新海誠から伊藤智彦、湯浅政明まで 東宝2019年のラインナップを読む

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■新海誠『天気の子』、7月公開で東宝の勝負作
 毎年12月初旬になると映画業界は慌ただしくなる。大手配給会社がこの時期に、翌年のラインナップを次々に発表するからだ。あっと驚く大作の製作発表や、話題作の公開時期などが明らかになる。
 なかでも毎年この時期に開催される国内映画配給最大手・東宝のラインナップ発表は話題になる。今年も12月13日に東宝は、未発表作も含めラインナップした。

 最大の話題作は、新海誠監督の新作『天気の子』だろう。2016年に『君の名は。』で空前の大ヒットを飛ばした新海監督の劇場長編新作だ。
 監督だけでなく、原作と脚本も新海誠が担当するのは前作と同じ。アニメーション制作は長年のチームであるコミックス・ウェーブ・フィルム、キャラクターデザインも『君の名は。』と同じ田中将賀と、安定感がある。
 3年ぶりの新作や東宝配給も事前予想の範囲内、大きなニュースであるが驚きは少ない。むしろ注目は本作が前作にどこまで迫るか、超えるのか、今後の動きである。

 配給では前作と違う部分もある。『君の名は。』では8月26日だった公開日が、『天気の子』は7月19日と1ヵ月早くなった。
 東宝の年間配給スケジュールはある程度フォーマット化されている。夏のアニメは7月に数十億単位の興行収入を狙う大作と『ポケットモンスター』の新作、8月から秋にかけて規模のより小さいアニメをさらに1本とすることが多い。7月の大作映画は、これまでスタジオジブリや細田守作品などがあてられてきた。
 2016年はこのアニメ枠がなく、7月29日に総監督・庵野秀明、監督・樋口真嗣による『シン・ゴジラ』が公開されている。8月以降枠が『君の名は。』だった。それが2019年は7月第3週に移る。当初から大きな期待をする東宝の2019年最大の勝負作と言っていいだろう。

■晩夏、オリジナルアニメ枠定着か?伊藤智彦監督『HELLO WORLD』で挑む
 8月以降のもう一本のアニメ枠は、2016年の『君の名は。』の成功を受けて、2017年は『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(総監督・新房昭之、監督・武内宣之)、2018年は石田祐康監督『ペンギン・ハイウェイ』(東宝映像事業部配給)が公開されている。現在は新たな才能のオリジナル劇場アニメの時期としている。
 2019年はそれが伊藤智彦監督『HELLO WORLD』になる。こちらはラインナップ発表会に先立つ12月12日に2019年秋公開と電撃的に製作発表された。

 伊藤智彦監督は、テレビアニメシリーズ『ソードアート・オンライン』、『僕だけがいない街』で実力が評価されてきた。『時をかける少女』、『サマーウォーズ』とふたつの細田守作品で助監督も務め、映画の経験も十分だ。
 2017年に『ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』で劇場初監督。興行収入25億円超えは深夜アニメ発の作品として空前のヒットだ。
『HELLO WORLD』はほかにもアニメーション制作をグラフィニカ、脚本を小説家の野崎まど、キャラクターデザインを『けいおん!』の堀口悠紀子と斬新な組み合わせとなった。映像はまだ公開されていないが、3DCGと2Dデジタルで先進的な試みを続けるグラフィニカの新しい試みも気になる。

 ラインナップ発表会前日の製作告知は、発表会では『天気の子』に話題が集まることを見越したうえだろう。『HELLO WORLD』にも注目が集まる仕掛けだ。
 現状で公開規模は明らかにされていない。しかし1年近く前の発表から、こちらも期待作と見ていい。

■湯浅政明をどう宣伝するのか、問われる手腕
 2019年の東宝のラインナップには、もうひとつ有名監督作品がある。湯浅政明監督のオリジナル劇場アニメ『きみと、波にのれたら』だ。2019年6月21日に全国公開が決定した。
 正式な製作発表は、10月の東京国際映画祭でしている。こちらは公開規模と宣伝が気になるところだ。

 湯浅政明監督は、2017年に『夜は短し歩けよ乙女』、『夜明け告げるルーのうた』で国内外の有力アワードを次々と受賞した。いまや日本を代表するアニメーション監督と世界から見られている。
 しかしいずれの作品も、興行成績は話題の大きさほど芳しくない。公開規模が小さい東宝映像事業部の配給ということもあったかもしれない。
 東宝映像事業部のアニメ映画配給は、今年の『ペンギン・ハイウェイ』も含めて話題性に較べて興行の数字が小さい傾向がある。これまで10億円を超えるヒットはなく、中小規模公開からのヒット作りでは他社に後れを取っている。
『きみと、波にのれたら』をどのように世の中に広く届けるのか。東宝の手腕が問われることになりそうだ。

■日本原作洋画が次々、エヴァシリーズ初の東宝全国配給
 シーズンとその時期に合わせた作品でフォーマット的に組み立て来た東宝だが、2019年以降のラインナップは、大きな変化がある。
 洋画配給への挑戦だ。東宝グループはこれまで邦画を東宝、洋画を東宝東和・東和ピクチャーズと分けて担当してきた。
 これまでも洋画配給はなかったわけではないが、東宝が原作を持つ『GODZILLA ゴジラ』など例外的だった。しかし2019年、20年はふたつのゴジラシリーズに加えて、『名探偵ピカチュウ』(5月)、『モンスターハンター』(2020年)をプログラムする。日本コンテンツのハリウッド映画化作品を中心に積極的配給をしていく姿勢が見える。

 そして2020年に向けてのもうひとつの大きな話題は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』だ。東宝と東映、カラーの共同配給というかたちも異例だ。これまでクロックワークス、ティジョイなどが手がけてきた巨大コンテンツ「エヴァンゲリオン」が東宝系で配給されるのはこれが初だ。
 大ヒットコンテンツが、国内最大の映画配給会社と結びつくことで、さらに大きく広がるのか。こちらも関心を集めそうだ。

■2019年 東宝配給映画

【アニメ】
『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE~2人の英雄(ヒーロー)~』 1月1日
『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.1 罪と罰』 1月25日
『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian』 2月15日
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』 3月1日
『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__』 3月8日
『名探偵コナン 紺青の拳(こんじょうのフィスト)』 4月12日
『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』 4月19日
『きみと、波にのれたら』
『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』 7月12日
『天気の子』 7月19日
『HELLO WORLD』 秋
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』 2020年

【実写邦画】
『マスカレード・ホテル』 1月18日
『映画刀剣乱舞』 1月18日
『七つの会議』 2月1日
『フォルトゥナの瞳』 2月15日
『君は月夜に光り輝く』 3月15日
『PRINCE OF LEGEND』 3月21日
『キングダム』 4月19日
『コンフィデンスマンJP』 5月17日
『アルキメデスの大戦』 7月26日
『劇場版 おっさんずラブ(仮)』 夏
『記憶にございません!』 9月13日
『蜜蜂と遠雷』 秋
『マチネの終わりに』 秋
『屍人荘の殺人』 2019年
『ヲタクに恋は難しい』 2020年
『Last Letter』 2020年

【実写洋画】
『名探偵ピカチュウ』 5月
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』 5月31日
『ゴジラVSコング(仮)』 2020年
『モンスターハンター』 2020年

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