■ 応募総数4192作品、史上最高に
2018年3月16日、東京国立新美術館にて、第21回文化庁メディア芸術祭の受賞作品が発表された。今回もメディアアート部門、エンターテインメント部門、アニメーション部門、マンガ部門の4部門に大賞、優秀賞、新人賞が設けられている。
現代美術の中から取り出されたメディアアートと、ゲームやウェブなど商業性の強い作品の並ぶエンターテインメント部門、さらにアニメーション、マンガと異なるジャンルが重なるのがメディア芸術祭の特長である。同時代性や、デジタルの多用など複数分野にまたがるテーマもあるが全体ではない。むしろ新しい芸術にスポット当てることで、メディア芸術祭は独自のジャンルとして馴染みのものになりつつある。それは過去最高となった世界98ヵ国・地域から4192にも及ぶ応募作品数にも反映している。
■ エンターテイメント部門に『人喰いの大鷲トリコ』、ゲームソフトから大賞
メディア芸術の多彩さは、第21回の受賞作品に強く現れている。アート部門はチュニジアのHaythem ZAKARIA氏の『Interstices / Opus I – Opus II』。風景をデジタル映像として切り出すことで、土地や風景の本質を問う。新しい才能の発掘という側面も強い選出である。
エンターテインメント部門の大賞は、『人喰いの大鷲トリコ』だった。代表の上田文人氏に対する評価はゲーム業界では長らく揺るぎないものである。しかし、それが他の分野でも充分に知られてきたとは言えない。メディア芸術として他ジャンルと並ぶことで、ゲームの中の作家性、芸術性がフォーカスされる。上田氏の受賞挨拶の「普段はゲームをやらない人にも注目して欲しい」とのコメントにもそうした気持ちが現れていた。
マンガ部門の大賞は、池辺葵氏の『ねぇ、ママ』が選ばれた。審査会で大賞を最後まで争ったのが同じ池辺氏の『雑草たちよ 大志を抱け』というから、作家への評価は群を抜いていたといえる。
優秀賞、新人賞を含めて、今年は近年にあった海外作品の受賞はなく、また全体に文学性の高い作品が多く見受けられる。審査委員の門倉紫麻氏は、マンガの世界におけるウェブ作品の広がりに較べてウェブ作品の応募が少なかったとも指摘している。ウェブ作品を含めたジャンルの広げかた、また同人作品、海外作品の取りこみが(取りこむべきか否かも含めて)、今後の課題になりそうだ。
■ 「甲乙つけ難い」、16年ぶりにアニメーション部門大賞にダブル受賞
そして、アニメーション部門は、16年振りのダブル受賞となった。片渕須直監督の『この世界の片隅に』、そして湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』である。大賞2作品は極めて異例だが、アニメーション部門の審査委員の横田正夫氏は、「甲乙つけ難く、こうした結果になった」と説明した。また「見応えのある作品が多かった」とし、近年のアニメーションシーンの盛り上がりも反映したものに見えた。
また湯浅監督は、第8回の『マインドゲーム』、第14回の『四畳半神話体系』に続く3度目の大賞となる。メディア芸術祭全体でも初めての快挙である。2017年に海外でのアワード受賞も相次ぎ、国際的に最も注目される日本のアニメーション監督になった湯浅氏の才能を、いち早く評価したのがメディア芸術祭であったことも示している。
優秀賞は大谷たらふ氏の短編アニメーション『ハルモニア feat. Makoto』、神風動画がアニメーション制作した中編映画『COCOLORS』、そして米国アカデミー賞ノミネートでも注目されたKUWAHATA Ru / Max PORTER両氏の『Negative Space』の3作品。手描きのイラストレーション、CG、ストップモーションと表現方法も多彩である。
新人賞は、フジテレビ「ノイタミナ」で放送されたテレビアニメ『舟を編む』、ロシアのAnastasia MELIKHOVA氏のミュージカルファンタジー『The First Thunder』、そしてフランスのNicolas FONG氏のモノクロームな短編『Yin』となった。
■ バランス感覚でアニメーション全体を見通した 今年のアニメーション部門作品
審査委員に構成によって受賞作品の傾向が変わることが多いメディア芸術祭だが、今回のアニメーション部門の受賞作はオーソドックスな印象が強い。大賞の2作品が傑作であること勿論なのだが、例えば短編の野心的な作品を選ぶこともできたはずだ。多くの人が納得する線を押さえつつ、短編、海外作品、テレビアニメと目配りをし、バランス感が意識されている。
商業性の高い作品、個人作家の作品、大きなスタジオの作品と幅広いジャンルの中からベストを選び出すメディア芸術祭の選考は、もともと難易度の高い作業だ。第21回の選考ではそのなかで微妙なバランスを取りながら、多方面での新しい動きをピックアップすることで納得の出来るものだ。
アニメーション関連では、アニメーション部門以外でも注目される受賞があった。アート部門優秀賞の折笠良氏の『水準原点』は、アニメーション作品として海外で受賞を重ねてきた。
マンガ部門新人賞となった『甘木唯子のツノと愛』の久野遥子氏は、アニメーション作家としてキャリアを重ねてきた。2013年には『Airy Me』でアニメーション部門でも新人賞を受賞している。2部門で新人賞とこちらも話題性たっぷりだ。
こうした状況は、メディアアートのジャンルの曖昧さ、ジャンルに捉われない視点を反映している。さらに近年、アニメーションの世界で活発になっている他ジャンルへの越境と、存在感の拡大の一面かもしれない。
これらの作品は、2018年6月13日から24日まで開催される第21回文化庁メディア芸術祭で体験することが出来る。会場は昨年の東京・新宿から再び六本木の国立新美術館に戻る。
一方会期は、一昨年の2月、昨年の9月から、今年は6月になるので注意したい。近年は開催時期、作品募集期間が一定しないが、こちらは今後の調整を期待した部分だ。
第21回 文化庁メディア芸術祭
http://festival.j-mediaarts.jp/
受賞作品展
2018年6月13日(水)~6月24日(日)
会場: 国立新美術館(東京・六本木) 他
入場料: 無料
[アニメーション部門受賞作]
■ 大賞
『この世界の片隅に』 片渕須直
『夜明け告げるルーのうた』 湯浅政明
■ 優秀賞
『ハルモニア feat. Makoto』 大谷たらふ
『COCOLORS』 「COCOLORS」制作チーム(代表:横嶋 俊久)
『Negative Space』 KUWAHATA Ru / Max PORTER
■ 新人賞
『舟を編む』 黒柳トシマサ
『The First Thunder』 Anastasia MELIKHOVA
『Yin』 Nicolas FONG
■ 審査委員会推薦作品
[劇場映画]
『カラフル忍者いろまき』 小林賢太郎
『きみの声をとどけたい』 伊藤尚往
『劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~』 「響け!」製作委員会(代表:小川太一)
『夜は短し歩けよ乙女』 湯浅政明
『BLAME! 』 瀬下寛之
[テレビシリーズ]
『メイドインアビス』 小島正幸
[短編]
『さらば銀河系』 村上浩
『ノーマン・ザ・スノーマン ~流れ星のふる夜に』 八代健志
『And The Moon Stands Still』 Yulia RUDITSKAYA
『AU REVOIR BALTHAZAR』 Rafael SOMMERHALDER
『Candy.zip』 見里朝希
『Corp. 』Pablo POLLEDRI
『EPIQUE ET PIQUE』 Camille MARISSAL / Mathilde DEBRAY / Yin ZICHENG
『Extrapolate』 Johan RIJPMA
『From the same thread』 Lorène FRIESENBICHLER / Phaedra DERIZIOTI / Rucha DHAYARKAR / Antonia PIÑA
『Gokurosama』 Clémentine FRERE / Aurore GAL / Yukiko MEIGNIEN / Anna MERTZ / Robin MIGLIORELLI / Romain SALVINI
『Hezar Afsan』 Asghar SAFAR / Abbas JALALI YEKTA
『HYBRIDS』 Florian BRAUCH / Matthieu PUJOL / Kim TAILHADES / Yohan THIREAU / Romain 『THIRION』
『JUNK HEAD』 堀貴秀
『Nachtstück』 Anne BREYMANN
『O Matko!』 Paulina ZIOLKOWSKA
『Perfect Town』 Anaïs VOIROL
『RAINBOW』 KANG Heekyung
『Running Lights』 Gediminas SIAULYS
『Sore Eyes for Infinity』 LEE Myeongjae
『To Build a Fire』 Fx GOBY
『Toutes les poupées ne pleurent pas』 Frédérick TREMBLAY
『Ugly』 Nikita DIAKUR