■ 社名から消える“バンダイビジュアル”と“ランティス”
総合エンタテイメント企業のバンダイナムコホールディングス(バンダイナムコHD)は、2月9日に2018年3月期第3四半期決算、そして2018年4月よりスタートする新中期経営計画を発表した。その目玉はグループ企業の統合を含めた組織再編だ。
なかでもアニメ関連事業は大胆に組織を組み替えて、業界関係者の関心を集めている。映像パッケージ会社バンダイビジュアルがアニメ音楽のランティスと合併し、社名を株式会社バンダイナムコアーツに変更する。1989年以来30年近く続いたバンダイビジュアルと、1994年から続くランティスの名称が商号から消えることになる。
新会社の代表取締役社長には現バンダイビジュアル社長の川城和実氏が、代表取締役副社長には現ランティス代表取締役の井上俊次氏が就任する。合併2社の社長による代表取締役二人体制とすることで、音楽やライブのビジネスの重視が窺える。
さらにバンダイビジュアル側から河野聡氏が常務取締役(IPプロデュース本部・IP マネジメント本部担当)、栗田英幸氏(コーポレート本部担当)が取締役に、ランティス側からは松村起代子氏(音楽マネジメント本部担当)、櫻井優香氏(音楽プロデュース本部担当)が取締役となる。またバンダイナムコライブクリエイティブ代表取締役社長の鈴木孝明氏とサンライズ専務取締役に就任する浅沼誠氏が非常勤の取締役となる。
現在も両社の拠点がある東京都渋谷区恵比寿に本社を構える。従業員は約240名。恵比寿からアニメ文化を届ける。
■ 映像・音楽・ライブを軸に新分野や海外も目指す
バンダイビジュアルは、1983年に(株)エィ・イー企画として設立された。その年に世界発のOVA『ダロス』を発売するなど、アニメ映像パッケージの老舗企業だ。アニメの人気拡大に合わせて事業を拡大、アニメ分野を代表するメーカーである。1989年にバンダイビジュアル販売に、1991年からバンダイビジュアルの商号を用いている。2003年の東京証券取引所に上場、2008年にバンダイナムコHDのTOBで上場を廃止した。
一方ランティスは1999年に現社長の井上俊次氏らにより設立された。音楽会社としては中堅だが、アニメ音楽に特化することで、この分野で大きな存在感を持つ。2006年にバンダイビジュアルの子会社となることでバンダイナムコHDのグループ会社となった。
バンダイナムコHDは今回の合併について、映像、音楽、ライブイベントの事業をより一体となって展開するためとしている。新たな会社で映像・音楽・ライブ分野でのNo.1企業グループを目指す。そのために、これまで手掛けていなかったジャンルのライブイベントに進出するほか、国内だけでなく海外展開も視野に入れる。
バンダイナムコアーツは、グループ内の映像・音楽部門の主幹企業を引き続き務める。配信事業のバンダイナムコライツマーケティング、イベント・ライブ事業のバンダイナムコライブクリエイティブなどを統括する。
一方これまで映像・音楽部門だったアニメーション制作のサンライズは、新たにIP クリエイション部門として独立する。作品やキャラクターの創出・制作事業と、映像・音楽さらに配信・ライブといったユーザーに直接接する流通部門の役割を切り分けた。
■ 脱パッケージメーカー、映像・音楽・ライブの総合企業へ
アニメファンにも馴染み深い“バンダイビジュアル”と“ランティス”の名称が社名から消えるのは、業界関係者やファンにとっては驚きだろう。逆にそれだけバンダイナムコHDの今回の改革の決意の大きさを感じさせる。
バンダイビジュアルは、ガンダムシリーズやマクロスシリーズ、攻殻機動隊シリーズなどいくつもの人気シリーズのパッケージを販売している。近年は、『ガールズ&パンツァー』や『ラブライブ!』といった大ヒット作もあり業績は好調だった。
しかし中長期でみた場合は、不安要素は少なくない。主力とするアニメのDVDとBlu‐rayの市場売上げは長期低落傾向にあり、今後の成長は期待できない。作品のライセンスの活用が新たな収益源と考えられるが、ガンダムはサンライズ、マクロスはビッグウエスト、攻殻機動隊は講談社といった企業が中心の作品で、ビジネスの主導権はとれない。
ソニーミュージックグループのアニプレックスや、エイベックス・ピクチャーズといったライバル企業は音楽やライブ、ゲームなどの分野に進出することで業績を伸ばしている。しかしグループ内の事業の重なりや、明確な線引きが出来ていなかったことが、バンダイビジュアルの新分野進出のネックとなっていた。
今回、バンダイビジュアルとランティスがひとつの会社となることで、映像・音楽ビジネスの戦略がすっきりとする。バンダイビジュアルは脱映像ソフトメーカーを明確にし、ランティスにとってはバンダイビジュアルの得意とするマーケティング力、宣伝力、流通力がさらに活用できる。またサンライズの役割をIP創出として、これまでより切り分けを明確にした。
大きな賭けにはなるが、新たな体制が成功すればさらなる成長につながるに違いない。