリハビリテーションまでをきちんと描くとなれば「あとは宜しくね」と言えず、「やりましょう」と。
――安田監督は今回からの参加ですが
安田賢司監督(以下、安田) 「ヤマトを知らなくても大丈夫ですよ」と話していただいたなかで参加しました。ただこれまでのシリーズの流れは汲まなければいけない。福井さんをはじめこれまでやられてきたかたがたがメインスタッフにいてくれたので、非常に心強く出来ました。覚えることは当然、沢山あったのですが、関係性ですとかどこが肝なのかを随時教えていただきました。
――それまで監督が持っていたヤマトのイメージはどういったものでしたか?
安田 個人的には兄が好きだったのがヤマトだったんです。世代的には私より上、自分はガンプラ世代なので、今回の仕事を引き受けて改めてきちんとしたかたちでヤマトを観ました。
――福井さんも、いわゆるヤマト世代よりは少し下の世代ですね。
福井 実は原作のほうは「新たな旅立ち」以降からファミリー路線に変更しているんです。俺はむしろ子どもだったので、そこからずっとヤマトにはいっています。
――最初のヤマトからすでに40年以上になるのですが、なぜこんなに長く続くと考えられますか?
福井 続くというのは途切れないことですから、そういう意味ではヤマトは一度途切れた時期が20年ぐらいあります。40代前半以下の人は、ヤマトをあまり見ていません。その人たちは「なぜヤマトは船のかたちをしているんだ」と思うんですよ。そこに対して冷静な目を持つヤマト世代でない安田さんのような人に、今回、入って欲しかったんです。ヤマトの世界で描かれてきたコアの部分を理解し、いまのアニメーションに仕立てあげてくれることの期待がとても大きかったんです。
――監督はフラットに見た時に、ヤマトの何を受け継ぐべきだと考えられましたか?
安田 たとえば宇宙なのに艦隊が水平線上で戦っているのがおかしいなというのがあって、「なぜなんですか?」と聞くと「そこには銀河水平線というものがある」と。それは様式美だなと思ったのですが、ただそのままやってしまうと腑に落ちないまま残ります。そこで水平線とはいいつつ角度をつけてみたりしています。要素として匂いは残さないといけないので、そうしたバランスを考えながら絵コンテを含めてやっています。
――今回の「新たな旅立ち」ではこれまで以上にオリジナル要素が増えました。そこに難しさはありませんでしたか?
福井 いままでのなかで一番楽でした。多くの人の記憶に残っているのは2作目の「さらば宇宙戦艦ヤマト」までなんです。子どもの頃に面白かったという記憶はありますが、それを絶対変えてはいけないと言う人はいないと思います。当時の印象に残った音楽、筋立てをきちんと残しつつ、あとは「2202」から続く物語として新たに作っていきました。その道標として、かつての「新たなる旅立ち」で印象的だったところを配置していけばいい。
安田 これまでは新しいキャラクター、新しい艦、新しい世界観はなかなか出来なかったのですが、今回の「新たな旅立ち」ではそこに一歩踏み込めたかなと思っています。
――今回は新キャラクターもあり、雰囲気がずいぶん変わりました。そのなかでも重要な土門の作品における役割は?
福井 ヤマトは話が始まると艦内でしかお話が展開しないんです。ところが古代の周りにいるのはお馴染みばかりで古代を庇うんですよ。ドラマが生まれにくくなってしまうんです。そこに緊張感を持たせるために、古代を庇ってくれる最右翼の真田さんと雪をヤマトの外に放り出す。代わりに土門です。古代にとっては一番傷口にさわるタイプのキャラクターを真ん前に配置しました。
安田 かつてのヤマトクルーだけだとお話が転がりづらいので、そこが土門のいてよかったところです。世代的にも若いですから。古代とかデスラーは、もう正直、何を考えているのかわからないところまでいっています。土門たちを通してこれからの人たちを描けるのは非常にやりがいがあった。絵コンテを描きながらも楽しかったです。
――もうひとり、今回驚いたのは「2199」でヤマトを裏切ってガミラスに残っていた薮が再登場してスポットがあたっています
福井 脚本の岡(秀樹)さんからの提案です。僕は最初は断ったんです。これだけ登場人物が多いところに、さらに薮まで出せるのかと。でもそれを持ち帰って考えた時に、もしかしたら薮がこの作品の柱になるかもしれないと思い直しました。岡さんは最初に機関室のベテランクルーがみたいな恰好いい人間として戻す予定だったんです。でも「こいつそんな奴じゃない」。もともと裏切ってガミラスに住みついた人間ですから。そいつが戻ってきた。針のむしろの上で家族を抱えて、なんとか生きて行こうとする。今の日本にとって一番親近感の沸くキャラクターかもしれない。ささやかに守ってきた人生が根底から覆され、それをどう乗り越えて立ち直っていくかをきちんと描ければ、これが今回のテーマになる。
安田 薮に関しては、戦争ものだけでなく、家族のドラマを描けるのが非常に面白かったです。シナリオをすごく面白く読ませていただきつつも、やらなければいけないボリュームが沢山ある構成になって、どう配分して、どう見せていくのかコンテ作業で頭を悩ませました。
――古代と雪を今回はどう描くべきだと?
福井 そういう意味では今回描かなかったです。ほとんどカメラを当てずに、ただふたりが信頼し合っているのはしっかり描く。ふたりは、もう単なる男女の関係じゃなくなっている。お互いに支え合っているので、その関係性だけをしっかりと見せておければいいんです。
安田さんの勘がいいなと思うのは、古代と雪のいる数少ないシーンでは雪が男役なんですよ。古代のほうがどうしたらいいのだろうというのを、雪が支えている。それはすごく現代的です。究極、古代がなくとも雪は生きていけるけれど、雪がいなければたぶん古代は生きていけないんです。
安田 実際に絵コンテ書いていても雪がヒロインという考えは頭から外れていましたね。結婚はしてないけれど、夫婦であったり家族であったりと考えていました。
――現段階で話せる範囲で後章の展開を教えていただけますか。
安田 いまのシリーズの面白さはかつての物語にどういう要素が加わって、何がどう変わるのかだと思うんですよ。今回はそれを超えて新しい展開、事実が明かされていきます。純粋に物語としての驚きがあります。僕もシナリオを読んでびっくりしたところです。期待を裏切ることはないので、楽しみにしてください。
――最後に大きな質問になりますが、ふたりにとって「ヤマト」とは何ですか?
福井 縁です。縁で結ばれた何か。こんなに関わることになるとは、俺の人生の予定表には書いてなかった。忠実にヤマトの世界観をディテールに凝って再現していくだけではおそらくこの先はないので、自分ぐらいの人間がやるのがちょうどいいのかもしれません。それも誰かが意図したのでもなく。本当に縁ですね。
安田 もちろんタイトルが大きい、誰もが知っている作品をやる喜びもあります。ただ「ヤマトに参加することになったよ」と言った時の家族や兄の喰いつきかたが今までと違っていました。個人的な喜びよりも「これは裏切っちゃあかんな」と大切にしないといけないなと引き締めました。自分の上の世代のひとたちが大切にしていたものを預かって、そういう人たちが楽しんでもらえるように届ける役目をもらったと思っています。