2018年6月10日から7日間、フランスで開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭にて細田守監督の最新作『未来のミライ』が上映された。同作が長編部門オフィシャルコンペティションに選ばれ、映画祭の注目作のひとつになったためだ。
12日には、カンヌ映画祭「監督週間」に続き再びフランスを訪れた細田守監督が、観客に挨拶。上映後には、会場から熱狂的な喝采を浴びた。
翌日13日には、細田守監督の記者会見が開催された。朝9時過ぎからスタートという早い時間にもかかわらず、多くのメディアが集まったのは、前日の反響を受けてのものだろう。
1時間近くにも及んだ会見では、これまでの作品を踏まえた質問も多かった。細田監督が、フランスのアニメーションファン・関係者の間で馴染みの存在になっていることを感じさせた。
作品に関する質問では、家族や日本社会の現状を映画のテーマを結びつけるものが目立った。フランスでは日本の少子化問題が知られており、そこに対するメッセージが『未来のミライ』の中にあるのかといった指摘もあった。
これに対して監督は「少子化の中で家族観は変わらざる得ません。社会の中で少数派になっている子どもたちに何を伝えることが出来るのか。それはいつでも考えている」と話す。
またくんちゃんとミライちゃんのお父さんに、監督自身が反映されているのかとの質問も。実際に監督自身の経験が映画に影響しているところもあり、たとえばお父さんがお母さんに言われるセリフには実際に自分が奥さんから言われたものもあるという。
「子どもよって父親も変化させられている。子どもが成長する中で、前よりはまともな父親になっているかも」と。しかしそれは単に個人のものでなく、普遍的なテーマでもあるのだろう。監督の言葉からは『未来のミライ』が子どもたちだけの物語でなく、父親も母親も含めた家族の物語であることが伝わってくる。
映画を印象づけるもうひとつの主役が、本編の舞台のほとんどを占める家だ。他にない変わったデザインが関心を呼んだ。
「建築家と一緒になってデザインしたもので、実際に建てることも可能です」、そして家にこだわったのは子ども行動範囲がほとんど家だけだからと、細田監督は説明する。さらに「この家には6つのフロアがあり、それぞれが100㎝の段差になっていて、これはくんちゃんの身長と同じです」と、家に関する設定の一部も明かした。
映画祭ならの質問は、監督の映像論についてだろう。まずは短編アニメーションと長編アニメーションの違いについて。
短い映画祭滞在期間中に出来る限り短編作品を観たという細田監督は、「かつて短編はアートとされ、長編は作家性で短編に負けることもあったかもしれない。でもいまは長編でも作品に作家性が出て来るようになったのでは」と、自身の『未来のミライ』にも、非常に作家性が出ていると説明する。
さらに「実写」と「アニメーション」の違いについて聞かれると、アニメーションの可能性について言及した。「これまで実写映画で様々な名作が生まれてきた。しかしアニメーションを使うことで、まだ実写映画では表現されていない局面を描ける」のだという。たとえば「4歳の子どもを主人公に実写映画を撮影することはできないが、アニメーションならこれが出来る」。『未来のミライ』のなかにも、そうした新しい可能性への挑戦が含まれているわけだ。
次回作についても質問があった。「『未来のミライ』の公開も始まっていないし、まだ全然考えていない」とのことだった。
しかしアヌシー映画祭を見ても、細田監督の海外での人気と関心はとても大きい。『未来のミライ』からさらに続く多くの作品を、日本だけでなく世界が期待しているのは間違いないだろう。