世界最大のアニメーション映画祭の意外な素顔:アヌシー国際アニメーション映画祭の戦略(前編)

『バケモノの子』野外上映会

Ⅰ アヌシー国際アニメーション映画祭、その役割

■ アートから映画、TV、ビジネス、テクノロジーまで、世界最大のアニメーション映画祭の意外な素顔

2016年6月12日から17日まで、ヨーロッパのアルプスの麓にある小さな町フランス・アヌシーに世界各国からアニメーション関係者が集まった。彼らが目指したのは、当地で開催されたアヌシー国際アニメーション映画祭(Annecy International Animated Film Festival and Market)である。会場で姿を見せた中には、アメリカのドリームワークス・アニメーションSKGの最高経営責任者ジェフリー・カッツェンバーグ、ハリウッドの大物監督・プロデューサーのギレルモ・デル・トロ、英国アードマン・アニメーションズの創業者ピーター・ロードとデイビッド・スプロクストンの二人、この夏の話題の映画『ファインディング・ドリー』のアンドリュー・スタントン監督らの錚々たる顔ぶれが並ぶ。さらに期間中は、フランスのオランド大統領が現地を訪れて、内外のアニメーション関係者との交流を深めた。
華々しい話題は、多くの人がアニメーション映画祭に持っている「芸術性の高いアニメーションの上映とコンペティション」といったイメージを覆すかもしれない。実際に、1960年代初めに始まったアヌシーは、長年そうした場所だった。しかし、近年、その様相を大きく変えている。グローバルのアニメーションシーンを反映する場所になっているのだ。
それが広島、オタワ、ザクレブと並ぶ世界四大アニメーション映画祭のひとつとされたアヌシーを、いまや別格、突出した存在にまで引き上げた。

ここで2016年の映画祭の内容を、振り返ってみよう。公式サイトを確認すると、大まかに3つの領域に分かれていることがわかる。

  1. フェスティバル(映画祭)
  2. ミーティング
  3. MIFA(アニメーション見本市)

である。

フェスティバルは、映画祭そのものだ。受賞作が話題になるコンペティションは、「短編」「長編」「テレビ番組」「広告(受託作品)」「学生」の5部門に各国から作品が集まる。約2600本ものエントリーから選ばれたおよそ200作品がアワードを競う。期間中の上映が500回以上は、世界最大規模。アヌシーの顔でもあり、中心に位置する。
スタジオジブリが製作参加した『レッドタートル ある島の物語』のオープニングや『ペット』ワールドプレミアもあった招待上映作品、市民に向けた野外上映もある。さらに特集上映企画や展覧会、サイン会もここに入る。

MIFAはアニメーションの国際見本市である。各国企業・団体の展示ブースに目を奪われがちだが、実際には企画のプレゼンテーションやシンポジウム、コミュニケーション&トーク、記者会見、リクルートなど様々な機能から構成されている。テクノロジーもそのひとつだ。2016年には特集企画のひとつをVirtual Reality(VR)とした。いくつもの講演と実演が設けられた。最新の動向を追う、映画祭の心意気が表れている。
2016年のMIFAの登録参加者は前年比4.5%増の2800人。12年連続の増加で過去最高だ。アニメーションの芸術面を支えるのが映画祭であるならば、ビジネス面を支えるのがMIFAである。
アニメーションに限らず、近年、世界の国際映画祭では併設見本市を強化する動きが広がっている。映画祭が持つ、国際的なネットワーク、集客力をビジネスに変え、地域経済の活性化につなげようというものだ。映画祭は単なるお祭りではなく、ビジネス機能を持つ場に変わりつつある。しかし、一般映画祭も含めて、その機能を十分果たしているケースはまだ多くない。アヌシーはアニメーション映画祭で唯一、それに成功し、それにゆえに特別なのだ。

ミーティングは人材交流・情報交換の場だ。基調講演を中心に、巨匠のクリエティブの紹介、制作過程にある話題作を紹介する「ワーク・イン・プログレス(Work in Progress)」、制作の実際を披露する「メイキング・オブ(Making of)」など多彩だ。今年は、ワーク・イン・プログレスに、2016年秋公開される日本の『この世界の片隅に』も登場して大盛況だった。制作中の作品の反応を確かめることの出来る場所にもなっている。
アヌシーで最も重要な機能は交流にある。ビジネスミーティング、映画祭や各国機関が開催するパーティー、何気ないランチやディナーも含めて、様々な国境を越えたコミュニケーションが行われる。デジタル時代になっても、結局は実際に人と会うことでプロジェクトは動き出す。作品の作り手、スタジオ、プロデューサー、放送局から映画会社、さらに業界を目指す若手まで、様々な人が集まることがアヌシーの強みになっている。夏の一週間、ここに来ればあらゆる最新の情報が手に入る。それがアヌシー国際アニメーション映画祭なのである。

中編 http://animationbusiness.info/archives/1686
後編 http://animationbusiness.info/archives/1706

アヌシー国際アニメーション映画祭
Festival International du Film d’Animation d’Annecy

http://www.annecy.org/home/

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