東北新社に投資ファンドがTOBと非公開化を提案、検討委員会設置

ファイナンス決算

 2024年7月24日、東北新社はシンガポールに拠点を持つ投資会社3D Investment Partners (3Dインベストメント・パートナーズ)より株式非公開化を前提にした公開買付(TOB)の提案を受けたと明らかにした。3Dインベストメントの提案では、まず3DインベストメントがM&Aを目的としたSPC(特別目的会社)を設立し、東北新社への公開買付を実施、そのうえで少数株主の株式を買い取って非上場化する。非公開企業として企業価値の向上を目指すとの流れだ。
 東北新社は今回の提案を「真摯な買収提案」に該当する可能性が高いとして、特別委員会を設置のうえ検討するとした。特別委員会は、東北新社の取締役会、支配株主である植村久子氏、3Dインベストメントのいずれからも独立した社外取締役5名から構成される。

 東北新社は1961年に植村伴次郎により洋画吹替え・配給会社として設立された。その後、CM制作に進出することで事業を拡大した。CM・プロモーション映像分野ではAOI TYOホールディングスと並ぶ業界2強の一角となっている。
 長年、番組制作もしている。VFX制作のオムニバス・ジャパンが子会社にあり、特撮シリーズ「牙狼<ガロ>」のヒット作がある。アニメでは劇場映画『機動警察パトレイバー』、『勇者ライディーン』、『魔法陣グルグル』といった代表作がある。宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』にも製作出資する。
 2024年7月24日の段階で、東北新社の時価総額は792億円。2024年3月期の売上高は528億円、営業利益は26億円となっている。業績は安定しているが逆に事業成長では伸び悩んでいるとも言え、今回3Dインベストメントにはその部分を指摘された。

 3Dインベストメントは2015年にシンガポールで設立された投資ファンドで、日本企業にフォーカスして投資している。まず該当企業の株式取得をし、経営改善の提案通じて企業価値を高めたうえで利益を得る。これまでに東芝やワコール、富士ソフト、サッポロなどに出資し、今回と同様の株主提案などをしてきた。
 東北新社の株式は2023年初頭より取得開始したと見られ、2024年3月末には保有比率は18%弱になっている。

 3Dインベストメントは公開買付けに先立って、今年4月、6月に東北新社の企業価値向上施策を発表している。このなかには「放送事業からの撤退」、「IP・コンテンツ事業への積極投資」、「広告事業の強化」、「海外系動画配信に向けた映画・ドラマ・アニメの強化」の4点が言及された。東北新社は6月に「スターチャンネル」運営会社の全株式をジャパネットブロードキャスティングに売却している。
 アニメ事業では、アニメーション制作会社買収や外部アニメプロデューサーの引き抜きによる制作進出を通じた強化が提案されている。これについて東北新社はアニメーション制作会社は厳しい業界環境にあることを挙げ、 M&Aはリスクが高く、収益に対する合理性が低いとの見解を示していた。3Dインベストメント主導でTOBが進められれば、こうした立場が変化する可能性もある。

 東北新社が3Dインベストメントの提案を受け入れるかは未知数だ。3Dインベストメントの掲げる成長戦略は現在の東北新社の方向性と重なる部分もあるが、このように相違も大きい。
 仮に提案を拒否した場合、3Dインベストメントが友好的買収から敵対的買収に転じる可能性もないわけではない。しかし現在の株主構成では創業者一族とその資産管理会社が株式の大半を保有している。創業者一族の判断が大きな鍵を握りそうだ。

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