2021年10月1日より、東京・六本木の国立新美術館で「庵野秀明展」が開幕した。映画監督・庵野秀明がこれまで制作に関わった作品と創作の軌跡を辿るものである。展示品総数は1500点以上にも及び、今回初めて公開される作品、資料も多数含まれる。それだけに会場は、行けども行けども展示が続くと思わせるほど広大。満を持しての企画になった。
展示は全5章構成でそれぞれにタイトルがつけられているが、むしろ大きく4つのテーマで考えると把握しやすい。最初のパートは庵野秀明が子ども時代から若き日に体験した60年代から80年代のアニメ、特撮、マンガ文化の紹介。次に大学時代からゼネラルプロダクツなどでの自主制作・アマチュアの時代。さらに商業アニメデビューからエヴァンゲリオンに至る期間、最後が実写特撮への進出と「シン・エヴァンゲリオン」の時代である。
今回の企画展でとりわけ特徴的なのは、この最初のエリア、庵野がリスペクトするものが並んだエリアだ。庵野自身が制作に関わるわけでないにも限らず、多数の原画・プロップが展示されている。
庵野の過去の経験を知ることが、現在の庵野を理解することに結びついていること示しているようだ。実際に庵野が近年「ゴジラ」や「ウルトラマン」「仮面ライダー」のリブートを次々に手掛けるのは、まさにこの経験に根差してるからだ。アニメや映画が集団創作物であるにもかかわらず、庵野作品には“庵野秀明”の個性と経験が色濃く反映されている理由もここから分かる。
また展示された資料の数々は、2012年の「館長庵野秀明 特撮博物館」に始まり現在のATAC(アニメ特撮アーカイブ機構)に至るまでの庵野のアニメ・特撮文化の継承への取り組みの成果である。そこには庵野秀明の未来に向けた願いが表出してもいる。
実写映画・特撮に大きな比重が置いたことも、今回の展示の特徴だろう。庵野はアニメ制作の手法を実写映画に持ち込んだと評されることがある。しかし同時に実写映画の手法をアニメ制作に大胆に持ち込んでもいる。たとえばそれは展示会に設置された巨大な第3村の模型から分かる。「シン・エヴァンゲリオン」では、映像空間を作るうえで実写映像の考えかたを持ち込んでいるのだ。「シン・エヴァンゲリオン」の展示が実写・特撮のパートの真ん中にあるのも、そうした見方を意図したものでないだろうか。
日本の映像の世界では、アニメーションと実写には大きな分断があるとみられがちだ。庵野はそれを軽々と越境し、双方で新しい映像表現を追求し発展させる。庵野が日本の映像界でエポックメイキングなのは、まさにこの点なのである。
会場は一部展示物や映像を除き、原則、来場者の撮影を可能にしている。SNSなどを通じたコミュニケーションが意図しているのだろう。そうしたやりかたは最新のトレンドに乗っているように見える。
しかしファンが作品を通じてコミミュニティを育て、新たな創造を実現することは、庵野の若き日のアマチュア時代、そして「エヴァンゲリオン」をはじめ数々の作品で取ってきた手法だ。むしろ時代が庵野に追いついたのだ。
今回の展示は庵野秀明の現在、61歳までの軌跡を振り返ったものになる。この後完成する『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』、さらにその先にある作品が新たな世界を生みはずだ。そして、それらはきっと新しいアニメーションと実写の文化を予見しているはずだ。
庵野秀明展
https://www.annohideakiten.jp/
2021年10月1日(金)~12月19日(日)
国立新美術館 企画展示室1E