9月8日、米国で日本アニメを手がける大手企業のファニメーション(Funimation)と日本アニメの海外向け配信最大手のクランチロール(Crunchyroll)が提携することが明らかになった。両社は自社が配給権を持つ日本アニメの映像配信タイトルを相互に提供する。またファニメーションはクランチロールが配給するタイトルの映像ソフトを発売する。
クランチロールとファニメーションの配信サービス「FunimationNow」のタイトルは、一気に増加する。米国の日本アニメファンの視聴アクセスの利便性が広がりそうだ。
相互提供は発表と同時にスタートした。クランチロールでは『Gray-man HALLOW』、『初恋モンスター』、『パズドラクロス』が、FunimationNowには『91 Days』、『モブサイコ100』、『Orang』といった夏新作が加わった。さらに旧作でも人気タイトルの相互提供を開始している。
映像ソフト発売での提携も大きい。クランチロールは配信の大手だが、映像ソフト発売は行っていない。このため日本から配信権以外の権利も含めてライセンスを獲得した際は、ビデオパッケージ化権を再販売する必要があった。販売先が見つからなければ、海外で映像ソフトは発売されない。
一方でファニメーションは90年代から続く老舗で、映像ソフト発売や映画配給など幅広いビジネスにノウハウがある。そこでファニメーションが、クランチロールが持つタイトルのBlu‐ray・DVD、それにEST配信を吹替えと字幕の双方で発売する。クランチロールの配信は字幕が中心だが、吹替え版にもファンの支持があり、吹替え版によるユーザーの拡大にもつながる。
今回は『逆転裁判』、『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』、『文豪ストレイドッグス』、『ジョーカー・ゲーム』、『甲鉄城のカバネリ』、『ReLIFE』の映像ソフト発売が早速発表された。今後もタイトルは増やしていく構えだ。
クランチロールはサンフランスコに拠点を持ち、日本アニメの分野で世界最大の映像配信プラットフォームである。有料会員数だけで75万人を超える。設立当初より、日本でテレビ放送されるアニメのほぼ全ての配信を目指すとしてきた。しかし、実際にはファニメーションやVIZ Mediaなどの他の有力企業との作品獲得競争で、実現できていない。今回、最大のライバルであるファニメーションと手を組むことで、これに一歩近づく。
ファニメーションにとってもラインナップの強化は同様の利点があり、さらに映像ソフトの発売タイトルも一挙に増せる。右肩下がりとされてきた北米のBlu‐ray、DVDの販売も、現在は下げ止まってきた。映像ソフトの顧客も依然存在するだけでなく、デジタル配信で作品を売り切るEST配信が今後期待できるだけに、得るものは大きい。
両社の提携は日本企業にも無視できない。北米向けのライセンス販売価格にも影響がありそうだ。日本アニメの北米向けのライセンス販売価格は過去数年で急上昇してきた。2000年代後半にはテレビアニメシリーズが1話数十万円ということも多かったが、現在では1話数百万円は珍しくない。価格の値上がりは、複数の大手企業が獲得競争をするためとされている。シーズンの話題作などではラインナップから外せないとして、採算ラインを超える水準で購入されているとの指摘も多い。北米の2大アニメ企業の提携で、こうした競争はある程度沈静するかもしれない。
ランセンス価格の上昇が日本のアニメ製作側に大きな売り上げをもたらしているだけに、下落となれば日本側にとっては痛手だ。すでにもうひとつの巨大市場である中国向けのライセンス販売価格も落ち着き始めているだけに、日本企業の海外戦略も見直しを迫られる可能性がある。