Netflixは実写ドラマも変えるのか? 園子温、蜷川実花のドラマに「全裸監督」の挑戦

『愛なき森で叫べ』

■世界に知られた映画監督をドラマシリーズに起用
 世界の優れた映画・ドラマをグローバルにつなぐことで、Netflixがエンタテイメント界に革新を巻き起こしている。グローバル配信を活かすことで、マイナーとされてきたスタッフやジャンルを世界レベルの人気に引き上げるからだ。
 2019年はそのひとつに、日本の実写作品が加わりそうだ。2019年の国内実写ドラマの目玉として、園子温監督の『愛なき森で叫べ』、蜷川実花監督の『Followers』、そしてAV監督村西とおるを題材にした『全裸監督』が発表されている。いずれもNetflix世界独占配信が決まっているだけでなく、グローバルに向けて、その内容にこれまでと違ったアプローチがかけられている。日本実写番組の挑戦だ。

 園子温監督は『冷たい熱帯魚』『恋の罪』『ヒミズ』などで知られ、海外の国際映画祭で数多くの賞を重ねきた。現代の日本を代表する映画監督だ。今回は椎名桔平を主演に『愛なき森で叫べ』で二面性を持つ冷酷な犯罪者を描く。
 蜷川実花はフォトグラファーとして知名度を得た後、2008年の『さくらん』で映画監督デビュー。続く『ヘルタースケルター』で、映画監督としても評価を獲得した。
 いずれも世界的の知られた映画監督にオリジナルドラマシリーズという意表を突いた企画となった。Netflixならと言えるだろう。

 『全裸監督』は、1980年代に活躍したAV監督村西とおるの葛藤と波乱万丈な人生を描くもの。個性派俳優の山田孝之が主演、『百円の恋』の武正晴が総監督。「AV監督」がテーマとトリッキーであると同時に、話題性たっぷりだ。
 Netflixコンテンツアクイジション部門ディレクターのジョン・ダーデリアン氏は、「自由と成功を追うドラマは、日本のみならず全世界の観客に響くことでしょう。日本の歴史の中でも比類なくダイナミックだった時代を描き、社会と個人における、今こそ語るべきテーマを探求する作品となります」と本作の意味を説明する。

■日本の実写は本当に海外で通用しないのか
 3作品に共通するのは、日本だけでなく世界市場を狙うという点だ。日本では数多くのテレビドラマが制作されているが、グローバルで知られた作品はほとんどない。日本固有の文化に根差した内容が、なかなか受け入れらないためともされる。
 そうであれば最初からグローバルな視点を盛り込んだ作品というわけだ。世界を見据えることで、国際的に評価の高い園子温と蜷川実花をドラマで起用というアイディアも生まれる。

 海外でよく知られたアニメに較べると、日本実写は存在感が薄いと指摘されることが多い。しかし、実写映画に才能や作品がないわけでない。
 映画界では古くは黒沢明、小津安二郎、今村昌平と多くの巨匠が日本から生まれている。近年でも『万引き家族』でカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和や河瀬直美、黒沢清など多くの才能を輩出している。
 こうした監督たちの作品はまじめ過ぎて、映画祭では評価されても一般的にヒットを望めないのでないかといぶかる向きもあるかもしれない。
 しかし、昨年Netflixで公開されたメキシコのドラマ映画『ROMA ローマ』が、世界各国のアワードを席巻し大きな人気を博した例もある。こうした映画に観客がいないのでなく、鑑賞者のための十分なアクセスが提供されていないだけなのである。同じことは日本の実写にもいえるのでないか。そこで通常のテレビドラマにない作品を送りだす。

 Netflixは有料会員数が世界で約1億4000万人という巨大なネットワークを用いて、世界各国の優れたスタッフの作品をグローバル規模で届ける。Netflixは優れた映画と観客を結ぶ新たな動線を築いている。
 日本アニメはこれに乗ることで世界的な人気を博すことに成功した。今回は日本の実写で挑戦する。『愛なき森で叫べ』『Followers』『全裸監督』はNetflixだけでなく、日本の映画界にとっても勝負どころなのである。

『全裸監督』
キャスト: 山田孝之
総監督:武正晴
原作:本橋信宏「全裸監督 村西とおる伝」(太田出版)

『Followers』
監督:蜷川実花

『愛なき森で叫べ』
キャスト: 椎名桔平/満島真之介/でんでん
脚本・監督:園子温
プロデューサー:武藤大司

*いずれも2019年配信開始予定

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