米国 VIZ Media、フランス産マンガ「ラディアン」の英語翻訳版を発売 変化する出版戦略

ラディアン

 米国の日本マンガ翻訳出版の最大手VIZ Mediaが、フランスのマンガ家 トニー・ヴァレントの『ラディアン』を刊行する。2018年9月11日に第1巻をグラフィックノベルのかたちで発売、価格は9.99ドルとなる。
 『ラディアン』は2013年にフランスのアンカマ(Ankama)より刊行がスタートした少年向けの冒険ファンタジー。日本の少年マンガに強い影響を受けており、フランスでは日本作品と同じく「MANGA」に分類される異色作だ。ヨーロッパでは大ヒット作になり、現在9巻までが発売されている。
 本作は日本でテレビアニメ化され、2018年10月からNHK Eテレでの放送も決まっている。日本からフランス、フランスから日本、そしてフランスから世界に広がる新しいかたちの作品である。

 今回のVIZ Mediaの刊行決定も秋からスタートするテレビアニメに合せたものとみられる。少年向けの冒険アドベンチャーは、『ONE PIECE』や『NARUTO』『ドラゴンボール』を手がけてきたVIZ Mediaと考えれば納得できる。
 一方で同社が『ラディアン』を手がけるのは、異例な部分も少なくない。ひとつは小学館・集英社系のVIZ Mediaが、グループ会社以外の翻訳出版をすることは決して多くないからだ。日本語の翻訳出版もユーロマンガと飛鳥新社が手がけている。さらに日本マンガの出版社が日本以外、さらに米国でなくフランス作品の翻訳出版を手がけるのも異例だ。VIZ Mediaが『ラディアン』の今後に可能性を感じているわけだ。

 もう一方でVIZ Mediaが、日本マンガ・アニメの新たな潮流に乗ろうとしていることも窺わせる。それは日本のマンガスタイル、アニメスタイルを取り入れた海外産作品の成長だ。
 すでに米国発のウェブ発のコミック『HOMESTUCK』(アンドリュー・ハッシー)の刊行や、日本カルチャーにも影響を受けたNetflixオリジナルアニメ『悪魔城ドラキュラ -キャッスルヴァニア-』のアニメの映像ソフトのライセンスも獲得している。新分野に意欲的だ。

 米国では日本アニメの復調に合わせて、日本マンガも過去数年で回復傾向にある。現地のポップカルチャービジネス調査のICv2査によれば、日本マンガの売上げは2012年を底に反転している。
 なかでもVIZ Mediaは、市場の過半数を握るビジネスリーダーである。現在のヒット作は『僕らのヒーローアカデミア』が大ヒットになっている。
 一方米国のベストセラーからは、日本と異なる米国ならの趣向も読み取れる。日本での人気以上に米国で飛び抜けた支持を誇る作品もある。『ワンパンマン』や『東京喰種トーキョーグール』、なかでも姫川明の『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』は、米国を含めた世界各国で日本を遥かに超える大人気となっている。
 こうした背景には、日本での評価に頼らずに自身で面白い作品を見つけようとする傾向が海外ファンの間で強まっていることもある。アニメ・マンガが日本と海外で同時に展開されることが増えたのも、そうした傾向を強めているかもしれない。
 こうした潮流をさらに一歩進めたのが、海外産の日本マンガ・アニメともいえる。『ラディアン』はVIZ Mediaにとっては数多い新作タイトルのひとつだが、日本マンガと海外を考える点で見逃せない動きである。

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